artscapeレビュー

建築に関するレビュー/プレビュー

模型世界──探求するかたちの蒐集──

会期:2017/09/29~2017/10/13

東北大学トンチクギャラリー[宮城県]

東北大の五十嵐研による「模型世界」展がスタートした。昨年の「先史のかたち」展では縄文土器を渦状に並べたが、今回は模型をテーマに多分野のコレクションを借り、屏風を共通モチーフとしながら、それぞれの展示物にふさわしいオリジナルの什器を制作し、現代における驚異の部屋を演出した。今回、アーティスト枠としては、宮城大の建築家、中田千彦による連作の模型も参加している。各ジャンルの作品解説やコラムを収録した「模型世界」展のカタログでは、1冊の本なのだが、四種類のページの開き方がある特殊な製本に挑戦した。せんだいスクール・オブ・デザインで制作した「S-meme」の実験と同様、紙ならではの読書をデザインしたものだ。また日本電気硝子が協賛した見えないガラスを一部の什器で用いたが、本当に映り込みがなく、目の前にガラスがないかのような視覚体験に多くの来場者が驚いていた。

写真:上=会場風景 中=中田千彦の模型 下=見えないガラスを用いた展示

2017/09/30(土)(五十嵐太郎)

窓学10周年記念 窓学展「窓から見える世界」オープニングトークイベント

会期:2017/09/28

スパイラルカフェ(スパイラル1F)[東京都]

窓学展のオープニング・トークの司会をつとめた。今回、窓の物語学で参加している原広司は、ラテン・アメリカの想像力の系譜をたどりつつ、レアンドロ・エルリッヒの登場から、シュルレアリスムを夜の夢(無意識)と白昼夢(論理的)に分ける視点を提出し、彼は後者だと論じる。レアンドロは、ヒッチコックの映画『裏窓』をモチーフにした初期の作品から、「窓と梯子」のシリーズまで、自作から窓関係のものを紹介した。なお、スパイラルの新作は、かつて青山にあったかもしれない近代の看板建築的なイメージを重ねている。2人とも、物語に影響されて作品を制作するというよりも、まさに物語と同様に建築やアートをつくっていることが興味深い。

2017/09/28(木)(五十嵐太郎)

窓学10周年記念 窓学展「窓から見える世界」

会期:2017/09/28~2017/10/09

スパイラルガーデン(スパイラル1F)[東京都]

青山のスパイラルにて、筆者が監修した窓学10周年記念展がオープンした。内容は二部構成になっており、ひとつはこれまでの10年のリサーチの成果から、小玉祐一郎、五十嵐、中谷礼仁、村松伸+六角美留、佐藤浩司、塚本由晴の研究展示である。もうひとつは、窓に触発された新作を発表するレアンドロ・エルリッヒ、ホンマタカシ、鎌田友介による現代アートだ。会場がせっかくのスパイラルなので、ただの研究発表とせず、窓に関係する現代アートを軸にしながら、研究の展示という形式に挑戦し、建築以外の人も楽しめるような内容を目指した。最終的には入場者が1万5千人を超え、大盛況となったのも、アートの力が大きかったと思われる。

写真:上=研究室展示 左中=レアンドロ・エルリッヒ 右中=ホンマタカシ 下=鎌田友介

2017/09/27(水)(五十嵐太郎)

安藤忠雄展ー挑戦ー

会期:2017/09/27~2017/12/18

国立新美術館[東京都]

建築家・安藤忠雄の約半世紀におよぶ仕事を振り返る回顧展。導入部では通路状の細長い空間に《住吉の長屋》をはじめとする初期の住宅作品を並べ、突き当たりを左折して大きな展示空間に出ると、世界中に展開する代表作の図面やスケッチ、マケット、写真などを群島のように点在させている。細長いギャラリーを見てから大空間に出るという会場構成は、昨年の三宅一生展と基本的に同じだ。そういえば美術館は違うが、東京国立近代美術館の「日本の家」展も似たような構成だった。最近の流行なのか。余談だが、新美術館の近くの三宅一生がディレクターを務める21_21デザインサイトも安藤忠雄の設計。じつは21_21の裏に磯崎新アトリエがあり、磯崎はこの時期もう少し奥のミッドタウンの庭園で、アニッシュ・カプーアとコラボした巨大な風船のコンサートホール《アーク・ノヴァ》を膨らませていた。
さて、今日はプレス内覧会。大空間の中央にドームがあって、そのなかで直島のアートプロジェクトを紹介しているらしいが、安藤本人がこのドームの入口で解説することになっているため、内部に入れず。しばらく待ったが、「もうすぐ来ます」と最初にアナウンスがあってから本人が登場するまで30分くらいかかったか。スターだね。ともあれ、この直島のプロジェクトや、ヴェネツィアのパラッツォ・グラッシとプンタ・デラ・ドガーナの改装計画、中之島を中心とする都市再生プロジェクトなど見どころは多いが、全部省略して、野外展示場に実物大で再現した「光の教会」に触れておきたい。
建築展でいつも気になるのは、どれも設計図や模型、完成写真ばかりで実物が見られない、体験できないこと。そこに絵画や彫刻の展覧会との決定的な違いがあり、建築展がはらむ本来的な矛盾がある。逆に図面などから実物を想像するという建築展ならではの楽しみもあるのだが、先ほどの東近の「日本の家」展における《斎藤助教授の家》のように、最近は建物を原寸で再現する例が増えているのも事実。もちろん実物大で再現といってもせいぜい1軒だけだし、部分的に省略されているし、なにより建ってる場所や周囲の環境が決定的に異なるが、それでも建築内部を体験するには役立つ。問題は家1軒を建てるのだから金とテマヒマがかかること。コンクリートづくりの「光の教会」はじつに7000万円かかったという。本人いわく「厄介なことに、展示ではなく増築に当たるということで作業も建設費も余分にかかった」(朝日新聞、10月9日)。作品の展示ではなく、美術館の増築と位置づけられたらしい。しかもそれが「全部自前」というから驚く。国立美術館で個展を開くには作家が金を出さなければならないようだ。

2017/09/26(火)(村田真)

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《聖ミクラーシュ教会》

[チェコ、プラハ]

ディーツェンホーファーが設計した《聖ミクラーシュ教会》は、東欧ゆえに、逸脱が激しいバロック建築である。一部修復中のためか、今回は上階も上がることができ、単眼鏡で天井近くの細部を観察した。おかげで、石材、木材、漆喰、絵画の空間イリュージョンという四種類の仕上げで、精度のレベルを巧みに使い分けしていることが確認できる。同じバロックでも、ボロミーニは精密だけど、結局、ここまで巨大な空間をつくらなかった。またサンティーニは東欧の片田舎できわめて独創的な形態ながらも、低予算で仕上げに難ありの作品を手がけている。これらと比べることで、大都市のプラハでディーツェンホーファーがなしえた教会建築の意味がだいぶわかった。

2017/09/20(水)(五十嵐太郎)