artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
石橋義正『ミロクローゼ』
会期:2012/11/24より劇場公開
テアトル梅田[大阪府]
登場人物がすべてマネキンのショートドラマ『オー!マイキー』で知られる石橋義正監督、山田孝之主演の『ミロクローゼ』の試写会。3つのラブストーリーで構成されているのだが、それぞれの物語は、少しずつ時空が重なりながら展開し、ひとつの長編ドラマをつくっている。カット割りがテンポ良くリズミカルで、畳み掛けるようなセリフや物語のスピード感とそれがピタリと止む“まったり”感のメリハリも、一人で三役を演じ分ける山田孝之の見事な演技も、ポップなヴィジュアルイメージやファッションも刺激的。石橋義正ワールド炸裂といった感のある見どころの多い映画だ。この日は監督の舞台挨拶もあったのだが、構想から公開までには8年近く、(関西での)公開までには10年近くも年月がかかったとのこと。『オー!マイキー』のファンでなくても楽しめる映画。11月24日から劇場公開される。
2012/10/18(木)(酒井千穂)
初沢亜利「Modernism 2011-2021 東北・東京・北朝鮮」
会期:2012/10/04~2012/10/30
東京画廊+BTAP[東京都]
初沢亜利のような写真家について論じるのはむずかしい。彼の撮影のポジションは、「東北・東京・北朝鮮」という今回の展示の撮影場所を見てもわかるようにフォト・ジャーナリストのそれと重なりあう。実質的なデビュー作の「Baghdad2003」は、イラク戦争下のバグダッドで撮影されたものだった。
だが、今回の展示場所が現代美術を主に扱うギャラリーであることを見てもわかるように、作品の発表の仕方は従来のフォト・ジャーナリズムの枠にはおさまらず、そこからはみ出してしまう。初沢のようなタイプの写真家は彼ひとりではなく、かなり増えてきている。アート、報道、コマーシャルといった慣れ親しんだ写真のジャンル分けが、完全に解体しはじめていることのあらわれとも言えそうだ。
今回の「Modernism 2011-2021 東北・東京・北朝鮮」は、彼が覚悟を決めて撮影した意欲作である。震災直後の2011年3月12日から東北各地の被災現場を撮影しながら、初沢は前後4回にわたって北朝鮮に渡った。その合間に、彼のベースキャンプとでも言うべき東京も撮影し続けていた。展示された写真には、母親の葬儀の光景のようなプライヴェートな場面も登場する。そこに添えられた「Modernism」という言葉に、初沢の批評意識を見ることができるだろう。つまり19世紀以来営々と気づき上げられてきた「モダン」の枠組が、今や至るところで破綻しつつあり、彼が選んだ三カ所はまさにその最前線と言うべき場所なのだ。
写真を見ているうちに、それらの場所がどこか似通っているように感じてくる。東京はもちろん、東北の被災地や北朝鮮ですらも、消費文化の影に覆い尽くされている。90枚の大四つ切サイズの写真を2段に、アトランダムに並べた写真構成がうまく効いているのだが、このような展示は諸刃の刃のように思えてならない。観客の意識が、それぞれの写真がどこで撮られたのかを確認することに集中してしまい、それ以上深みへと広がっていかないからだ。キャプションをすべて排除したことも含めて、この連作の見せ方にはさらなる工夫が必要なのではないだろうか。
なお、今回の展示のうち「東北」のパートはすでに写真集『True Feelings 爪痕の真情。』(三栄書房)として刊行されている。「北朝鮮」のパートも11月中に写真集『隣人』(徳間書店)として刊行予定だ。これらの写真集をあわせて見ることで、彼の作品世界の広がりを確かめることができるはずだ。
2012/10/16(火)(飯沢耕太郎)
磯部昭子「U r so beautiful」
会期:2012/10/15~2012/11/01
ガーディアン・ガーデン[東京都]
リクルート主催の「1_WALL」展(前身は「写真ひとつぼ展」)やキヤノン主催の「写真新世紀」のような、主に若い写真家たちを対象にしたコンペで、広告写真やファッション写真のジャンルに属する仕事をする写真家が賞をとることはめったにない。日本は比較的アートとコマーシャルの間の境界線が緩やかな国のひとつだが、それでも表現領域の違いというのは厳然としてあるようだ。その意味で、「写真ひとつぼ展」の入選者(グランプリ受賞者を除く)から選出されて、あらためて作品を展示する「The Second Stage」という枠で個展を開催した磯部昭子は、やや特異な例と言えそうだ。
むろん、今回の「U r so beautiful」の展示を見ても、一概に磯部の作品をコマーシャル的と決めつけることはできないのではないかと思う。ただ、やや奇妙な風貌の人物たち、スタイリッシュなオブジェを、自動車のヘッドライトのような人工光で照らし出すという手法そのものが、どう見てもファッション写真ぽいと言えるし、彼女の経歴や活動の基盤がコマーシャル・フォトであることはまぎれもない事実だ。むしろそのことが、ガチガチに凝り固まったシリアス・フォトにはない遊び心、発想の飛躍を生んでいるのではないだろうか。特に面白かったのは、脚や手など身体の一部をクローズアップして、他のオブジェとコラージュするように構成した一連の作品。そこには、日常のなかに非日常が紛れこむ、「等身大の虚構の構築」とでも言うべきユニークな作風が芽生えはじめているように感じた。
2012/10/16(火)(飯沢耕太郎)
篠山紀信 展「写真力」
会期:2012/10/03~2012/12/24
東京オペラシティアートギャラリー[東京都]
美空ひばり、三島由紀夫、きんさんぎんさん、山口百恵、長嶋茂雄、AKB48、ジョン・レノン、宮沢りえ、歌舞伎、ディズニーランド、大相撲……。もうメジャーしか撮らない。メジャーをメジャーにしか撮らない。と思ったら、最後に東日本大震災の被災者たちのポートレートがあった。さすがに東日本大震災くらいメジャーになると撮ってみたくなるのか。でもそこは控えめにモノクロで。アッパレというしかない。
2012/10/16(火)(村田真)
坂本夏子 新作展「Still Life」
会期:2012/10/11~2012/11/10
ケンジタキギャラリー/東京[東京都]
坂本夏子というと、遠近法的にちょっと歪んだ格子状の空間に数人の人物がいる絵(と書いて河原温の「浴室」シリーズを思い出した)の人かと思ったら、今回は違った。暗い背景に青灰色で不定形のイメージをザワザワと描いている。風景にも群像にも静物にも見えるがそのいずれでもなく、かといって抽象と呼ぶにはモノの気配が残る。タイトルは「Still Life」なので静物に基づいたイメージなのだろう。以前よりいちだん深みに入り込んだ印象があるが、これは深化(進化)なのかどうか。
2012/10/16(火)(村田真)