artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
西野達《中之島ホテル》(おおさかカンヴァス推進事業)

会期:2012/10/13~2012/10/21
中之島公園、大阪府立中之島図書館、大阪府立江之子島文化芸術創造センター、千里ニュータウン周辺他[大阪府]
2010年からはじまったおおさかカンヴァス推進事業は、大阪のまち全体を「カンヴァス」に見立てるというアーティストと公共空間のコラボレーションプロジェクトで、会期中は各開催会場でユニークな展示やイベントが行なわれていた。この日は先に訪れた中之島図書館の谷澤紗和子展と、中之島公園内のバラ園にある公衆トイレを実際に宿泊できるホテルにした西野達の作品《中之島ホテル》の二つのみを見ることができた。《中之島ホテル》は会期前から私の周囲でも話題になっていたのだが、行ってみると実際にフロントもあり、スタッフもいて、部屋も想像以上に“ちゃんとした”ホテル空間になっていたので吃驚!たしかにここなら私も泊まってみたい。帰りにふと、公衆電話ボックスでスーパーマンのコスチュームに着替えるアニメのキャラクターを思い出したのだが、公共空間、しかも公衆トイレをプライベートルームとして体験したこの宿泊者の感想が聞いてみたいところ。

左=《中之島ホテル》室内
右=同、フロント
2012/10/14(日)(酒井千穂)
/ミンハメグリ 光で紡がれる物語──谷澤紗和子(おおさかカンヴァス推進事業)

会期:2012/10/13~2012/10/27
大阪府立中之島図書館[大阪府]
大阪府立中之島図書館では、谷澤紗和子が「おおさかカンヴァス推進事業2012」選出作品《ミンハメグリ》を発表していたので、国立国際美術館の帰りに足をのばした。近代建築の重厚な佇まいも雰囲気のある図書館の、中央階段ホールと2階の文芸ホールに展示された作品は、大阪にまつわる民話や古典文学をテーマにした切り絵の大作。「鉢かづき姫」や「一寸法師」、「あみだ池のたぬき」といった、いまも親しまれているさまざまな大阪の民話や物語からインスパイアされ、独自のイメージに切り出した図像は、壁面や床に投影されて広がる影にもなんとも怪し気な魅力があり、それがゆらゆらと揺れる様子も幻想的。少し不気味でドリーミーな切り絵のモチーフが会場の古い趣きに素晴らしく似合っていたのが印象的。素敵な展示だった。

中央階段ホールの展示

文芸ホールの展示
2012/10/14(日)(酒井千穂)
宮永愛子「なかそら」

会期:2012/10/13~2012/12/24
国立国際美術館[大阪府]
国立国際美術館で宮永愛子の個展がはじまった。4つのセクションで構成された会場に、新作と近年発表された計6点の作品が展示されている。時計、食器など、身近にあるさまざまな生活道具をナフタリンでかたどった作品が、透明のアクリルケースにずらりと並ぶスペースにはじまる今展は、真っ暗ななかに蝶やハシゴをモチーフにした作品が並び幻想的な白い光に照らし出されている空間、何万枚ものキンモクセイの葉の葉脈だけを残し、つなげて巨大なシート状の一枚に仕立てたオブジェが天井から床へと広がるインスタレーションと続く。どの展示空間も美しく、繊細な印象の作品も多いが、それらは脆く儚げなイメージだけでなく、力強い逞しさを感じさせるのも素敵だ。移ろう世界のあらゆるものごとのただなかには自分の存在もあることをぼんやりと思いながら見てまわった。会期は長い。できるなら何度でも足を運びたい展覧会。
2012/10/14(日)(酒井千穂)
ニューアート展 NEXT 2012「動く絵、描かれる時間:ファンタスマゴリア」

会期:2012/09/28~2012/10/17
横浜市民ギャラリー[神奈川県]
いつ「今日の作家展」が終わって「ニューアート展」になって、いつから尻に「NEXT」がついたのかウヤムヤだが、どうやらギャラリーの入ってるビル解体のためこの企画展自体ウヤムヤに消滅しちゃうかもしれないとのウワサも。いずれにせよ関内駅前では最後の「ニューアート展 NEXT」ということで、今回はかなり思いきった企画。なにが思いきったかって、まずタイトルのように絵が動くこと。いや、絵が動くのは最近では当たり前で、むしろ動かない絵に驚く人が増えたことに驚く。次に思いきったのは、出品作家がシムラブロスと金澤麻由子のたった2組なこと。これは予算上の都合だろうけど、2組だとつい対比して見てしまう。そこで実際に対比して見ると、映画を構成する光、物質、時間といった要素を問い直し再構築しようとするコンセプチュアルなシムラの映像インスタレーションと、観客が触れることでメルヘンチックな手描きアニメが動く金澤のインタラクティブな映像とでは、あまりに方向性が違いすぎないか。まあ「動く絵」の多様性を示すにはいいのかもしれないが、もう1組くらいほしかったなあ。
2012/10/14(日)(村田真)
3.11とアーティスト:進行形の記録

会期:2012/10/13~2012/12/09
水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]
アーティストは東日本大震災にどのように反応して行動したのか。本展は、23組のアーティストが現地で繰り広げた、あるいは現在も進行している諸活動を、あの日から現在までの時間軸に沿って紹介したもの。
加藤翼のインスタレーションがあまりにも粗雑であり、開発好明の《デイリリーアートサーカス》を招聘した反面、ラディカルな《政治家の家》を展示に含めないなど、難点がないわけではない。とはいえ全体的には見応えのある展示で、一つひとつの「活動」をていねいに見ていきたくなる。
ひとくちに「活動」と言っても、そのかたちはじつにさまざま。作品として結実させたものもあれば、それ以前の段階をそのまま見せたものもある。悲劇に寄り添う作品もあれば、復興のエンパワーメントを志す作品もある。それらのなかに「正解」があるわけがないのは明らかだが、ひときわ注目したのはタノタイガである。
被災地で瓦礫撤去のボランティアに参加するプロジェクト「タノンテイア」を組織している。会場には、その記録映像のほか、使用した作業着、道具、そして瓦礫のなかから拾い集めた数々のモノが展示された。作業着やワニなどの置物などに残された泥が津波の衝撃や過酷な作業を物語っているが、これらをボランティアの活動報告として受け取ることはできるにしても、アートとして見ることはなかなか難しい。
むろんかき集めた泥を詰めた土嚢を美しく積み上げた「タノミッド」にアーティストならではの才覚を見出すことはできなくはない。けれども、タノタイガはアートから意識的に距離を取ることをあえて選択していたようだ。会場で発表されたのは、「アーティストが今できること。それはアーティストであることを捨てること。無名になって、誰かの生のために汗を流すこと。涙ではなく汗を」という決意の表われにほかならなかった。
それが「記録」なのか「作品」なのかはさほど重要ではない。問題なのは、あの震災がアーティストという強力なアイデンティティを無名性に還元したという事実である。そして、そのある種のタブラ・ラーサから、再び表現を組み立て直そうともがいているアーティストがいるという事実である。だからタノタイガが実践しているのは、被災地の復興への尽力であると同時に、アートそのものの復興でもあるのではないか。この危機をくぐり抜けたアーティストが今後どんなアートを立ち上げるのか、注目したい。
311と815は私たちの暮らしや文化に決定的な打撃を与えた歴史的な事件である。だが、その出来事をひとつの問題として共有する経験は、放射能汚染に対する危機感が東日本と西日本のあいだではっきりと分断されているように、もしかしたら311は815より乏しいのかもしれない。その経験に厚みを持たせる機会として、本展を活用してほしい。
2012/10/14(日)(福住廉)


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