artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:アブストラと12人の芸術家

会期:2012/11/11~2012/12/16

大同倉庫[京都府]

“現代の美術における抽象とは何か”を問う自主企画展。1950年代のアメリカで抽象表現主義が隆盛して以来、今日までその延長線上で抽象が語られてきた。しかし、昨年の震災以来価値観の根幹が揺らいでいる現在の日本において、抽象を改めて問い直す必要があるのではないか。本展にはそんな問いかけが込められている。出品作家は、荒川医、金氏徹平、菅かおる、国谷隆志、小泉明郎、立花博司、田中和人、田中秀和、中屋敷智生、南川史門、三宅砂織、八木良太の12名。既成の展示空間を使うのではなく、倉庫を改装したスペースを自分たちでつくり上げているのも興味深い。

2012/10/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:開館記念展I 横尾忠則 展 反反復復反復

会期:2012/11/03~2013/02/17

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

美術家の横尾忠則が兵庫県に寄贈・寄託した3,000点以上もの作品と膨大な資料を収蔵する「横尾忠則現代美術館」が、11月3日にいよいよ開館する。場所は原田の森ギャラリー(旧兵庫県立近代美術館)の西館で、村野藤吾設計のモダン建築が美術館として復活するのも嬉しいニュースだ。二つの展示室に加え横尾の資料を保存・調査するアーカイブルームを備えた同館だけに、活動の中心が横尾の個展となるのは当然である。しかし、将来的には他の企画展も行なって、兵庫県の現代美術の拠点になってほしい。開館記念展は「反復」をテーマにしたもの。横尾作品に見られる同一モチーフの反復や模写を通して、美術界のオリジナル神話を問う内容となる。

2012/10/20(土)(小吹隆文)

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大竹昭子「Gaze+Wonder NY1980」

会期:2012/10/19~2012/10/27

ギャラリーときの忘れもの[東京都]

実は今回展示された大竹昭子のニューヨークの写真には、個人的な思い出がある。1981年に彼女が帰国した直後に、共通の知り合いの家でプリントをまとめて見せてもらったことがあるのだ。今となっては記憶もかなり薄れてしまったが、冬のニューヨークの寒々とした、ざらついた空気感が、モノクロームのプリントに刻みつけられていたことを覚えている。その後の大竹のエッセイ、紀行文、小説、評論などさまざまな領域にわたる活躍ぶりはよく知られている通りだ。写真評論の分野でも『彼らが写真を手にした切実さ──《日本写真》の50年』(平凡社、2011)など、いい仕事がたくさんある。そんな大竹が、満を持して1980~81年のニューヨーク滞在時の写真を出してきたということには、やはり表現者としての自分自身の原点を確認したいという思いがあったのではないだろうか。
今回展示されたのは、41×50.8cmのサイズの大判プリントが15点と、すでにポートフォリオとして刊行されている20.3×25.4cmサイズのプリントが12点である。両者に共通しているのは、人影がほとんどない路上の光景が多いことで、被写体との距離のとり方に、当時の大竹のあえて孤独を身に纏うような姿勢が投影されているように感じる。被写体に媚びることなく、カメラを正対させて風景の「面」を正確に写しとろうとする、そのやり方はその後の大竹の文章の仕事にも踏襲されていくものだ。どこか禍々しい気配が漂う犬の姿が目立つのも特徴のひとつで、路上で犬を見かけると本能的にシャッターを切っている様子がうかがえる。人よりも犬に親しみを覚えるような風情も、ニューヨークのダウンタウンのソリッドな光景によく似あっている。いい展示だった。なお、展覧会にあわせて、写真とエッセイをおさめた『NY1980』(赤々舎、2012)も刊行されている。

2012/10/19(金)(飯沢耕太郎)

巖谷國士/桑原弘明「窓からの眺め」

会期:2012/10/06~2012/10/28

LIBRAIRIE6[東京都]

フランス文学者でシュルレアリスムの研究家としても知られる巖谷國士にとって、写真は余技に思える。だが個展も5回目ということで、もはやその域は超えていると言うべきだろう。というより、巌谷のような多彩な領域に関心のある作家にとっては、写真もシリアスな仕事として取り組んでいることが、作品から充分に伝わってきた。今回のスコープ・オブジェ作家の桑原弘明との二人展を見ると、何をどのように撮るのかという写真家としての「眼」が、揺るぎなくでき上がっているのがわかる。
展示では、1990年代以降に撮影された旧作と、今年になって集中して撮影したという新作が両方並んでいた。どちらかと言えばパリ、ヴェネツィア、パレルモ、ジェノバ、プザンソンなど、ヨーロッパ各地を旅しながら撮影した新作の方に、彼ののびやかな心の動きがそのまま写り込んでいるような楽しさを感じた。写っているのはタイトル通り「窓からの眺め」が多い。丸、あるいは四角で区切られた眺めが、繊細な手つきで、あたかも箱の中に封じ込められた小宇宙のように捉えられている。特に桑原がセレクトしたという、ポストカードほどの大きさの小さな写真がまとめて並んでいる一角は、互いの作品が響きあって心地よいハーモニーを奏でていた。
風景やインテリアの写真が多いのだが、2点だけ街頭のスナップショットがあって、それがまたよかった。旧作ではあるが、特にバイヨンヌで1990年代に撮影された「縄跳びの少女」の写真が素晴らしい。二人の少女たちがつくる縄跳びの輪の中に、ふっと誘い込まれそうな気がしてくる。巖谷にはぜひ写真の仕事を続けていってほしいものだ。

2012/10/19(金)(飯沢耕太郎)

中谷ミチコ展「ドローイング2007-2012」

会期:2012/10/18~2012/11/25

MZ arts[神奈川県]

横浜・日ノ出町にオープンしたMZアーツ。井田照一に続く第2弾の中谷は、人物や動物のレリーフや逆レリーフ(浮き彫りならぬ「沈み彫り」)作品で最近注目を集める若手アーティスト。今回はレリーフではなく、ここ5年ほどのドローイングを集めた展示。20代の5年間というともう少し起伏や変化があってよさそうなものだが、彼女の場合どれも高水準を保っていて「うまい」と感じさせる。価格も安いせいかけっこう売れていた。

2012/10/19(金)(村田真)