artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

倉本隆之 展

会期:2012/10/16~2012/10/21

アートスペース虹[京都府]

福岡県を拠点に地元や東京で個展を行なっている倉本隆之が、関西初個展を開催した。彼の作品は、人体や頭蓋骨などのモチーフを円形の集積で表現していることと、ラメ入り絵具を厚塗りしてキラキラした盛り上がりのある画面をつくっているのが特徴だ。目がハレーションを起こしそうな画面にはトリップ感があり、独自の絵画世界をつくり上げていた。今回は小品が多かったが、特大サイズの作品をつくったらきっと見応えがあるだろう。できれば今後も関西での発表を続けてほしい。

2012/10/16(火)(小吹隆文)

羽毛田優子 展

会期:2012/10/16~2012/10/28

ギャラリーマロニエ[京都府]

羽毛田優子は“滲み”をテーマにした染色作品で知られる作家だ。私が過去に見た作品は孔雀の羽のような極彩色だったが、本展では一転してモノトーンの作品が並んでいた。本人に尋ねたところ、一時期色数の多い作品を制作していたが、もともとはモノトーンの作品を制作していたとのこと。また、大半の作品が軸装されていたのも本展の特徴である。作品の幽玄な雰囲気は掛軸と相性がよく、筆者もこの方法に賛成だ。また、軸装は搬入出が容易で、購入後もコンパクトに収納できる。自身の作品を幅広い層に認めてもらうには有効な手段と言えるだろう。

2012/10/16(火)(小吹隆文)

畠山直哉『気仙川』

発行所:河出書房新社

発行日:2012年9月30日

本書の刊行前に見本を送っていただいた。それをざっと眺めて、とてもよく練り上げられたいい写真集だと思ったのだが、そのままページを閉じてしまった。写真をじっくりと見て、そこに添えられたテキストを読むことに、ある種の畏れとためらいを感じてしまったからだ。
なぜ、そんなふうに感じたのかといえば、言うまでもなく本書の成り立ちについて、あらかじめ知る立場にいたからだ。畠山直哉の実家がある岩手県陸前高田市気仙町は、東日本大震災が引き起こした大津波で大きな被害を受けた。実家は津波で流失し、母親は遺体で見つかった。その一連の出来事を受けとめ、咀嚼し、あらためて具現化した成果は、昨年、東京都写真美術館で開催された個展「ナチュラル・ストーリーズ」で発表された。それが本書を構成する二つのシリーズ、「気仙川」と「陸前高田」である。震災から1年半が過ぎたこの時点で刊行された写真集『気仙川』は、それゆえ畠山があの極限状況のなかで、何を考え、どのように行動したのかを報告する生々しいドキュメントとなる。その息苦しさが、写真集のページを繰ることにためらいを生じさせたのだ。
約1カ月後に、ようやく最後まで読み(見)通すことができた。この写真集はやはり畠山の仕事としてはかなり異例な造りになっていた。特に前半部の「気仙川」のパートに添えられたテキストの緊張度はただならぬものがある。地震の第一報を聞いて3日後にオートバイで陸前高田に向かう、その道程の出来事が、瘡蓋を引き剥がすような痛切な文体で綴られているのだ。それが2000年頃から折りに触れて撮影していた、安らぎに満ちた故郷の風景と交互にあらわれてくる。「気仙川」をこのような造りにしなければならなかった所に、彼が味わった「今までの人生で経験したことがないほどの痛烈な刺激」の凄まじさが、端的にあらわれているのではないだろうか。
だが、震災が来るまでは「un petit coin du monde(地球=世界の小さな一角)」と記された箱におさめられて、ひっそりと眠っていたというこれらの写真群は、このような緊急避難的な構成のなかではなく、もっと別な形で見たかった気もする。「気仙川」は写真家・畠山直哉にとって、とても大事なシリーズとして育っていく可能性を秘めていると思うからだ。彼がこれまで撮影・発表してきた「大きな眺め」にはなかった、柔らかに被写体を包み込み、震えながら行きつ戻りつして進んでいくような視線のあり方を、このシリーズでは見ることができる。「un petit coin du monde」の箱におさめられるべき写真を、これから先も撮り続け、これらの写真と繋いでいってほしいものだ。

2012/10/15(月)(飯沢耕太郎)

美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年

会期:2012/10/16~2013/01/14

東京国立近代美術館[東京都]

開館60周年を記念するコレクション展。華やかさには欠けるけど、ほかの美術館から有名作品を借りて祝うより、たとえ貧弱でも自前のコレクションを精一杯見せるほうが誠実だし、好感がもてる。でもタイトルのように「ぶるっ」た作品がはたしてどれだけあっただろうか。たとえば岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》とか関根正二《三星》とか橋本平八《幼児表情》とか、たまにぶるってもプチぶる程度。もう少しぶるっちゃう作品はようやくその後に出会う。戦争記録画だ。宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》にしろ藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》にしろ、色彩は暗いけど、やっぱり密度や緊迫感が違うなあ。戦争記録画が終わってしばらく行くと、妙に明るく乾いた現代美術が目に飛び込んできて面食らう。なんかヘンだなあと思いつつ外に出たら、第2部「実験場1950s」の入口があった。そうか50年代が抜けてたんだ。こちらは全国の美術館から作品を借りての大展開。でもなんで50年代だけ拡大するの? と思ったら、近代美術館ができたのが1952年だからということらしい。そのため50年代美術を紹介するというより、写真やイラスト、デザインも含めて時代気分を浮かび上がらせようとしている。こんな大変な時代に近美はスタートしたんだと。

2012/10/15(月)(村田真)

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トヨクラタケル こどもさいぼう

会期:2012/10/15~2012/10/22

乙画廊[大阪府]

紙、フェルト、糸を素材に、子どもたちを主人公にした温かみのある情景を描き出すトヨクラタケル。しかし作品を見直すと、無垢なはずの子どもたちが結構残酷なことをしていて、実はブラックな世界を併せ持つことに驚かされる。本展では新たな試みとして、切り刻んだ子どもたちのパーツを貼り付けた抽象画や、子どもたちを張り合わせてつくったジャケットなども展覧。表現の可能性を大きく広げることに成功した。

2012/10/15(月)(小吹隆文)