artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
深い闇の奥底 フランソワ・ビュルラン展

会期:2012/10/26~2012/11/18
ギャルリー宮脇[京都府]
薄茶色の包装紙をつなぎ合わせた画面には、創造主を思わせる牙とあごひげの人物(時には数名)と、魚、鳥、獣、有翼の天使(?)などが描かれ、同心円が余白を埋めている。また、牙とあごひげの人物から吐き出された白い線が、まるでエクトプラズムのように画面上を漂っていた。一見して思い出されるのは、ラスコーやアルタミラなど先史時代の洞窟壁画だ。無限の闇に引きずり込まれるような恐怖感と生命への賛美がないまぜになった、一言では言い表わしにくい感情が身を包んでいく。呪術的な魅力を備えた作品であることは間違いない。私はこの作家を本展で初めて知った。海外作家なので滅多に見ることはできなさそうだが、今後も機会があれば必ずチェックしておきたい。
2012/10/30(火)(小吹隆文)
ジャン・ミシェル・ブリュイエール/LFKs「たった一人の中庭」

会期:2012/10/27~2012/11/04
にしすがも創造舎[東京都]
フェスティバル/トーキョーのプログラムのひとつだが、演劇公演とは違ってインスタレーションの展示。したがって観客は開場時間内ならいつでも見られるという利点がある。会場は学校の跡地なので教室が舞台になる。最初の教室ではヒラヒラをつけたモップのオバケみたいなのが5、6人踊っている。部屋もオバケも真っ白だ。次の教室は家庭科室だろうか、スモークがたかれ、鍋で卵をゆでている。なんだこれは? その次の教室は理科室だろう、各テーブル横のシンクに首のない小さな人形が座り、リズミカルに電話が鳴り、水道水が流れる。……といった感じ。最後は体育館で、テント内で白衣の人たちが作業中で、ポップ音楽が鳴るとみんなで踊り出す。テントの外はマユみたいなクッションが床全体に敷きつめられ、手術用ベッドが上下に動いてる。なんかワケわかんないけどおもしろかった。
2012/10/30(火)(村田真)
糸崎公朗「盆栽×写真 VOL.02」

会期:2012/10/05~2012/11/28
さいたま市大宮盆栽美術館[埼玉県]
昨年の大和田良に続いて、今年もさいたま市の大宮盆栽美術館で「盆栽×写真」の展覧会が開催された。大和田の展示も面白かったが、糸崎もいかにも彼らしい作品を発表している。やはり盆栽と写真とは、相性がいいのではないだろうか。
糸崎が用いているのは、お馴染みの「ツギラマ」の手法。複数の視点から撮影した画像をつなぎあわせ、パノラマ的な視覚空間をつくり上げている。伸び縮みする「ツギラマ」の視点で、盆栽のディテールをかなり極端なクローズアップで撮影し、それらをグリッド状に配置していく。画像の一部だけにピントが合っていて、あとはボケているカットもあり、まさに継ぎはぎだらけの面白い視覚的効果が生じていた。糸崎の試みがうまくいっているのは、やはり盆栽という素材だからこそとも言えるだろう。盆栽はひとつの鉢の中で、完結した小宇宙を形成しており、自然に育っている樹木と違って、近距離から、どんなアングルでも自由に撮影することができる。一方で「ツギラマ」の手法で撮影された盆栽は、それほど大きなものではないはずなのに、あたかも巨大な森のようにも見えることもある。そのあたりの、融通無碍な視点の変化が、大小19点の作品をリズミカルに壁面に配置した展示効果と相まって、とてもうまく使いこなされていた。
この「盆栽×写真」の企画、まだいろいろな形で展開していく可能性がありそうだ。大和田、糸崎に続く第三の写真家がいったい誰なのか、そのあたりも楽しみになってきた。
2012/10/29(月)(飯沢耕太郎)
3・11とアーティスト:進行形の記録

会期:2012/10/13~2012/12/09
水戸芸術館 現代美術ギャラリー[茨城県]
水戸芸術館の「3・11とアーティスト」展へ。サブタイトルに「記録」と掲げているように、想像以上にストレートな記録の意味合いが強い。作品や活動は、時系列に並べている。アートとしては、やはりChim↑Pomの気合い100発、照屋勇賢、そしてヤノベケンジ、畠山直哉らが興味深い。個人的には、せっかくなのだから、一時閉鎖に追い込まれた水戸芸術館の被災状況の展示も見たかった。
2012/10/28(日)(五十嵐太郎)
都筑アートプロジェクト2012

会期:2012/10/07~2012/10/28
横浜市営地下鉄センター北駅+グリーンライン高架下ほか[神奈川県]
これまでセンター北駅から徒歩10分ほどの大塚・歳勝土遺跡公園を舞台にしてきたが、今回は駅に直結する場所が確保できたので移転。しかし結果はちょっとなあ。たしかに駅に近いのは便利だし、より多くの人に見てもらえるのはいいのだが、メイン会場の高架下はフェンスに囲まれた殺風景な空間。遺跡公園の竪穴式住居や江戸時代の民家のような歴史もなければ、丘も林も池もないたんなる更地なので、作品づくりのとっかかりがないのだ。だから作品たちは檻のなかの動物のように所在なげで寂しそうだった。でもいいこともあった。ある若者が勝手にフェンスに自分の作品を展示したのだ。なぜかカッパの絵と彫刻と解説図のセットで、作品的にはちょっとアレだけど、自分も出してみようと思わせるなにかを感じたに違いない。あるいはこの程度の作品だったら自分もできると踏んだのかもしれないが、いずれにせよ市民を刺激し、誘発したのは事実。こういうことが許されるのもゆるいアートプロジェクトならではのこと、美術館では許されないからね。
2012/10/28(日)(村田真)


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