artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
北斎──風景・美人・奇想

会期:2012/10/30~2012/12/09
大阪市立美術館[大阪府]
今日は阪神日帰りの旅。まずは天王寺の大阪市立美術館へ。なぜ大阪で「北斎展」なのかというと、200年前の文化9(1812)年に北斎が大坂を訪れたという説があるからだ。いわば来坂200周年記念(+主催の読売新聞大阪発刊60周年)。当時『北斎画式』という絵手本が大坂で出版されたり、北洲や北敬といった大坂の絵師たちが弟子入りしたらしい。今回は《富嶽三十六景》をはじめとする風景画、肉筆も含めた美人画、妖怪や漫画などの奇想画を3本柱に、大坂と北斎とのつながりを示すコーナーも設けられている。とはいえ浮世絵版画は見慣れたものばかりだし、サイズも思ったより小さく、また作品保護のため照明も落とされているので早足に通りすぎ、肉筆画のところで足を止める。なかでも同館所蔵の重要文化財《潮干狩図》は、江戸絵画には珍しい遠近感で細密に描かれ、斬新な技法表現も採り入れられていて、驚くほどモダン。思うに北斎という画人は、関西人には悪いが、応挙の写生力と若冲の奇想と蕭白の衒気性を足しても足りないくらい巨大な存在だ。いきなりこんなヘヴィーなもんを見せられると先が思いやられる。ちなみに出品点数243点、展示替えを含めた作品総数は378点にものぼる。1時間ほどで退散。
2012/11/02(金)(村田真)
開館記念展 I 横尾忠則 展「反反復復反復」

会期:2012/11/03~2013/02/17
横尾忠則現代美術館[兵庫県]
横尾忠則が兵庫県に寄贈・寄託した約3,000点の作品と膨大な資料を中核に、11月3日に開館した横尾忠則現代美術館。場所は神戸市灘区の原田の森ギャラリー(旧兵庫県立近代美術館)西館で、村野藤吾が設計したモダン建築の名作を一部改修して復活させたものだ。開館前日の開館式&パーティーには溢れんばかりの招待客が訪れ、同館並びに横尾への期待の高さが感じられた。こけら落しの本展は、横尾作品にしばしば見られる同一モチーフの反復をテーマにしたもの。1960年代と2000年以降の作品を組み合わせるなど、異なる年代の作品を並置することにより、彼の芸術の基盤と変遷を明らかにした。今後同館は、もっぱら横尾作品を展示する場になると思われる。しかし、せっかく兵庫県に現代美術館ができたのだ。近い将来には他の作家の個展やグループ展も開催し、文字通り兵庫県の現代美術の要となってほしい。
2012/11/02(金)(小吹隆文)
日本の映画ポスター芸術

会期:2012/10/31~2012/12/24
京都国立近代美術館[京都府]
京都国立近代美術館の4階、コレクションギャラリーでは1960年代を中心に1930年代から1980年代に日本で製作された約80点の映画ポスターが展示されている。まったく知らない古い映画から、粟津潔、横尾忠則、和田誠などが手がけた、私でも見覚えのあるポスターまでさまざまなものがあるが、それぞれの時代性をうかがわせるタイポグラフィやイラストを見比べるだけでも面白い。上村一夫の《シェルブールの雨傘》(1973)、野口久光の《大人は判ってくれない》(1960)などはインパクトも魅力も強烈で、古い映画だが何度見ても新鮮だ。人によっては映画そのものよりも、むしろこれらのポスターのイメージのほうが記憶に残っているという場合もあるだろうなと思いながら会場を見てまわった。映画ポスターとひと言でいっても、それらを手がけたデザイナーやアーティストの個性と才能が映画の枠を超えて浮かび上がるのが楽しい。山口華楊展は12月16日までだがこちらは12月24日まで開催されているので、チャンスがあれば足を運んでみてほしい。
2012/11/01(木)(酒井千穂)
山口華楊 展

会期:2012/11/02~2012/12/16
京都国立近代美術館[京都府]
動物や鳥、樹木、花などを描き続けた画家、山口華楊(1899~1984)の生涯と画業を紹介する大規模な回顧展。新たに見つかった初期の本画を含む花鳥画、動物画の代表作に加え、下図、素描なども数多く展示された。京都に生まれ、京都を拠点に活躍した作家なので、以前からちょこちょこ作品を見る機会はあったのだが、これほど纏まった数を見るのは私は初めて。70年あまりの制作の軌跡をたどる本展では、華楊の生真面さと弛まない探究心、生命を慈しむ態度といった作家の人となりも同時に味わえたのが嬉しい。徹底した写生をもとに描かれた作品のなかでも、特に動物画の世界には惹きつけられた。ネコやリス、小鳥などのかわいらしい表情やポーズ、猿、鹿、馬、ライオン、トラなどの動作や顔つき、それらの瞳、尻尾や足先に至るまで、細心に描かれた動物は、正面を向いているものも多いせいか、大きな作品でもつい画面に近づきたくなってしまうような動的魅力がある。順路の最後には鳥や動物のスケッチを貼りまぜ屏風に仕立てられた《貼り交ぜ屏風》があったのだが、これがまた素晴らしい。寝そべっていたり、走っていたり、遠くを見つめていたりと、さまざまな角度からとらえられた動物たちの動作は、力強さと生命感にも溢れている。「見る」ことに座禅か修行のように取り組んだという作家の眼差しにも思いがめぐる展覧会だった。
2012/11/01(木)(酒井千穂)
エマージング・ディレクターズ・アートフェア「ウルトラ005」[オクトーバー・サイド Oct. side]

会期:2012/10/27~2012/10/30
スパイラルガーデン[東京都]
典型的な現代アートの見本市だが、会場でひときわ異彩を放っていたのは、「ヴォルカノイズ」の伊藤誠吾。拠点としている秋田の各地で繰り広げたパフォーマンスの映像と、それらを見せる小さな空間を幼少時の写真や当時獲得した表彰状などによって構築した。
いずれもバカバカしいテーマをひたすらバカバカしく追究しているところがまたバカバカしいが、その一方で安易に他者との関係性やコミュニケーションをねらわない潔さが清々しい。なかでもビデオカメラを無言のまま、ただひたすら目前の相手に向け続け、顔面をクローズアップで撮るだけの映像作品は、被写体とさせられた人が笑顔の隙間に一瞬垣間見せる不快感やわずかな攻撃性をあぶり出す傑作だが、しだいにビデオカメラという暴力装置の(というより、正確にはそれを駆使する伊藤自身の)不気味な迫力に、映像を見る側がいたたまれない気持ちになってくる。難癖をつけるチンピラの視線に同一化してしまったような居心地の悪さを感じてならないのである。
これだけ映像作品が氾濫している昨今、幸福なコミュニケーションをねらう映像は数あれど、これほど挑発的でこれほど悪意の込められた映像はほかにない。しかし、人間のコミュニケーションがディスコミュニケーションとつねに表裏一体の関係にある、きわめて危ういものだとすれば、伊藤の挑戦的な映像は、私たちのコミュニケーションを裏側から鋭く突き刺す鋭利な刃物なのだろう。その類まれな鋭さを評価したい。
2012/10/30(火)(福住廉)


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