artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
東京ミッドタウン・アワード2012

会期:2012/10/26~2012/11/25
東京ミッドタウン・プラザB1F[東京都]
「ジャパン・バリュー」を目指して始まったミッドタウン主催のアートとデザインの2本立てコンペ。まず「安心」をテーマに掲げたデザインコンペでは、合格祈願のお守りに発熱材を入れた(正確にはカイロのパッケージをお守り風にデザインした)市田啓幸の《おまもりカイロ》がグランプリを受賞。鳥や飛行機を型どった絆創膏を「痛いの痛いの飛んでけー」と唱えながら貼る、太田耕介+櫻井一輝+池ケ谷貴徳の《とんでいけ ばんそうこう》は準グランプリ、カツオ節のかたちにしたヒノキを削って木の香りを楽しむ小高浩平の《桧節》は優秀賞……以下略、といった感じ。アートコンペのほうはテーマが「都市」。小屋を建て、窓から室内をのぞくと屋外の風景が見えるという太田遼の《「中に入れてくれ」、と屋外はいった。》がグランプリで、以下悪いけど省略。デザインに比べ、アートは言葉にしにくい。言葉にしにくいとはいかようにも解釈できる、評価が割れるということであり、端的にいってコンペには向いてないということでもある。逆にいえば、言葉にしやすい作品はどこかデザイン的であり、それだけ入選しやすいともいえる。
2012/11/03(土)(村田真)
山口晃 襖絵奉納記念「重要文化財養林庵書院」特別公開

会期:2012/11/03~2012/12/02
平等院養林庵書院[京都府]
山口晃が京都・宇治の平等院養林庵書院(重要文化財)に14面の襖絵を奉納し、特別公開が行なわれている。養林庵書院は桃山城の遺構とも伝えられる建物で、狩野派の障壁画があるが平常は非公開である。彼の襖絵は、書院に通じる六畳+板間の部屋に設置されている。絵の内容は、楼閣風の蒸気機関車に乗った人々(死者の魂)が入京し、京都駅から極楽浄土へ向かって旅立とうとする群像&情景図だ。来迎図と洛中洛外図の形式を借りており、過去と現代と未来が融合した山口らしい作品である。また、隣室に通じる4面の襖は「南無阿弥陀仏」の六文字を書き連ねて藤棚に見立てたもので(平等院は藤の名所でもある)、襖をわずかに開くと一条の光(太陽光)が室内に差し込む。これは仏教の教えにある二河白道の見立てである。山口は今後、隣室にも12面の襖絵を奉納する予定。数年後の完成が今から楽しみだ。
2012/11/03(土)(小吹隆文)
坂野充学 個展 VISIBLE BRETH

会期:2012/10/14~2012/11/04
3331 Arts Chiyoda 1FメインギャラリーB[東京都]
映像作家の坂野充学による新作展。出身地の石川県白山市鶴来で4年間にわたるリサーチのうえ撮影した映像を、5面のスクリーンでそれぞれ同時に上映した。
映像は、民俗的な習俗や祭り、自然、文化、歴史をモチーフにした物語。役者による演技や、地元の民俗学研究者・村西博二による語りが、5つの時間軸でそれぞれ別々に、しかし時として交差しながら、進行していく。一つひとつのカットがじつに精緻で美しいため、写されている炎や水、風、緑や岩のイメージが脳内に次々と流入してくる感覚がおもしろい。
だからといってイメージだけが先行しているわけではなく、民俗的・歴史的な背景もたしかに伝わってくる。鉄の文化が大陸から伝わってきたとき、それを受け入れる土壌が整っていたことを、海岸の砂浜に鉄分が多く含まれていることから解き明かすなど、地理的な条件によって神話的な物語に十分な説得力を与えているのである。
場所の歴史を掘り起こすアート作品やアートプロジェクトは数多い。しかし、その深度を古代史や神話の水準まで到達させようとする作品は珍しい。東日本大震災によって現実社会の根拠が根底から覆されたいま、映像によって新たな神話的な物語を綴ろうとする坂野の作品は、ひじょうに大きなアクチュアリティーがある。
2012/11/02(金)(福住廉)
祐成政徳 展「美術の中のかたち──手で見る造形」

会期:2012/07/07~2012/11/04
兵庫県立美術館[兵庫県]
本日最後の展覧会。直径およそ1.8メートル、長辺が15メートルほどもある濃いピンク色のL字型のバルーンが展示室いっぱいに横たわっている。この空間に合わせて制作したのだろう。色といい形態といいサイズといい質感といい、異形のもの。これはおつかれさまだ。私も本当に疲れた。
2012/11/02(金)(村田真)
現代絵画のいま

会期:2012/10/27~2012/12/24
兵庫県立美術館[兵庫県]
横尾忠則現代美術館から海に向かって20分も歩けば県立美術館に着くはずだが、道が不案内だし荷物も増えたのでタクシーでビュンっと。石田尚志、奈良美智、野村和弘、平町公、丸山直文、三宅砂織ら若手を中心とする14人の絵画展。東京では「VOCA展」や「シェル美術賞展」など絵画のコンペはたくさんあるのに、なぜか美術館企画のバリッとした絵画展(個展を除く)は関西に比べてとても少ないように思う。調べたわけではないけれど、絵画への情熱はなんとなく西高東低のような気がする。まあいいけど。で、この展覧会、でかい展示室にも余るドでかい布に神戸を俯瞰する風景を描いて張り巡らせた平町や、真っ白い壁におもに鉛筆でうっっっすらとほとんど見えない壁画を描いた野村、展示室内に小屋をつくり、その内部にペイントしていく過程を撮った映像をその場で見せる石田など、絵画の可能性と限界に挑戦する作家もいて、それはそれで楽しめたが、見終えた後でどうもなにかすっきりしない。なにがすっきりしないのかというと、たぶんこの展覧会がわれわれ観客をどこに導こうとしているのかはっきりしないことだろう。タイトルに引きつけていえば、「絵画のいま」がなんなのか結局よくわからないのだ。わからないのが正解なのかもしれないけど。
2012/11/02(金)(村田真)


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