artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

國府理展 「オマージュ相対温室」

会期:2016/03/07~2016/05/09

ギャラリーエークワッド[東京都]

北砂からトボトボ南下すること約20分、新砂にある竹中工務店のギャラリーエークワッドへ。2年前、国際芸術センター青森での展覧会中に事故で亡くなった國府理(享年44)の、その最後の展示「相対温室」をできるだけ忠実に再現している。國府は自動車や自転車やプロペラなどに関心を寄せ、動く作品や自然を採り込んだエコロジカルなアートを試みてきたアーティスト(どうやら作品に使った自動車の排気ガスが死因らしい)。メインの作品は、2メートルほどの高さに置かれた水槽から木の樋をつないで水を流し、円形の水盤で受けて再び水槽に戻すという循環系のインスタレーション。樋にも水盤にも土や砂利が盛られ、コケや雑草が生えている。ギャラリーのサイズが違うので必ずしも厳密な再現ではないが、それを差し引いてもちょっと不自然に思えたのは、青森ではカーブしたギャラリーに合わせて樋も弧を描いていたのに、ここでは直線(長方形)の空間にもかかわらず樋が弧を描いていることだ(しかも弧の向きが逆)。青森ヴァージョンに忠実なら弧を描くべきだが、もし作者自身が再現するとしたらこうはならなかったのではないか。というか、本人不在のもと別の空間で再現されるなど考えもしなかったはず。そう考えると複雑な気分になる。ほかに、隣室には自動車の内部を冷蔵庫に見立てた作品、屋外には巨大な温室を出品。

2016/04/01(金)(村田真)

ぼくと戦争─小池仁戦争体験画展

会期:2016/02/24~2016/04/10

東京大空襲・戦災資料センター2階[東京都]

東京大空襲・戦災資料センターは文字どおり東京大空襲の記録と記憶を伝えるため、2002年に開館した民立民営の施設。場所は地下鉄住吉駅から徒歩15分ほどの江東区北砂。会場はギャラリーというより多目的スペースで、椅子が並んでいたりピアノが置いてあったり、ほかの人の絵や戦災資料なども展示してあるので、どこからどこまでが小池仁の作品かわかりづらい。ここでは作家性や固有名より、戦災体験の記憶と記録を伝えることが重要なのだ。小池の作品は100号前後の大作7点と、A4の紙に描いたスケッチが30点ほど。スケッチは、昨年自費出版した画文集『戦争をしてはならない本当の理由』の原画だという。この出版を機に展覧会を開くことになったようだが、展示のメインはやっぱり油絵の大作7点だ。東京大空襲の被災地・被害者を描いた《焼跡の少年》《燃える人》《1945. 3. 10 TOKYO》などのほか、日の丸を背景に昭和天皇らしき軍服姿の二人の人物を描いた《3月18日のドンキホーテ》と題する作品もある。3月18日(1945)というのは天皇が東京大空襲の焼跡を視察した日だが、事前に死体は片づけられていたというから、その隠蔽工作を皮肉ったものだろう。いずれも主題は重いが、絵柄は表現主義風あり、抽象風あり、キュビスム風?ありと多彩。いろいろ試してみたというより、ひとつのスタイルでは描ききれないほど重く、複雑な体験だったということかもしれない。しかもすべて2000年以降の制作というから、戦後50年以上たたなければ絵にすることさえできなかったということだ。

2016/04/01(金)(村田真)

舘正明 sign

会期:2016/03/29~2016/04/10

ギャラリー恵風[京都府]

色面と幾何学形態からなる舘正明の染色作品。ミニマル絵画のようなクールなたたずまいが特徴で、見ているこちらも居住まいを正してしまう。制作法はとてもシンプルで、刷毛に防染のロウをつけて規則的に塗るだけである。例えば正方形の場合、同じ幅で3段重ねにロウを塗るという具合だ。しかし、ロウになんらかの仕掛けを施しているのであろう。防染が完全ではなく、染料が薄っすら滲むことで地色とは異なる複雑なまだら模様の色面がつくられる。使用する染料は1作品あたり2色程度と少ないが、それでも深みのある豊かな色彩を表現しているのだから見事だ。以前から質の高い作品をつくる作家だと思っていたが、本展で改めてその完成度の高さを実感した。

2016/04/01(金)(小吹隆文)

比舎麿「シシ─獣じみた─」

会期:2016/03/22~2016/04/02

The White[東京都]

1988年、京都府に生まれ、2012年に東京綜合写真専門学校を卒業した比舎麿が撮影しているのは「シシ垣」である。「シシ垣」というのは「害獣から田畑の作物を守るために」江戸時代以来築かれてきた石垣のこと。時が経つにつれて、獣によって壊されたり、自然現象で崩壊したりして、その形が少しずつ失われていく。比舎はそれらが次第に「獣じみた」様子になっていくことに興味を抱き、撮影を続けてきた。今回の神田・猿楽町、The Whiteでの個展では、伝統的な「シシ垣」のたたずまいだけでなく、電流を通したフェンス、シカの死骸、ニホンザルの群れなど、それらを取り巻く環境の写真も同時に展示していた。
近年、都市化が進み、山が荒れてきて、シカやイノシシやサルなどの「害獣」の数が増えて、人里に降りてくるようになったという話をよく聞く。クマなどに遭遇する機会も増えてきているようだ。自然と人間の領域とのボーダーラインがあやふやになってきているわけで、歴史を経た「シシ垣」は、その変化を見るのにとても興味深い指標となるのではないだろうか。ただ、今回の展示は、写真の数や内容においても、見せ方においても、まだまだ充分とはいえない。さらに粘り強く撮影を続け、写真シリーズとしてより緊密に構築していけば、日本の生態系のメカニズムをユニークな視点から捉え直すことができるはずだ。テーマは面白いのだから、ここから先の積み上げが大事になってくるだろう。

2016/03/31(木)(飯沢耕太郎)

中村一美個展

会期:2016/03/08~2016/04/02

カイカイキキギャラリー[東京都]

作品は計13点。とりあえず「絵巻」シリーズとそれ以外に分けてみる。「絵巻」シリーズは、絵具たっぷりの斜線が勢いよく何本も引かれた「斜行グリッド」と呼ばれるパターンで構成されたもので、その斜行グリッドの影のようなイリュージョナルな薄い線まで入っている。淡い藤色や薄もえぎ色の背景色といい、絵巻の建物の描写を思わせる斜めの平行線といい、いかにも日本的なデザインだ。これはある意味わかりやすいし、スーパーフラットにも通じるし、比較的多くの人に受け入れられるだろう(中村の作品のなかでは)。それに対して、それ以外の、例えば《北奥千丈VI》などは、絵具をベタベタ塗りたくった表現主義的な抽象だが、画面は混乱しているし、色彩も美しくないし、失敗作と見られかねない作品だ。それなのになんでこんな作品も入れたのかといぶかしく感じたが、その一方で、ひょっとして、この違和感こそ狙いだったのかもしれないと思ったりもした。リーフレットのコメントによれば、この違和感を中村は「不協和音」と呼び、まさに「私の意図するところ」という。この「不協和音」がすばらしいのではない。「不協和音」を恐れぬ勇気がすばらしいのだ。

2016/03/30(水)(村田真)