artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
ここにもアートかわぐち
会期:2016/03/19~2016/05/14
川口市立アートギャラリー・アトリア+キュポ・ラ+川口市立グリーンセンター[埼玉県]
川口市のギャラリー・アトリア開館10周年記念展。ギャラリー内だけでなく、駅前のビルや市内の植物園にも計17人の作品を点在させている。まずは駅前ビルのキュポ・ラ。若い人には伝わらないだろうけど、川口といえばかつて鋳物が有名で、「キューポラ(溶解炉)のある街」として知られていたことから命名された。そのキュポ・ラの7階は映像・情報メディアセンターになっていて、壁には杖ばかりを撮った大和由佳の写真が並び、空きスペースには佐藤裕一郎による巨大画面の抽象的な日本画が鎮座、といったようにビル全体で8人の作品が展示されている。また、車で20分ほど走った郊外のグリーンセンター内にあるシャトー赤柴には、サボテンを思わせる青木邦眞の彫刻と、堀口泰代の帆船を載せたようなカツラを設置。わざわざこれだけを見に行くのはツライが、グリーンセンターは種々の花々が咲いて半日は遊べる。あとはアトリアでの展示で、大半はオーソドックスな絵画や彫刻だが、特筆すべきは、入口上のひさしに送風管のような銀色のチューブをとりつけた遠藤研二の作品。言われなきゃ気づかないが、言われても作品だと気づかない人もいるに違いない。これってひょっとして、配管をむき出しにしたポンピドゥー・センターのパロディ? 出品作家はいずれも、アトリアで毎年開かれてきた「川口の新鋭作家展」に出したことのある、つまり地元ゆかりの作家たち。川口には先にも挙げた鋳物をはじめとする地域資源があり、また地の利にも恵まれているため、掘り起こせばアートのネタにはこと欠かない。予算と人手とやる気があれば、もっと大がかりに地域アートが展開できるだろう。
2016/04/09(土)(村田真)
作元朋子「FORM FROM」
会期:2016/04/08~2016/04/30
TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]
画廊には3種類の陶オブジェがあった。まず、三角錐と円錐が合体して丸っこくなった感じの立体、次に円柱が途中で折れ曲がったかぎ括弧状の立体、もうひとつは極薄の三角柱で、書棚の升目にぴったり収まっていた。いずれもストライプ模様をもっており、第1の作品は部品をバラバラに並べた展示も行なわれている。その様子から分かるのは、本作が型に着色した泥漿(でいしょう)を流して部品を作り、合体後に磨きをかけて焼成したということだ。技術的に高い精度をもっており、デザインも洗練されていることに感心した。作者は生まれも育ちも岡山県で、筆者は本展で初めて存在を知った。今後も機会があればフォローしていきたい。
2016/04/09(土)(小吹隆文)
「美を掬う人 福原信三・路草─資生堂の美の源流─」
会期:2016/04/05~2016/06/24
資生堂銀座ビル1・2階[東京都]
福原信三(1883~1948)は資生堂化粧品の初代社長、福原路草(本名、信辰 1892~1946)はその9歳下の弟である。彼らは大正から昭和初年に写真家として活動し、優れた業績を残した。信三は忙しい会社経営の傍ら、1921年に冩眞(しゃしん)藝術社を結成し、写真プリントの「光と其諧調」を強調する作画の理論を打ち立てて、同時代の写真家たちに大きな影響を及ぼした。一方、路草はディレッタントとしての人生を貫き、信三のロマンチシズムとは一線を画する、理智的かつ構成的な画面構成の写真作品を残している。
資生堂意匠部(現 宣伝・デザイン部)創設100周年を記念する今回の展覧会には、信三と路草が残した未発表ネガから、同部所属の写真家、金澤正人が再プリントした作品、約50点が展示されていた。信三と路草の作風の違いがくっきり見えてくるだけでなく、彼らの写真の、時代を超えたクオリティの高さが、よく伝わる好企画だと思う。
写真家の残した未発表ネガを再プリントすることについては、いろいろな問題がつきまとうのも確かだ。どこまで勝手に作品を選べるのか、どれくらいの解釈の幅があるのかという判断は、なかなかむずかしい。ただ、今回の展示について言えば、資生堂の「美の遺伝子」がどのように受け継がれているのかを確認するという意味で、面白い試みになったと思う。金澤の解釈は、デジタル化したデータからのプリントも含めて、現代的な感性を充分に発揮したものであり、二人の写真から新たな魅力を引き出していた。それをポジティブに評価したいと思う。これまでの見方とは逆に、信三の写真から力強さが、路草の作品からは繊細さが引き出されているように見えたのも興味深かった。
2016/04/08(金)(飯沢耕太郎)
仙谷朋子「Life」
会期:2016/04/01~2016/04/30
nap gallery[東京都]
仙谷朋子は1975年生まれ、東京藝術大学美術学部彫刻科を卒業後、同大学院美術研究科を2000年に修了し、主に写真作品を中心に発表している。今回のシリーズは、勤務先の東海大学の海洋調査船に乗り組んで、39日間を赤道直下の南太平洋で過ごした体験を元にしたものだという。つまり「海の上のlife」というわけだ。
僕も多少は経験があるが、船の上では地上とはまったく異なる身体感覚を味わうことができる。つねに足元が揺れ動いている不安定な状況は、視覚や聴覚を狂わせ、精神的にも大きな変動をもたらすだろう。仙谷にとっても、その体験はひどい船酔いも含めて相当に強烈なものだったようだ。だが、あまりにも「キョーレツでありキツかった」ために、2012年のその航海の体験を作品化するにはかなりの時間がかかってしまった。逆にいえば、それだけ時間をかけて熟成したからこそ、クオリティの高いシリーズに仕上がったのではないかと思う。
展示作品は全9点。海面のイメージに球体をフォトグラムの手法で焼き付けた大作、「架空の南半球の星座」を構成した作品、船窓を思わせる円形の画面に海と鳥のイメージを封じ込めた作品から成る。「海の上のlife」を直接的に(ドキュメント的に)再現したものではないが、個人的な体験を普遍的なそれへと昇華することによって、なかなか味わい深い、非日常のなかの日常の手触りが感じられるようになっていた。「life」というテーマは、さらにいろいろなかたちで変奏できそうな気がする。ぜひ、このシリーズの続きを見てみたい。
2016/04/07(木)(飯沢耕太郎)
花代&沢渡朔「点子」
会期:2016/04/02~2016/05/14
GALLERY KOYANAGI[東京都]
面白い構成の写真展だ。1996年、当時ドイツに在住していたアーティスト・写真家の花代の長女として誕生した点子の0歳から18歳までを、花代自身と沢渡朔が撮影した写真で辿っていく。東京・銀座のGALLERY KOYANAGIの壁面に撒き散らすように並んでいた写真の数は215点(ほかに映像作品1点)。二人の写真の区別は、花代の作品が虫ピンで、沢渡のそれがクリップで留められていることでわかるようになっていた。
花代の写真は家族アルバムの延長のようなテイストで、写真の大きさもプリントの仕方もバラバラ、その眼差しは点子の成長に沿うように、揺らぎつつ伸び縮みを繰り返している。それに対して、点子が15歳で「東京に移住」してから撮影されはじめた沢渡の写真は、プロフェッショナルな写真家の視点で、少女から大人へと脱皮していく微妙な年頃の彼女の姿を捉えていく。その対比が面白いだけでなく、撮り手とモデルとのあいだの関係の密度や綾が、写真に微妙なかたちで写り込んでいるのが興味深い。ただ、普通の家族アルバムと決定的に違っているのは、花代も沢渡も、記号化された「子供らしさ」や「女の子らしさ」にもたれかかることなく、むしろそれらを超越した、見方によっては蠱惑的でもある、魔物めいた禍々しさを点子から引き出していることだろう。
このシリーズは点子が「東京と花代を離れる」ことで、一応は終わってしまうようだが、もう少し見てみたい気もする。もし点子が将来子供を産んだら、その子の写真も取り込んでしまうようなシリーズとして増殖していくのではないかとも夢想するのだ。なお、展覧会にあわせてCase Publishingから同名の写真集(田中義久のデザインが冴えわたっている)が刊行されている。
2016/04/06(水)(飯沢耕太郎)