artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ようこそ日本へ:1920-30年代のツーリズムとデザイン

会期:2016/01/19~2016/02/28

東京国立近代美術館[東京都]

近年、国立近美の常設は攻めの姿勢を感じるが、今回は建築の動向に絡めて、全室を構成していた。改めて篠原一男、吉田五十八、吉村順三など、(主に日本)画家が建築家に住宅を依頼していた歴史を痛感する。一方で、現在はどうなのだろうかと思う。「ようこそ日本へ」展は、戦前の資料を多く紹介しながら、ツーリズムとデザインの関係を扱う。テーマの設定が国策に沿う企画は少し気になってしまうが、内容は面白いものだった。

2016/02/22(月)(五十嵐太郎)

恩地孝四郎 展

会期:2016/01/13~2016/02/28

東京国立近代美術館[東京都]

昨年、同人誌「月映」を軸にした展覧会が開催されていたので、いいタイミングでの回顧展かもしれない。画のプロポーションが絵に介入するグラフィックデザイン的な版画から抒情的・抽象表現へ。音楽に触発されたシリーズなども紹介する。敗戦後に彼の作品は海外でも購入されるようになったが、今回はそれらも一堂に集めていることは、大きな成果だろう。

2016/02/22(月)(五十嵐太郎)

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田附勝『魚人』

発行所:T&M Project

発行日:2015年11月11日

田附勝は2006年頃からデビュー作の『DECOTORA』(リトルモア、2007)や、第37回木村伊兵衛写真賞を受賞した『東北』(同、2011)などの撮影で、東北地方に足を運びはじめる。『その血はまだ赤いのか』(SLANT、2012)や『KURAGARI』(SUPER BOOKS、2013)では、鹿狩りをテーマに撮影を続けた。その田附の東北地方への強い思いが形をとったのが、今回写真集として刊行された『魚人』のシリーズである。「八戸ポータルミュージアムはっち」が主催する「はっち魚ラボ」プロジェクトの一環として、2014年度から約1年かけて八戸市大久喜地区や白浜地区などの沿岸部で撮影された。
写真集は、6×9判の中判カメラでじっくりと腰を据えて撮影された写真群と、35ミリカメラによる軽やかなスナップの2部構成になっている。漁師たちの暮らしの細部を、舐めるような視線で浮かび上がらせた6×9判のパートがむろんメインなのだが、フィールド・ノートの趣のある35ミリ判の写真を、コラージュ的にレイアウトした小冊子もなかなかいい。むしろこちらのほうに、皮膚感覚や身体感覚をバネにして被写体に迫っていく田附の写真のスタイルがよくあらわれているようにも思える。
撮影中に、東日本大震災後の津波で大久喜地区から流された神社の鳥居の一部(笠木)が、アメリカオレゴン州の海岸に流れ着き、ポートランドで保管されているというニュースが飛び込んできた。田附は早速ポートランドに飛び、ガレージに保管されていた笠木を撮影するとともに、当地の漁師たちの話も聞いた。それらの写真が、写真集の後半部におさめられている。そこから「海に対する仕事の姿勢は日本もアメリカも変わらないこと」、つまり「魚人」たちの基本的なライフスタイルの共通性が、見事に浮かび上がってきた。
なお、この『魚人』は赤々舎から独立した松本知己が新たに立ち上げたT&M Projectの最初の出版物として刊行された。丁寧なデザイン・造本の、意欲あふれる写真集になったと思う(デザイナーは鈴木聖)。またひとつ、期待していい写真集の出版社が名乗りを上げたということだろう。

2016/02/22(月)(飯沢耕太郎)

プレビュー:第2回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ2016

会期:2016/03/06~2016/04/01

京都市美術館[京都府]

2013年から始まった大規模版画展。特徴は、経験豊かなコミッショナーによる推薦制をとっていること、一作家あたりの展示スペースが広大であること、表現形態の縛りが緩やかであることだ。これにより作家の質と表現の多様性を担保し、版画芸術の新たな発信拠点となることを目指している。2回目の今回は、池田俊彦、小野耕石、加納俊輔、金光男、林勇気、門馬英美など俊英20名が出品。なかには版画とは呼べない作品もありそうだが、それを許容するのも本展のユニークなところだ。デジタル技術の進歩や印刷分野の多様化により、今後の版画は大きな変化が予想される。一方、「刷る」という基本が改めて見直される場合もあるだろう。そうした長期的・複眼的思考で本展に臨めば、きっと楽しめると思う。

2016/02/20(土)(小吹隆文)

プレビュー:美術と音楽の一日 rooms

会期:2016/03/05

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

サウンド・アーティストの藤本由紀夫、映像作家の林勇気と音楽家の米子匡司、サウンドインスタレーションの原摩利彦、ミュージシャンのharuka nakamura、西森千明、Polar Mが集い、村上三郎と小杉武久の館蔵品も加わって、視覚や聴覚といった感覚の枠組みにとらわれない芸術体験が繰り広げられる。タイムスケジュールに沿って出し物が入れ替わるのも美術館では珍しく、美術ファンと音楽ファン双方にとって新鮮な体験になるのでは。1日限りというのは勿体ないが、逆に一期一会の醍醐味が増すだろう。早春の一日を、美術と音楽に浸ってまったり過ごすのも悪くない。

2016/02/20(土)(小吹隆文)