artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
熊田悠夢「木彫展──モーメントの稜線」
会期:2015/09/29~2015/10/04
同時代ギャラリー[京都府]
丘陵地帯のなだらかな稜線を思わせる板状の木彫と、同様の形状を天部に配した収納具、お盆、レリーフ、観客が操作するからくり仕掛けのような作品などを出展。それらには部分的に漆が用いられている。作品に接近し、稜線部分に目線を合わせると、それこそ自分が丘陵地帯を歩いているような気分に。爽快な風が駆け抜け、青空を雲が流れていく場面が脳裏をよぎる。この伸びやかで気持ちのいい作品をつくる熊田は、京都市立芸術大学大学院で漆工芸(木工)を専攻する新進作家だ。変に屈折していないのが彼女の良いところ。このまま真っすぐ成長して、独自の世界を花開かせてほしい。
2015/10/03(土)(小吹隆文)
渡邊有紀「内海」
会期:2015/09/15~2015/10/03
NORTON GALLERY[東京都]
渡邊有紀は、東京工芸大学写真学科を2004年に卒業後、2006年に喜多村みかと互いにポートレートを撮りあった「Two Sights Past」で写真新世紀優秀賞を受賞してデビューした。その後、別々に活動するようになったが、喜多村は2013年に写真集「Einmal ist Keinmal」(テルメ・ブックス)を刊行して、その後の展開をしっかりと形にした。そして渡邊有紀もまた、着々と新たな領域に踏み込みつつあることが、今回の東京・南青山のNORTON GALLERYでの個展を見てよくわかった。
渡邊は岡山県の出身なので、瀬戸内海は幼い頃から慣れ親しんだ場所である。今回展示された「内海」は6年間かけて制作されたシリーズで、フェリーの船上から見られた瀬戸内海の眺めを中心に構成している。とはいえ、写真のほとんどはブレていて、島影や船や地上の灯りも、揺らいだり、光跡を引いたりしている。固定した「風景」ではなく、むしろ彼女の内面の揺らぎがそのまま投影されたイメージとしての「内海」は、逆に強い喚起力を備えている。大判プリント(74.5×60センチ)と小さなプリント(19×24センチ)を組み合わせたインスタレーションも、とてもうまくいっていた。写真家として、力をつけていることの証といえるのではないだろうか。
次に必要なのは、今回のようにテーマを絞り込んだ、クオリティの高いシリーズを、コンスタントに発表していくことだと思う。そろそろ、写真集の刊行も視野に入れてもいいかもしれない。
2015/10/02(金)(飯沢耕太郎)
黄金町バザール2015
会期:2015/10/01~2015/11/03
黄金町界隈[神奈川県]
公式参加のアーティストは日本を含めてアジア7カ国から14組。それぞれ黄金町に滞在して制作した新作を発表したが、はっきりいって今年は不作だ。というか、毎年豊作とはいいがたいけれど、それでも1点か2点は心に響く作品があって、それだけでも満足感があったのに、今年はそれがない。言い換えればみんな平均点なのだ。なぜか? 今年のテーマは「まちとともにあるアート」というミもフタもないベタなもの。その線でアーティストが選ばれ、選ばれたアーティストもその線で発想して制作するため、なんだか似たり寄ったりのヌルい作品ばかりになったんじゃないか。要するに「まち」という日常を突き抜けるダイナミズムに欠けていた。まちにとってはいいかもしれないが、アートとしてはおもしろくない。まあよくあることだ。そんななかで唯一逆のベクトルを見せていたのがメリノのテンペラ画だ。この油彩画より古い技法で、現実のまちとはなんら関わりのない浮世離れした幻想世界を築き上げた作品群は、黄金町バザールのなかでは明らかに浮いている。流行や同調圧力に屈しないこの揺るぎない孤高の姿勢こそアーティストの鑑、といっておこう。この14組の展示以外では、建築系による「まちプロジェクト」に注目。道路に面した1階フロア全体を巨大なバスタブにしてしまった一級建築士事務所中村建築や、幅1間、3階建てという極端なプロポーションのちょんの間を吹き抜けにして、垂直に細長いスタジオを実現した(どうやって使うんだ?)アイボリィアーキテクチュアのプロジェクトがおもしろい。
2015/10/01(木)(村田真)
大坪晶写真展「Shadow in the House #01/#02」
会期:2015/09/24~2015/09/30
大阪ニコンサロン[大阪府]
大坪晶の写真作品《Shadow in the House》シリーズは、時代の変遷に伴って多層的な記憶を持つ家の室内空間を被写体としている。本個展では、チェコ共和国プラハにあるべトナ・ホラー・インスティチュートと、奈良県大和郡山市にある旧川本邸を撮影したカラー写真十数点が展示された。
1928年に個人宅として建設されたべトナ・ホラー・インスティチュートは、第二次大戦中の軍事的占領、戦後の共産主義体制下における没収、政府から教会への貸与、体制崩壊後の遺族への返還を経て、現在は、元の所有者の孫娘が管理する公共施設となっている。また、大正時代に建設された旧川本邸は、1958年まで遊郭として使用され、風営法制定による廃業後は下宿として間貸しされた後、現在は町の保存団体が管理し、奈良芸術祭「はならぁと」の会場として活用されている。
光の差し込む障子、畳の間に設えられた屏風、壁紙が剥がれて剥き出しになった土壁。使い込まれた家具のある居間やキッチン。複数の写真に登場する男性の肖像画は、実体はなくともこの場を支配するかのような「かつての持ち主」の存在感を強く感じさせる。そこに折り重なるように写し込まれた影。よく見ると、ある時は壁の染みのように、ある時は家具が壁に擦れた跡のように、亡霊のような黒い影が画面に写り込んでいることに気がつく。かつて人がそこにいた痕跡が、見えない気配のように、あるかなきかの影となって空間を漂っているのだ。
《Shadow in the House》シリーズは、人々の生活の痕跡や記憶を内包した古い家のドキュメンタリーであるとともに、場に潜在する見えない記憶を「影」として可視化するという演出や操作を含んでもいる。そうした演出や操作に対して、「正しい」ドキュメンタリーを信奉する立場からの批判があるかもしれない。だが、大坪の写真は、写真の記録の「客観性」/イメージは常に操作可能であるという二律背反を引き受けながら、見知らぬ他者の記憶という、想起や共有が困難なものへと接近する回路を開こうとしている。その撮影行為は、建物の歴史的経緯や持ち主について遺族や関係者から聞いた話に支えられており、オーラル・ヒストリー的な側面を合わせ持つ。それはまた、 痕跡を写した写真/写真というメディウム自体が光の物理的痕跡であるという、写真と痕跡をめぐる視覚的考察となっている。
2015/09/30(水)(高嶋慈)
2015 亜細亜現代美術 埼玉選抜展
会期:2015/09/29~2015/10/04
埼玉県立近代美術館一般展示室1[埼玉県]
コレクション展を見ようと思ったら、「すごいぞ、これは!」の半券じゃ見られないといわれ、シャクだから無料の一般展示室へ。昔は常設展示は無料だったはず(何十年前の話だ?)。たまたまやってた「亜細亜現代美術」、よくわからないが入ってみる。油絵が中心だが、日本画、彫刻、工芸もあって、アウトサイダー顔負けのケッサクもある。公募展にはインとアウトが混ざり合っていて、そこがおもしろい反面、だから浮上しないのだ。
2015/09/30(水)(村田真)