artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

風景画の誕生──ウィーン美術史美術館所蔵

会期:2015/09/09~2015/12/07

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

背後の窓に風景の描かれた16世紀の宗教画にはじまり、最初の風景画とも呼ばれるパティニールの青い風景画、ボスの模倣者やブリューゲルの追従者たち、絵画の黄金時代といわれた17世紀オランダのホイエン、ロイスダールらの風景画、18世紀のカナレットによるヴェドゥータ(都市景観図)まで、ネーデルラントを中心とした古典的風景画を集めている。印象派の風景画を見慣れた目には、なんで田舎の風景なのにこんなに人が多いんだろうとか、なんで屋外なのにこんなに暗いんだろうとか、なんでネーデルラントは平坦なのにこんなに険しい山が描かれてるんだろうとか思うはず。そりゃ彼らは風景を見て描いたんじゃなく、観念としての風景イメージを受け継いでるだけだからね。

2015/09/17(木)(村田真)

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松浦浩之「Super Acrylic Skin Trigonal Clone」

会期:2015/09/12~2015/10/17

東京画廊[東京都]

戦闘姿の少年少女を描いたアクリルの大作。輪郭線がはっきりしていて、手の痕跡をほとんど残さない。下地にプラチナ箔を置き、その上からモノクロームに近い抑え気味の色彩でフラットに塗り、唇や乳首だけ濃いピンクで彩っている。スーパーフラットなオタク絵画といってしまえばそれまでだが、現代の肉筆浮世絵と捉えれば案外100年後まで生き延びるかも。

2015/09/15(火)(村田真)

絵画を抱きしめて Part2「絵画に包まれて」

会期:2015/08/28~2015/09/20

資生堂ギャラリー[東京都]

パート1は大作絵画を中心にオーソドックスに見せていたが、パート2では絵画をのびのびインスタレーションしている。いちばん遊んでるのは流麻二果で、絵画をシートに拡大プリントしたものを切り抜いて床に敷き、壁に不定形のキャンバス画を掛けて、全体で巨大な絵具が飛び散ったような設定。佐藤翠はいつものようにクローゼットや靴箱を描いているが、いつもと違うのはキャンバスではなく鏡の上に描いてること。だから余白の部分はこちら側を映し出す。小品も30点ほど棚に並べているが、これも棚板が鏡になってるので絵や壁に光が反射してにぎやかだ。阿部未奈子だけは3点1組の大作を中心とするオーソドックスな展示。「絵画を抱きしめて」といいながら「絵画に包まれて」しまったじゃないか。

2015/09/15(火)(村田真)

試写『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』

ガウディのサグラダ・ファミリア教会を初めて知ったのは大学1年のとき、高見堅志郎先生の建築史の授業でのこと。奇怪な形状にもたまげたが、あと100年か200年は完成しないだろうという時間感覚の違いにもおったまげた。実際に見に行ったのはそれから10余年後で、作業は永遠に終わらないんじゃないかってくらい牧歌的に行なわれていたが、さらに10余年後に訪れたときにはずいぶん工事が進んでいて、これはひょっとしてぼくが生きてるうちに完成するかもと思わせた。この映画によると2026年に完成予定だというから急ピッチで工事が進んでることがわかる。映画ではとくにこの建築の秘密が新たに解き明かされるとか、開かずの小部屋にカメラが初侵入なんてこともなく、異貌の教会と主任彫刻家の外尾悦郎をはじめとする関係者の証言を淡々と映し出すだけだが、ガウディ好きには必見の作。


映画『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』予告編

2015/09/15(火)(村田真)

パク・ジフン「Condition Impossible」

会期:2015/09/12~2015/10/03

CAS[大阪府]

韓国ソウル在住の現代美術作家、パク・ジフンの個展。パクの作品は、キネティック・アートの系譜に属するが、明快で簡潔な構造と運動の要素には、社会構造や人間存在についての象徴性を読み取ることができ、テクノロジーについての考察というよりも哲学的な様相を帯びているのが特徴だ。
出品作《心の分割器》は、平行に設置された4本の長い金属棒が、中央で回転する短い棒に接触すると押されて動き出し、その動きが隣り合った金属棒に当たると、次々と連鎖反応のように動きを誘発させていく作品。4本の棒は、互いに独立したパーツでありつつも、連鎖的に反応し、平行線→W字型→先端の一点集中というパターンを反復し、同調と反発を繰り返しながらも、全体としてひとつの機構のなかに組み込まれている。
また、《心の計測器》は、4本の水平器を四角いフレーム型に組み合わせ、四隅にロウソクを取り付け、シャンデリアのように天井から吊り下げた作品。天井近くに仕込まれたモーターの動きによって絶えず揺らされることで、水平器は平衡を求めつつも、成就されることはない。両作品ともに、明快な構造を持ちながらも揺れや運動性を与えることで、安定や平衡を求める心と、規定するフレームの強固さや束縛感からの解放を求め反発する心との両方を感じさせ、金属的で幾何学的な外見を持ちながらも、人間存在の両義性を擬人化した「計測装置」となっていた。

2015/09/15(火)(高嶋慈)