artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

曾健勇「遺失の地」

会期:2015/06/06~2015/07/11

東京画廊[東京都]

中国紙に描いた水墨画が約10点。描かれているのはロバや牛のような動物が多く、描き方はマンガチックというかメルヘンチックだが、動物の体の半分は骨になってるのが尋常ではない。これは童話の世界らしいが、中国社会を暗に批判してるんじゃね? 正面の壁には直接ロバ(馬?)を描き、その上に鳥を描いた板を立てかけている。これもなにか意味がありそうな。

2015/06/10(水)(村田真)

高松次郎──制作の軌跡

会期:2015/04/07~2015/07/05

国立国際美術館[大阪府]

東京の国立近代美術館における高松次郎展は、キュレーターや展示のデザインによる遊び心を感じる内容だった。が、こちらは多くのスケッチ、作品、装幀の仕事などを増やし、時系列にそれぞれのシリーズを並べ、通常は常設に使うフロアも含めて、二層にわたって全館を使う大規模な正統派の回顧展になっていた。彼の作品において、平面上に描かれた空間は、建築的にみても興味深い。

2015/06/09(火)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00030097.json s 10113007

新納翔「築地0景」

会期:2015/06/09~2015/06/27

ふげん社[東京都]

新納翔は1982年、横浜生まれ。早稲田大学中退後、2009~10年にGallery Niepceのメンバーとして、本格的に写真制作活動をスタートさせた。前作の東京・山谷を7年かけて撮影した「Another Side」(2012年にLibro Arteから写真集として刊行)もそうだったのだが、新納は徹底して「内側からの視点」にこだわり続ける写真家だ。今回、東京・築地のギャラリーと書店とカフェが合体した「コミュニケーションギャラリー」ふげん社に展示された新作の「築地0景」でも、警備会社のガードマンとして勤務しながら、メインテーマである築地市場を撮影し続けたのだという。
愚直といえば愚直なドキュメンタリーの手法だが、結果として、とてもユニークな感触を備えた作品として結実したのではないかと思う。市場内のモノたちに寄り添うように撮影することで、普通は「見えない」それらの細部がありありと浮かび上がってくる。それだけでなく、商品や人がめまぐるしく動き回っているはずの高度資本主義経済のメカニズムが、むしろ冷ややかな距離感で捉えられているのが興味深かった。
いうまでもなく、築地市場は2016年中には豊洲に移転することになっている。いま写し出されている眺めは、近い将来には「失われたもの」になるわけだ。新納が、そのことを踏まえて撮影を続けているのは間違いないだろう。ぜひ移転後も撮影を続けて、いったん「0」に戻った市場の景色が、どんなふうに変質しつつ次の時間を刻んでいくのか、過去・現在・未来を包摂したシリーズとして成長していくことを期待したい。

2015/06/09(火)(飯沢耕太郎)

市田ひろみコレクション──世界の衣装をたずねて

会期:2015/05/30~2015/07/20

龍谷ミュージアム[京都府]

服飾評論家、市田ひろみ氏のプライベート・コレクションのなかから、アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、中南米の民族衣装58点を紹介する展覧会。市田氏は1960年代から40年以上かけて、100カ国以上を巡り、430セットの衣装を収集してきた。骨董商、市場、民家など、辺境の国々に足を運び直接交渉して入手したものばかりだという。技術の伝承が途絶え、もはや入手困難なものも多く、今回の出展品のように、丹念で繊細な手仕事がこれほどまでに良好な状態で残っているものはたいへん貴重である。
刺繍、ビーズ、レース、プリーツとさまざまな技法を用いた衣装の数々は、赤、緑、紫、青、黄、金、黒と彩りも豊かで、身を飾ること、着る人を美しく見せることは、衣服が本来備えるべき機能のひとつだと確信させられる。例えば、中国、漢民族の女性の婚礼衣装は、赤い絹地に金の刺繍で鳳凰が煌びやかに描き出されている。また、モロッコのトフレットの女性の婚礼衣装には、珊瑚や琥珀、銀のコインを連ねた頭飾りや幾重にも垂らした長いネックレスをつける。凛々しく荘厳に、かわいらしく華やかに花嫁を演出することによって、婚礼という儀式の意義がより確かになるのだと思う。しかし、こうした民族衣装は、ここ1世紀ほどのあいだに世界中から確実に消え去りつつある。だからこそ、このコレクションはますます貴重な存在になっていくだろう。[平光睦子]

2015/06/09(火)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00030941.json s 10112315

衣川泰典「スクラップブックのような絵画II」

会期:2015/06/09~2015/06/21

ギャラリー揺[京都府]

スナップ写真を元にした幾つもの日常風景を、1枚の画面に描いた大小の絵画作品が並んでいる。作者の衣川は、以前から雑誌などからの画像や自身が撮影した写真をコラージュ&着彩した作品を制作していたが、約2年前に絵画へ移行した。新作では地塗りの無いキャンバスの裏面を用いることで絵具の滲みを効果的に用いており、記憶のパノラマのような作品世界が一層強化されたように見える。また展示室に面した庭では、絵の題材になった風景写真をコラージュした巨大な本型オブジェも野外展示されており、屋内の作品との対比が印象的だった。

2015/06/09(火)(小吹隆文)