artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
藤原更「La vie en rose Phosphorescences」
会期:2015/05/22~2015/06/20
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
藤原更が2012年に同じEMON PHOTO GALLERYで開催した「Neuma」は、なかなか印象深い展示だった。大判のインスタントカメラのフィルムで、蓮の茎や葉、水面などを撮影した画像をスキャンして拡大した作品は、緩やかにうねりつつ流れる音楽を画面に封じ込めたような、繊細な触感を感じさせた。だが、今回の「La vie en rose Phosphorescences」では、同じ色彩とマチエールの音楽でも、まったく異なる印象を与えるものになっている。
「La vie en rose」というのは、いうまでもなくエディット・ピアフの名曲「ばら色の人生」からとられたタイトル。藤原が2014年に参加したフランス・アヴェロン県で開催されたフォト・フェスティバルの共通テーマだったのだという。タイトル通りに、今回は薔薇の花をクローズアップで撮影した作品が並んでいた。透明な素材にプリントする、布にプリントして天井から吊り下げる、アルミ板に反射させて奥行き感を出すなど、さまざまな工夫を凝らして、薔薇の宇宙に包み込まれるようなインスタレーションを試みている。つい「花肉」という言葉を使いたくなるような、ぬめりを帯びた生々しい触感と、ヴィヴィッドな原色の使用が、このシリーズを特徴づけているといえるだろう。本作はソウル、ニューヨークでも展示され、好評を博したようだが、まださらなる展開がありそうだ。薔薇の象徴性とエロス性を、より強く打ち出していくことで、作品の強度をもう一段上げていってほしい。薔薇と他の被写体(たとえば人の )などとの組み合わせも考えられそうだ。
2015/06/05(金)(飯沢耕太郎)
Konohana’s Eye ♯8 森村誠「Argleton far from Konohana 」
会期:2015/06/05~2015/07/20
the three konohana[大阪府]
地図や辞書から特定の文字を塗りつぶす、切り取るなどした作品で知られる森村誠。作品から垣間見えるのは、過剰なまでの情報社会とそれに依拠する人間の姿であろうか。また、制作にかかる膨大な時間と労力、ストイックな姿勢も、作品の存在感を下支えしている。本展では、雑誌や広告に掲載された大阪市内の地図を素材とし、文字情報を消した地図を大量に繋ぎ合わせて架空の都市を出現させた。ちなみに展覧会タイトルの「Argleton(アーグルトン)」とは、2008年にグーグルマップ上で発見された実在しないイギリスの町で、森村の作品世界と奇妙なシンクロを見せている。作品は、刺繍枠をフレームとする小品の他、無限に拡張可能な大作、天井から吊るすタイプなど。これまでにない多様性が感じられ、彼の過去の個展と比べてもスケールの大きなものであった。
2015/06/05(金)(小吹隆文)
柴田精一 新作展
会期:2015/05/30~2015/06/27
折れ曲がりのあるレリーフや、万華鏡のイメージを思わせる切り紙作品などで知られる柴田精一。本展では上述した作品の他、雀や猫をモチーフにした絵画作品を出品。絵画は、複数の筆が並ぶ特製品を用い、複数の同一モチーフを同時に描くという珍しい手法が取られていた。雀を咥えた猫を描いた絵画や、女性の顔の周囲を複数のカラスが飛翔するレリーフなど不気味な印象を与える作品もあったが、その背景には「神戸連続児童殺傷事件」(1997年)があるとのこと。犯人と同世代で神戸育ちの柴田があの事件から受けた影響の大きさに思いを馳せた。さらに驚愕したのは、本展の会期中に事件の犯人だった少年Aが単行本を出版したことだ。この不可思議な共時性は一体どういうことだろうか。
2015/06/05(金)(小吹隆文)
モダン百花撩乱──大分世界美術館
会期:2015/04/24~2015/07/20
大分県立美術館[大分県]
「大分が世界に出会う、世界が大分に驚く『傑作名品200選』」と銘打ち、大分県立美術館の開館記念展Vol.1として開催された展覧会。会場は5部構成。第1章「モダンの祝賀」、第2章「死を超える生・咲き誇る生命」、第3章「日常の美 人と共に生きる〈もの〉と〈かたち〉」、第4章「画人たちの小宇宙」、第5章「視ることの幸福」と章立てはなかなか大掛かりである。
出品作品はじつに多岐におよぶ。大分の画家、片多徳郎の抽象画にはじまり、ピカソ、マティス、ダリ、ミロ、カンディンスキー、ポロックといった海外の巨匠たちから青木繁、坂本繁二郎、白髪一雄、吉原治良そして奈良美智といった日本人の画家たちまで絵画だけをとってもまさに百様だ。それにウィリアム・モリス、民芸、北大路魯山人、長次郎、三宅一生、イサムノグチらの工芸やデザインが加わって、撩乱と呼ぶにふさわしい賑わいを見せる。これほどの作品群をいかに見せるのか。会場では、予想もしない大胆な組み合わせの展示があちこちでみられた。第3章の会場の一角で、濱田庄司の鉢からふと目を移して尾形乾山の猪口にでくわしたときには不意をつかれた思いがした。そうかと思えば、第2章の会場では油絵の展示のなかに、石内都の写真作品《ひろしま》シリーズの数点が違和感なく佇んでいる。一度に見るのは勿体ないほどのラインナップだが、長谷川等伯の《松林図屏風》、雪舟の《山水図〈倣玉潤〉》、千利休の花入など、期間限定の展示替えの作品もあるというから何度でも足を運びたくなる。
大分県立美術館の館長に就任した、新見隆氏によると、視るということは野蛮な行為らしい。会場を巡り次から次へと視界に映る作品を追いながら、まだ視られる、もっと視たいと勇むような思いになったのは、知らず知らずに視ることへの本能的な欲望を刺激されていたからかもしれない。[平光睦子]
2015/06/05(日)(SYNK)
MONSTER Exhibition 2015
会期:2015/06/04~2015/06/08
渋谷ヒカリエ 8/COURT[東京都]
渋谷ヒカリエの8階にて、MONSTER exhibition2015が開催された。被災地の仙台で企画された怪獣をテーマにした公募であり、デザインやアートが同居する異種格闘技の雰囲気は、以前審査を担当したキリン・アートアワードを思い出す。今回は造形としてのデザインよりも、精神的な脅威としての怪獣性に注目し、児玉龍太郎の13分の不穏な短編映画『小僧枯』が気になった。本展はニューヨークに巡回する予定だが、『ゴジラ』や『チャッピー』など、日本リスペクトの映画が海外で次々と発表されるなか、本家の怪獣に対する創造力を見せてほしい。
2015/06/03(水)(五十嵐太郎)