artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

向山裕「砂の原野・霊告II」

会期:2015/06/10~2015/06/29

日本橋高島屋6階 美術画廊X[東京都]

イカやカツオノエボシといったちょっと変わった海洋生物や、アホウドリの模型などを描いている。半分くらいはユマニテ東京で見たことあるなあ。最近「マグリット展」を見たせいもあるが、背景の処理などがマグリットを思い出させる。マグリットはメインのモチーフ以外はいい意味で適当に描いている。モチーフを生かすため背景描写にのめり込まず、あっさりとした状況説明で止めているのだ。向山も砂浜や海原など、いってしまえばどうでもいい風景描写が巧みになった。そもそもカツオノエボシなんか存在そのものがシュールだから、背景はさりげないほうがいい。

2015/06/13(土)(村田真)

合田佐和子「喜びの樹の実のたわわにみのるあの街角で出会った私たち もう帰る途もつもりもなかった」

会期:2015/05/26~2015/06/14

みうらじろうギャラリー[東京都]

1994年以降に撮られたバラの花の写真と、それをもとに描いた花の絵。これらの写真は絵を描くための素材として撮りためたもので、見せるつもりはなかったという。それにしても、どうして女性が花の絵を描く(または写真を撮る)と情念的というか、肉感的になるんだろう。ありていにいえば女性器に見えるわけだけど、そうでなくてもどこか温もりが感じられるのだ。アラーキーが撮ってもメイプルソープが撮ってもそうは感じられないのに。花に囲まれて1点だけ、グレタ・ガルボと卵の組み合わせがあった。合田人気に加え、最終日に近いせいか人が多い。ちょっと着飾った男が熱心に見ていて、ときおり画廊の人に野太いオネエ言葉で質問していた。帰りぎわチラッと見たら美川憲一だった。

2015/06/13(土)(村田真)

眞島竜男──無題(Live Die Repeat)

会期:2015/05/23~2015/06/20

タロウナス[東京都]

トム・クルーズが出演する映画ポスター全36点を展示。1999年にアートイング東京で発表した作品に、新作ポスターを追加したものだが、よく見ると『トロピック・サンダー』と『ゴールドメンバー』の2枚のポスターにはトム・クルーズの顔も名前も載ってなかった。気になったので帰って調べたら、どちらにもほんの少し出演していたことが判明。ということは、顔も名前もどーでもいいのね。

2015/06/13(土)(村田真)

資本空間 vol.2 村上華子

会期:2015/05/30~2015/07/04

ギャラリーαM[東京都]

ネットで見つけた雲のイメージを銀メッキした銅板に転写し、ダゲレオタイプ化した写真。マヤ暦最後の日である2012年12月22日をコロンビアで迎え、翌日世界の終わりが来なかったことを祝し、印刷屋で刷ってもらった踊る男女と2羽のニワトリのポスター。芽吹いたころは食用として重宝されるが、大きくなると役に立たないウドの大木の鉢植え。これらはいずれも作者自身の書いた解説による。解説込みの作品なので、写真をつくってるわけでもポスターをつくってるわけでもなく、物語をつくってるというべきだろう。いちばんわかりやすいのは、あぶらとり紙で自分の顔を拭いた聖ヴェロニカ風自画像。これは写真の原点でもある。

2015/06/13(土)(村田真)

西江雅之写真展「影を拾う」

会期:2015/06/12~2015/06/27

ギャラリー・ハシモト[東京都]

西江さんはもう40年も前に、真夏の集中講義で文化人類学を教えてくれた先生。話はスワヒリ語からポロックの絵画まで、めっぽうおもしろかった。例えばアフリカで喉が渇いたとき、濁った水ときれいに澄んだ水のどちらを飲むか。ふつうきれいな水を選ぶが、先生は澄んだ水は細菌も棲めないほど猛毒かもしれないので、濁った水を選ぶと。あと、毎日生肉を食べてたり、10カ国以上の言語を話せたり、天才とか奇人とかいうより怪人の類いだった。写真はケニアのマサイ族、インド、ネパール、ハイチのヴードゥー教、パプアニューギニアなど、世界の民族を撮ったもので、約70点。モノクロームも数点あるが、大半はカラー。写真集『花のある遠景』の出版記念展というが、これを見た翌日、西江さん死去の報。なんと!

2015/06/13(土)(村田真)