artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

東京 ソウル 台北 長春 官展にみる近代美術

会期:2014/06/14~2014/07/21

兵庫県立美術館[兵庫県]

第二次世界大戦前の日本と、当時日本が統治していた朝鮮、台湾、旧満州で行なわれていた官展の出品作を通して、20世紀前半の東アジアの美術状況を考える展覧会。各地域の官展出品作や、審査員を務めた作家の作品約130点が出品された。企画にあたっては日本だけでなく、韓国、台湾の研究者・学芸員も共同参加している。4つの地域のうち旧満州の作品は少なかったが、その背景には、同地域の歴史的経緯、研究者の不在、現在の日中関係が影響している。作品を見ると、民族衣装や地域特有の風土を強調した作品が少なくない。その背景には、審査員(=日本人)がエキゾチックな表現を求めたという側面もあるようだ。図録を見ると、綿密な調査が行なわれたことがわかり、本展が労作であったことがわかる。このような企画は、四半世紀ほど前なら「反動的」の一言で葬り去られていたのではなかろうか。そう考えると、本展の実現は画期的な出来事と言えるだろう。戦前の官展作品以外にも、歴史的経緯や政治状況により客観的な評価が阻まれている作品があるかもしれない。今後、そうした作品にもスポットライトが当たることを望む。

2014/06/14(土)(小吹隆文)

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オサム・ジェームス・中川「GAMA CAVES」

会期:2014/06/06~2014/07/19

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

1962年にアメリカ、ニューヨークに生まれ、日本で幼少期を過ごし、テキサス州ヒューストン大学で写真を学ぶ。この経歴を見ると、オサム・ジェームス・中川が、写真を通じて「日本とアメリカという二つの国にまたがる自身のアイデンティティ」を探求する方向に進んだのは当然といえるだろう。長くアメリカ軍の統治下にあった沖縄は、彼が結婚した女性の出身地でもあった。
2000年代以降、中川は「バンタ」と称される海に面した崖を撮影し始める。「バンタ」の崖下やその周囲には「ガマ」と呼ばれる洞窟が口をあけていた。「ガマ」は宗教儀式がおこなわれる聖地であるとともに、第二次世界大戦末期に沖縄の住人たちが戦禍を逃れて身を寄せた場所でもあった。中川はその「沖縄の霊魂、祖先、歴史、記憶が宿る神聖な場所」を、懐中電灯で照らし出しながら、長時間露光で撮影していった。今回フォト・ギャラリー・インターナショナルで展示されたのは、昨年、写真集『GAMA CAVES』(赤々舎)として刊行されたこのシリーズから抜粋された作品である。
中川の仕事は、風景のディテールへの異様なほどのこだわりによって特徴づけられる。「GAMA CAVES」でも、闇の中から浮かびあがってくる洞窟の内壁の湿り気を帯びた凹凸が、恐るべき吸引力で眼をとらえて離さない。陶器やガラスのかけら、骨片、貝殻、布のようなものなど、洞窟内での暮らしの痕跡もまた克明にとらえられ、その総体が重い「問いかけ」として見る者に迫ってくる。静かだが力強い作品群だ。
なお、同時期に東京・中野の写大ギャラリーでも「沖縄─GAMA/ BANTA/ REMAINS」展が開催された(6月2日~8月3日)。「GAMA」、「 BANTA」の両シリーズに、沖縄の戦跡を撮影した「REMAINS」を加えた展示である。

2014/06/11(水)(飯沢耕太郎)

瀧本晋作 展「崖・Yellow cliff」

会期:2014/06/10~2014/06/18

LADS GALLERY[大阪府]

プラスチック製ダンボールを積層し、熱線ワイヤーでカットした立体作品を制作する瀧本晋作。彼はこれまでは具象的なモチーフを選んできたが、本展では巨大な崖を思わせる大作や立方体など、抽象度の高い新作を発表した。崖にせよ立方体にせよ、新作の魅力は巨大さゆえの量塊性と、素材特有の軽やかさが同居していることだ。また、作品表面に刻まれたザクザクとした切断面も見所のひとつである。作家自身、この新たな方向性にはまだ迷いがあるようだが、はっきり言って、過去作よりも今回の新作の方が遥かに面白い。当分この方向性で制作を進めるべきだ。

2014/06/11(水)(小吹隆文)

富田有紀子

会期:2014/05/31~2014/06/14

ギャラリー椿[東京都]

富田が版画やインスタレーションから油彩による花のような絵に絞ったのは、90年ごろだったか。だとするともう四半世紀近い。当初の花のような絵から明確に花になり、そこに果実が加わり、なぜか洞窟が割り込んできたりもしたが、基本的に植物を描き続けている。今回はザクロの種が加わり、そこからの連想なのかイクラも登場、さらに青いガラス玉まで引っぱり出してきた。質感や透明感などかなりリアルに描いてるが、写真的リアリズムにはない手仕事感が富田らしいところ。タイトルに付されたナンバーを見るとすでに千近い(もう超えてるかも)。ならせば年に40点。これからも注目し続けたい画家のひとり。

2014/06/10(火)(村田真)

石内都 展──幼き衣へ

会期:2014/06/05~2014/08/23

LIXILギャラリー[東京都]

背守り展と同時開催。年季の入った幼児の着物ばかりを撮っている。蜷川実花ばりにハデな色合いだが、比べものにならないくらい陰影が深く、重い。着物自体が古いため多くの時間を集積しているのは間違いないが、それだけでなく昔は1枚の着物を何代にもわたって着ていたというから、たくさんの子どもの垢(アウラといってもいい)がずっしりこびりついてるのかもしれない。一種の心霊写真。

2014/06/10(火)(村田真)