artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより
会期:2014/06/20~2014/08/24
東京国立近代美術館[東京都]
台湾の電子部品メーカーのCEOピエール・チェンが設立したヤゲオ財団のコレクション展。コレクションは台湾のアーティストから始まり、中国、欧米の現代美術へと広がっていったという。何人か挙げると、ロスコ、ベーコン、ウォーホル、リヒター、キーファー、ジョン・カリン、ピーター・ドイグ、グルスキー、ザオ・ウーキー、杉本博司、蔡國強といった顔ぶれ。あまり脈絡がないというか、選択の基準は「値が急上昇してるもの」じゃないかと勘ぐりたくなる。作品としてはオペラシティで紹介された石川コレクションのほうがおもしろかった。むしろ「美的価値」だけでなく「市場価値」を加味した展覧会の構成に興味がわいた。チラシや解説で作品の美的価値をたたえつつ市場価値をほのめかしたり(市場価値が美的価値を後押しする?)、もっと露骨に50億円で作品を買うゲームを用意したり。カタログもパートごとに扉の上段は美的価値、下段は市場価値の話題に書き分けている。つまり二枚舌。巻頭の財団理事長ピエール・チェンへのインタビューはつまらないが、その裏版ともいうべき保坂健二朗氏のQ&A「なぜ美術館でコレクターの展覧会が行われ、現代美術が『世界の宝』と呼ばれたのか?」は近年稀に見るおもしろさだった。とくに最後の「美術館とコレクターの関係」は目からウロコ。展覧会のカタログを(しかも国立美術館の)こんなにわくわくしながら読んだのは何十年ぶりだろう。いやー近美も変わったもんだとつくづく思う。いい意味でね。
2014/06/19(木)(村田真)
GALLERY FUNATSURU 第一期(2014年・夏)「川床に満つるは宴の調べ」
会期:2014/06/20~2014/08/21
GALLLERY FUNATSURU[京都府]
京都の四条河原町から5分ほど南に下った木屋町通り沿いにある、結婚式場&宴会場&レストランのFUNATSURU KYOTO KAMOGAWA RESORT。同店が「GALLERY FUNATSURU」と題し、施設内に美術作品の展示を行なうことになった。その第1弾として選ばれたのは、井上雅博(表具師)、かのうたかお、谷口晋也、津田友子(以上、陶芸家)谷口正和(彫刻家)、前川多仁(染織家)の6作家。大正時代に建てられた料理旅館をリノベーションした空間にふさわしい、和とモダンの融合が見どころだ。作品を見るだけでも入場できるので、美術館や画廊とは違ったアートスポットとして、今後注目を集めるだろう。なお、この企画のディレクションは、白白庵(有限会社ニュートロン)の石橋圭吾が担当。今後約3カ月ごとに展示替えが行なわれる。
2014/06/19(木)(小吹隆文)
琳派展XVI:光琳を慕う──中村芳中
会期:2014/05/24~2014/06/29
細見美術館[京都府]
江戸時代後期に大坂を中心に活躍した絵師、中村芳中(?~1819)の展覧会。芳中の描いた屏風や図絵、扇面、木版などを中心に、尾形光琳による屏風や乾山による絵付茶碗、芳中と同時代に活躍した絵師らの作品が会場に並ぶ。琳派といえば、第一世代の本阿弥光悦や俵屋宗達から第二世代の尾形光琳と乾山へ、そして江戸琳派と称される第三世代の酒井抱一までの流れが思い浮かぶ。のびやかな形態の抽象化、おおらかで力強い構成、はなやかで優美な色彩を特徴とする、日本美術を代表する流派のひとつである。
芳中を琳派の一角に位置づけたのは《光琳画譜》(1802)である。琳派の特徴はたしかにみられるものの、第一印象は「やさしい」である。しかも、気抜けするほどに「やさしい」。梅も蒲公英も葵も、仔犬も鳩も鹿も、六歌仙も七福神も、皆のんびりほのぼのとした笑顔で、かつ形象はどこまでも丸い。相当の描写力がなければこのように描くことはできないとは思うものの、それを感じさせないほどに筆致はいかにも軽快で、なんの気負いもなく気楽に描いたかのようにみえる。さらに、芳中が得意とした技法、たらし込みが画面を和らげる。たらし込みは濃淡の異なる絵の具をにじませてむらをつくる塗り方で、俵屋宗達が生み出した技法というから琳派としても正当な技法なのであろう。
時代は、上方が華やいだ元禄期を終えて、江戸が主役の文化・文政期を迎えようとしていた。江戸の庶民はきりりと引き締まった粋を好み、滑稽や洒落、風刺をもてはやした。芳中は《光琳画譜》を刊行して間もなく帰坂し、生涯を大坂で閉じる。江戸での活動はわずかな期間であった。江戸を後にするとき、彼はなにを思ったのだろうか。どこまでもやさしい作風に、その人柄を想像せずにはいられなかった。[平光睦子]
2014/06/18(水)(SYNK)
佐藤翠 展「A June House」
会期:2014/06/02~2014/07/04
第一生命南ギャラリー[東京都]
計9点の展示。正面の壁にはカーペットを描いた200号の大作が3点並び、1点はカーペットらしい装飾が施されているが、あと2点はほとんど抽象画。ほかに、壷、靴、皿などが並ぶ棚を描いた100号3点と80号1点、上に靴、下に服が並ぶクローゼットが1点。残る1点は異質で、S130号に花のある風景を描いているが、正方形のせいかクリムトを想起させる。気づくのは、花を除けば、カーペットも棚もクローゼットもすべてモチーフは矩形で、それを正面からとらえて画面にぴったし収めていること。つまりカーペットや棚の輪郭が画面の枠に一致しており、カーペットの柄や棚の内容がそのまま絵柄、絵の内容にスライドしているのだ。形式と内容の過不足のない一致、と書くと窮屈そうに聞こえるかもしれないが、佐藤の優れたところはそんな「不自由さ」を微塵も感じさせない点にある。
2014/06/17(火)(村田真)
ヴァロットン──冷たい炎の画家
会期:2014/06/14~2014/09/23
三菱一号館美術館[東京都]
ヴァロットンは美術史の主流に躍り出ることはなかったけど、知る人ぞ知る、ある意味もっとも「おいしい」立場にいる画家かもしれない。その微妙な立ち位置や、一風変わった造形的センスは、同じスイスのホドラーやバルテュスとどこか似ている。この3人が今年日本で紹介されるというのも偶然ではないだろう。肖像画家から出発したという端正な人物画をはじめ、浮世絵の影響が指摘できそうな大胆な構図の風景画、ときおりマンガチックな木版画、古典的なのに斬新なヌード画まで、けっこう楽しむことができた。こういう埋もれかけた画家をもっと発掘してほしいものだ。
2014/06/17(火)(村田真)