artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

長尾恵那 展 みどりいろのかたまり

会期:2014/06/21~2014/07/13

ギャラリーあしやシューレ[兵庫県]

長尾恵那の木彫作品といえば、つぶらな瞳でこちらを見つめる人物像が思い浮かぶ。特に少年をモチーフにした作品は秀逸で、その健康優良児的な存在感には有無を言わせぬ魅力が感じられた。ところが本展では作風を一転、民家の生け垣など植物をモチーフにした作品ばかりが並んでいた。出品作品には大作と小品があり、後者は一目でモチーフがわかるものの、前者は緑の巨大な球体や長方形で、抽象彫刻のようであった(画像)。彼女は実力のある作家なので、この新展開でも一定レベル以上の仕事を残すであろう。しかし、人物像を手放そうとしているのであれば、それはあまりにも勿体ない。できれば今後も、あの魅力的な少年たちと再会したいのだが……。

2014/06/27(金)(小吹隆文)

ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展

会期:2014/06/28~2014/09/15

世田谷美術館[東京都]

モネの《ラ・ジャポネーズ》を中心に、ボストン美術館の所蔵品で構成された「ジャポニスム展」。1年の修復を経て初めて公開される《ラ・ジャポネーズ》は高さ230センチを超す大作で、色彩も鮮やかに蘇ってる(修復前は知らないけど)。でもね、団扇をベタベタ貼った壁の前で、赤い和服を着た金髪の白人女性が扇子を広げてポーズをとる姿は、考えてみればかなり悪趣味だ。だから現代にはぴったりマッチするのかもしれない。ほかにもゴッホ、アンソール、マティスらの絵画、ホイッスラー、メアリー・カサット、ロートレックらの版画、エミール・ガレのガラス器、そして日本の浮世絵や工芸品まで並べて、19世紀の欧米における日本美術の影響を探っている。すごいのは、これらがあっちこっちからかき集めたのでなく、ひとつの美術館から借りてきたものであることだ。西洋美術だけでなく、日本美術のコレクションでも知られるボストン美術館だからこそできたこと。ただ、ゴッホの模写した広重はあっても、ゴッホの模写自体はないんだよねえ。さて、今日は内覧会。《ラ・ジャポネーズ》の部屋に行ったら、作品の前で同じ着物姿の女の子がポーズをとってる。谷花音ちゃんという子役だそうだが、最近こういうの多いなあ。大きな展覧会の内覧会には必ずといっていいほどタレントが出てきて、目玉作品の前でフォトセッションをする。それはいいんだけど、10歳の女の子に「ジャポニスム展はいかがでした?」なんて聞いてどうする。「悪趣味だと思いました」と答えたらホメてやりたいけど。

2014/06/27(金)(村田真)

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手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから

会期:2014/05/31~2014/07/27

宮城県美術館 本館展示室3・4[宮城県]

宮城県美術館にて、手治虫と石ノ森章太郎の二人を比較する「マンガのちから」展を見る。去年の東京都現代美術館ですでに訪れたので、二度目だ。言うまでもなく、この二人は、映画などの影響を受けつつ、漫画の文法やジャンルを創造した。展示ではトキワ荘が3/4で再現されている。そのせいもあるかもしれないが、室内の畳の上の机が、座って使うタイプのものとはいえ、おそろしく低い。漫画家の身体スケールを正確に知りたいのだが、内部も3/4なのだろうか。ところで、宮城県美でサブカルチャー系の展示はめずらしいが、石ノ森が宮城県の出身だからなのかもしれない。ちなみに、手は1928年生まれで槇文彦、石ノ森は1938年生まれで渡辺豊和と同じ年だ。いかに漫画家が早熟なのかがよくわかる。

2014/06/27(金)(五十嵐太郎)

岸幸太「もの、せまる」

会期:2014/06/13~2014/07/06

photographers' gallery[東京都]

岸幸太の今回の展示は、大阪・西成地区で採集した「もの」を大伸ばしした5点のモノクロームプリント。バナナの皮、訳の分からない金具と小銭、段ボール箱、「南部鉄器 文鎮」と記されたパッケージなどが、地面に落ちている様をクローズアップで撮影している。どうということのない「もの」たちの来歴が、じわじわと滲み出てくるように感じる。隣接するKULA PHOTO GALLERYでは、同時期に撮影された大量の「もの」の画像を、スライドショーで上映していた。
だが、メインの展示以上に面白かったのは、会場に置かれていた『GAREKI Heart Mother』と名づけられたポートフォリオ・ブックの方だった。岸は2013年3月から9月にかけて5回ほど、福島県楢葉町、浪江町、南相馬市の海岸に出かけ、そこに落ちていた瓦礫を拾い集めて、奇妙なオブジェを作り上げて撮影した。木切れ、網、布、プラスチック製品、ぬいぐるみなどが、危なっかしいバランスを保って積み上げられている。『GAREKI Heart Mother』というネーミングは、いうまでもなくピンク・フロイドの「原子心母」(Atom Heart Mother)から来ている。これも原発事故の現場に近い場所にふさわしいものだ。
ある場所で見出された「もの」を、その場で作品化して、撮影するというサイトスペシフィックな行為は、批評性を含み込むだけではなく、何が出てくるのかわからない面白さがある。岸が次に同じ場所に行ってみると、以前作ったオブジェが半ば崩壊していることが多かった。その状態のまま、あるいは作り直して撮影する場合もあったという。実は2014年3月10日~20日に、実際にオブジェを再現したインスタレーションをphotographers' galleryで展示したこともあった。だが、それはやや意味合いが違ってくる気がする。この作品においては、いつの間にかでき上がっていては消えていくという、「はかなさ」がむしろ重要なのではないだろうか。

2014/06/25(水)(飯沢耕太郎)

台北 國立故宮博物院

会期:2014/06/24~2014/09/15

東京国立博物館[東京都]

中国のお宝が台湾からやってくる。同じ台湾の「宝」でも、保険評価額でいえばヤゲオよりこちらのほうがはるかに高いはず。東博と東近の格の違いだ。ただ、金銀きらびやかな西洋やオリエントと違い、いかにも高そうなモノがないのが東洋のお宝。つまり目を刺激するものが少なく、ジミーちゃんなのだ。案の定、前半は書画が多くて退屈する。でも陳列ケースに展示された書画の上にその拡大写真が置かれ、色も明度もクリアなのでついそちらのほうばかり見てしまう。じゃあ手前のホンモノはなんのためにあるのか。後半になると磁器、刺繍、玉器など工芸品が増えて少し楽しめる。とくに《紫檀多宝格方匣》はミニチュア工芸品を入れたコンパクトなコレクションボックスで、箱の内部は小さな陳列棚になっており、西洋のヴンダーカマーをさらに縮小・凝縮したかたち。しかも展示室そのものがこの箱を模していて、入れ子状のミクロコスモスを強調している。そして最後に登場するのが、本館の特別展示室で限定公開される(もう終わっちゃった)最大の目玉《翠玉白菜》。翡翠を彫って白菜(+イナゴ)に見立てた高さ20センチ足らずの彫刻だが、台湾でもこの展示室の前には連日長蛇の列ができるほどの人気という。たしかに翡翠は宝石だけど、そんな貴重な石でわざわざ虫の止まった白菜なんか彫るかよ。白菜は純潔を、虫は多産を象徴するという説もあるが、じつは翡翠という高価な素材を庶民的な白菜に変えることで価値の転倒を図ろうとしたのではないか。一種の逆錬金術。それって現代美術の発想か。

2014/06/23(月)(村田真)

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