artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
榮榮&映里「妻有物語」
会期:2014/06/11~2014/07/12
ミヅマ・アート・ギャラリー[東京都]
中国人の榮榮(ロンロン)と日本人の映里(インリ、本名鈴木映里)のカップルは、1990年代から二人の身体性を重ね合わせるような作品を制作してきた。今回、東京・市谷のMIZUMA ART GYALLERYで展示された「妻有物語」は、2012年の「大地の芸術祭」(越後妻有アートトリエンナーレ)への参加を機に構想・制作されたシリーズである。雪深いその地域の温泉や田んぼを背景にして、榮榮、映里、そして彼らの三人の息子たちによるパフォーマンスが展開される。
以前の彼らの作品には、自らを取り巻く社会状況への違和感を、激しく挑発するような身振りで表明するものが多かった。だが年齢を重ね、家族の絆が深まるとともに、作品の質も少しずつ変化してきた。今回のシリーズの基調となっているのは、不安や苛立ちではなく共感と安らぎである。それは彼らの作品の質感にも明確にあらわれていて、以前のコントラストの強いくっきりとしたモノクロームプリント(時に手彩色が施される)に変わって、柔らかな白っぽいトーンが選ばれている。手彫りの白木のフレームや、茶室のような空間へのインスタレーションなども、以前にはなかった試みだ。
これらを表現意識の弛み、テンションの低下と見ることもできるだろう。だが、彼らが「新たな概念のもとプリントを作り直した」のは、相当の覚悟を決めてのことだったのではないだろうか。中国と日本を行き来しつつ、新たな家族像の再構築と作品の展開を同時に進めていこうという、強く、しなやかな意志を感じとることができる展示だった。
2014/06/21(土)(飯沢耕太郎)
「バルテュス 最後の写真─密室の対話」展
会期:2014/06/07~2014/09/07
三菱一号館美術館(歴史資料室)[東京都]
東京都美術館で開催された「バルテュス展」(4月19日~6月22日、7月5日~9月7日に京都市美術館に巡回)にあわせて、とても興味深い写真展が開催された。「20世紀最後の巨匠」バルテュス(1908~2001)は、1992年~2000年にかけて、アトリエのあるスイス・ロシニエールのグラン・シャレーの一室で、アンナ・ワーリという少女をモデルに油彩画を描いていた。彼は繰り返し綿密なデッサンを描いてから本格的に制作に取りかかるのだが、この頃になると指先のコントロールがむずかしくなってくる。そこで、鉛筆でのデッサンの代わりに用いるようになったのが、カラー・ポラロイド写真であり、8年間に約2000枚が撮影されたという。そのうち約170枚を選んで、「バルテュス創作の秘密」を解きあかそうとしたのが本展である。
バルテュスはソファに横たわる少女のポーズを微妙に変えながら、光線を吟味しつつ、何枚も続けてシャッターを切っている。それはむろん、絵画作品の下絵として使用するためなのだが、写真を見ていると、単純にそうともいい切れないのではないかと思えてきた。つまり、撮影を続けているうちに、彼はポラロイド写真というメディウムの不思議な魅力に、次第に絡めとられていったのではないだろうか。ポラロイド独特のぬめりを帯びたテクスチュア、ほのかな光の中に震えるようにして出現する少女の裸体の官能性、8歳の少女が大人の女性へと変容していくプロセスを記録していくことの面白さ、それらをバルテュスは歓びとともに受け入れ、撮影の行為にのめり込んでいったのではないかと想像できるのだ。
残念なことに、彼の写真の仕事は最晩年の時期に集中している。もう少し時間があれば、「写真家・バルテュス」のさらなる飛躍を見ることができたかもしれない。
2014/06/20(金)(飯沢耕太郎)
石内都「幼き衣へ」
会期:2014/06/05~2014/08/23
LIXILギャラリー[東京都]
石内都は多摩美術大学で染織を学んだという経歴を持つ。そのためもあるのだろうか。布を被写体とする時には、独特の嗅覚を働かせ、テンションの高い作品になることが多いように思う。広島の原爆資料館の遺品を撮影した「ひろしま」のシリーズがそうだし、近作の『Frida by Ishiuchi』(RM)でも、メキシコの女流画家、フリーダ・カーロの遺品の衣裳をテーマにしている。今回東京・京橋のLIXILギャラリーで開催された「幼き衣へ」も、いかにも石内らしい作品に仕上がっていた。
本展は同時期に隣接するギャラリースペースで開催中の「背守り 子どもの魔除け」展の関連企画である。背守りとは子どもの着物の背中に縫い付けられた魔除けのお守りのことで、背後から忍び寄る魔物を防ぐために、糸で印をつけたり、刺繍を縫い込んだりする。石内都は、それらの愛らしく、心を打つお守りを中心に、お寺などに奉納、保存されている背守りのついた着物を丹念に撮影していった。
石内の撮影の仕方は、いわゆるカタログ写真とは一線を画する。着物の全体像を精確に指し示すよりは、むしろ心惹かれる細部にこだわり、画面の傾きやピンぼけなども意に介さず撮影している。結果として、その着物を実際に身に着けていた子どもたちの存在までも想像させるような力が備わっているように感じる。大小19点の作品を、バランスよく配置していくインスタレーションも、よく練り上げられていた。本年度のハッセルブラッド国際写真賞を受賞するなど、石内の充実した仕事ぶりが、作品にもよくあらわれていた。
2014/06/20(金)(飯沢耕太郎)
プレビュー:美術の中のかたち─手で見る造形 横山裕一 展「これがそれだがふれてみよ」
会期:2014/07/19~2014/11/09
兵庫県立美術館[兵庫県]
視覚障害者が美術作品に手で触れる機会と、視覚に偏重しがちな美術体験の再考を目的とした展覧会。25回目の今年は、マンガと美術を融合させたボーダレスな活動で知られる横山裕一を出展作家に迎える。横山と兵庫県立美術館所蔵の彫刻作品(ジム・ダイン、アルベルト・ジャコメッティ、ジョアン・ミロ、井田照一)がコラボレーションするほか、会場全体のレイアウトにも横山のアイデアが盛り込まれる。まるで横山のマンガ世界に迷い込んだような体験が味わえるはずだ。
横山裕一《ふれてみよ�C〈強風〉(別バージョン)》2014年、© Yuichi Yokoyama
2014/06/20(金)(小吹隆文)
プレビュー:ART OSAKA 2014
会期:2014/07/12~2014/07/13(プレビュー:07/11)
ホテルグランヴィア大阪 26階[大阪府]
関西を代表するアートフェアが今年も開催。JR大阪駅直結のホテルグランヴィア大阪26階を会場に、国内外の現代美術ギャラリー約50軒が集う。著名作家から新進気鋭まで、クオリティの高い作品をバリエーション豊かに見られるのが一番の魅力だ。また、近年の「ART OSAKA」は企画展示にも力を入れており、今年は、日仏若手作家交流展、大阪・ハンブルク友好都市25周年記念事業、「アート高雄」とのエクスチェンジ、京都市立芸術大学とホテルグランヴィア大阪のコラボという4つの企画が開催される。ほかにも関連イベントが幾つか予定されており、人々と現代アートが出会う場として機能してくれるだろう。
2014/06/20(金)(小吹隆文)