artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

フォトフォビア アピチャッポン・ウィーラセタクン個展

会期:2014/06/14~2014/07/27

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

タイを拠点に活動する美術家で映画監督のアピチャッポン・ウィーラセタクン。彼の、映像、写真、絵画など約40点が展示された。主たる出品作品は映像で、日記的な小品から上映時間約20分の大作まで、さまざまな作品が見られる。多くの作品に共通するのは、彼が住むタイ東北部の風土、習俗、伝承をベースにしていることと、論理的なストーリー展開を半ば意図的に無視していること、現実の社会問題を想起させるイメージも挟み込まれるが、決してジャーナリスティックではないこと、などである。つまり、現実と夢の境界を写し出したかのような映像世界であり、その流れに身を浸すような鑑賞態度が求められるということだ。筆者のお気に入りは《ASHES.》という上映時間約21分の長尺作品。作品を見るうちに一種の喪失感に包まれ、深い感慨を覚えた。

2014/06/17(火)(小吹隆文)

栗田咲子展 「雨の中の虹彩」

会期:2014/06/16~2014/06/29

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

2013年に東京で開催された栗田咲子の個展が大阪でも開かれた。展示内容は東京展とほぼ同じで動物や鳥などの生き物を描いた作品がほとんどだが、今展ではサイロのある風景の新作も1点発表された。小さな置物のディスプレイにまぎれ、飾り棚に猫が座り込む《五月山トリックスター》や、供物の果物を載せた高杯の隣に柴犬が立つ《お摩り犬》といった、栗田ならではの不思議なシチュエーションとタイトルの作品は特に印象を引きずり記憶に残る。色の濃淡や構図にリズムが感じられるせいか、コラージュ作品のようにいくつもの時間が画面に混在する絶妙な雰囲気も魅力的。今回も何気ない日常の光景を思わせる題材ばかり。数もそれほど多くはなかったが、全体にインパクトは強く作家のセンスの力を後になって思い知った。


展示風景


2014/06/16(月)(酒井千穂)

伊達伸明 選展 「豊中市立市民会館 おみおくり展のおみおくり展」

会期:2014/06/09~2014/06/26

GALLERYwks.[大阪府]

取り壊される建物から、そこに関わった人々の思い出の”痕跡”を見つけ出し、それを材料にウクレレを制作する「建築物ウクレレ化保存計画」で知られる伊達伸明。今年2月、自身の地元である豊中市の市民ギャラリーで、解体された市民会館の建物の一部分や施工時の資料、市の広報誌などを展示に用いた「豊中市民会館 おみおくり展」を企画、開催した。それを再構成し続編として開かれていたのが今展だ。会場には「豊中市立市民会館」の立体看板文字をメインに、実際に使用されていた市民会館内の案内板や注意書きのパネル、写真資料などが展示されていたのだが、ほかに「豊」、「中」、「市」の3つの看板文字が大阪城をはじめとする大阪市内の名所、観光地を巡るという愉快なシチュエーション写真の数々も展示されていた。これらは今展のために制作されたもので、はじめは擬人化する意図はなかったそうなのだが、「豊」「中」「市」の3文字が豊中市を飛び出し、ぶらりと周遊してまわる「3人」というイメージでどれも人間味に溢れ、物語を喚起するから実に楽しい。先に開催された展覧会の内容をなぞるだけではなく、アーティストならではの発想とセンスが新たに発揮された展示。輪をかけてあじわい深く感じられる記憶の「おみおくり」だった。


会場風景



展示風景


2014/06/16(月)(酒井千穂)

カタログ&ブックス│2014年6月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

世界のデザインミュージアム

著者:暮沢剛巳
デザイン:刈谷悠三+西村祐一/neucitora
発行:大和書房
発行日:2014年05月25日
サイズ:129×189×11mm、224頁

美術評論家・暮沢剛巳が現地取材した世界9カ国25館のデザインミュージアム。コレクションにとどまらず、その由来や展示空間、建築、そして19世紀以降のデザイン展開の歴史についても徹底解説。この1冊でデザインミュージアムのすべてがわかる! [本書カバーより]


Rhetorica#02 特集:DreamingDesign

企画・編集:team:Rhetorica[松本友也+瀬下翔太+成上友織+太田知也]
発行日:2014年03月01日
価格:2,800円(税別)
サイズ:180×225×7mm、72頁

レトリカ新刊の特集は、技術と未来を考える方法としてのデザインです。人工物と人間の絡み合いを解きほぐし、再構成する。そのことを通じて、現実に対するイメージを変容させる。そんな技法としてのデザインについて考えています。目次=巻頭言:「人工物に夢を見せる」論考:太田知也「Fitter Happier? ──〈人間?人工物〉共生系の都市論」論考:松本友也「ヴァーチャル化とディスポジション──DreamingDesignについてのノート」勉強会:中村健太郎+松本友也+瀬下翔太「逡巡するアルゴリズム」往復書簡:成上友織+松本友也「いま再び、キャラクターについて」[本書特設ウェブサイトより]【http://rheto2.rhetorica.jp/】


現代建築家コンセプトシリーズ17 大西麻貴+百田有希/o+h

著者:大西麻貴+百田有希/o+h
デザイン:小関悠子(MATCH and Company Co., Ltd.)
本文デザイン:山嵜健志、榮家志保(大西麻貴+百田有希/o+h)
発行:LIXIL出版
発行日:2014年03月20日
サイズ:A5変判、160頁

2008年から活動をはじめ、コンペ案や展覧会、住宅作品を発表してきた「大西麻貴+百田有希/o+h」による、国内初の単著。生活空間に物語を与え、生活時間を豊かにし、生活のすべてを尊ぶという、建築の本来の姿をどのように現在の世界にうみだすことができるだろうか。そう問い続けながら大西と百田は、建築におけるあらゆる物事のあるべき関係やディテールを考えなおし、建築が新しく輝き、もっとも愛される瞬間を探している。本書では、大西麻貴+百田有希/o+h の8つの作品が、どのような物事の関係性からうみだされたかを綴る。阿部勤氏との往復書簡、西沢立衛氏との対話も掲載。バイリンガル[本書「かたちをこえる──AIRの枠組みそのものをtrans×formする試み」より]




アトリエ・ワン コナモリティーズーーふるまいの生産

著者:塚本由晴、貝島桃代、田中功起、中谷礼仁、篠原雅武 ほか
デザイン:坂本陽一(mots)
本文デザイン:山嵜健志、榮家志保(大西麻貴+百田有希/o+h)
発行:LIXIL出版
発行日:2014年05月01日
サイズ:210×166×21mm、288頁

アトリエ・ワンにとって、共同体と都市空間、小さなスケールの住宅と大きなスケールの街をつなぐものは何か。30年におよぶ活動の上に、いま彼らは「コモナリティ」(共有性)のデザインの重要性を位置づけます。「コモナリティ」のデザインとは、建築や場所のデザインをとおして、人々がスキルを伴って共有するさまざまなふるまいを積極的に引き出し、それに満たされる空間をつくりだすことです。 本書では、アトリエ・ワンの「コモナリティ」をめぐるさまざまな思考と作品を紹介します。 世界各地で出会ったコモナリティ・スペースの収集と分析、建築・思想書の再読、また芸術創造、歴史、社会哲学論の観点から「コモナリティ」を考える3つの対話も収録。アトリエ・ワンによる都市的ふるまいや文化的コンテクストを空間に反映させる実験的なインターフェイスである《みやしたこうえん》、《北本駅西口駅前広場改修計画》、《BMWグッゲンハイム・ラボ・ニューヨーク》、《同・ベルリン》、《同・ムンバイ》、《カカアコ・アゴラ》も解説とともに掲載。」[LIXIL出版社サイトより]


αMプロジェクト2013 楽園創造[パラダイス]—芸術と日常の新地平—

執筆:中井康之
編集:中井康之、保谷香織
発行:武蔵野美術大学
発行日:2014年03月
サイズ:182×256×10mm、144頁

武蔵野美術大学創立80周年にあたる2009年、かねてより待望されていた恒常的なギャラリースペースが、千代田区東神田に「gallery αM」として新たにオープン。2013年度には、中井康之氏をゲストキュレーターに迎え、連続展「楽園創造—芸術と日常の新地平—」を開催いたしました。本カタログには、現在活躍中の作家6名と1組による7回の展覧会のそれぞれについての論考と作家趣旨文、会場風景の写真とアーティストトークの記録がまとめられております。[本書より]



東京国立近代美術館 研究紀要 第18号

発行:東京国立近代美術館
発行日:2014年3月31日
サイズ:181×240×7mm、130頁

東京国立近代美術館が一年度に一回刊行している研究紀要。今号では、論文「アジアからの美術書誌情報の発信」、「吉澤商店主・河浦謙一の足跡(1)」、資料紹介「メディア連携を企図する館史としての『東京国立近代美術館60年史』」などを収録している。

2014/06/16(月)(artscape編集部)

プレビュー:FLAG ART EXCHANGE Dusseldorf─OSAKA 報告展 あなたがほしい i want you

会期:2014/06/21~2014/07/05

大阪府立江之子島文化芸術創造センター[enoco][大阪府]

骨太でスリムになった最近の『FLAG』は、いまや関西イチ ストイックなバイリンガルアートガイドフリーペーパー。同誌が行なっているドイツ・デュッセルドルフ市文化局とのアーティスト・イン・レジデンス・プログラムの報告展が開催される。2013年11月にデュッセルドルフのアートセンターWeltkunstzimmerで行なわれた植松琢磨と林勇気による展覧会。

2014/06/15(日)(松永大地)