artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

浅井真理子「聞こえない声は、空に溶け拡散する」

会期:2013/11/01~2013/11/02

さくらワークス〈関内〉[神奈川県]

関内外オープン!」に合わせた2日間だけの個展。作品は映像とライブドローイングで、映像は粘性の強い液体がドロドロと流れるもので、なにかと思えば手の平からこぼれ落ちるハチミツをアップで撮っているそうだ。ライブドローイングのほうは、ガラス窓越しに見える外の風景を直接ガラス窓になぞっていくというもの。風にざわめく木の葉まで写し取り、終われば消される徒労にも似た行為だ。映像とドローイングとのつながりはよくわからないけど、どちらもきわめて触覚的。

2013/11/01(金)(村田真)

横谷奈歩「鏡師、青、鳥」

会期:2013/09/28~2013/11/02

ハギワラプロジェクツ[東京都]

ギャラリーを紗のカーテンで分割し、さまざまな家具や道具と組み合わせたインスタレーションを発表。半透明の紗、鏡、映像、動物の剥製など虚実の境界を橋渡しする装置により、ここではないどこかもうひとつの世界を構築しようとしているようだ。こちらも鏡を多用しているため、いま見たばっかりの若江漢字の作品とつい比較してみたくなる。観念的な若江に比べて、横谷は触感的・身体的だ。

2013/11/01(金)(村田真)

若江漢字「鏡界─転覆と反転」

会期:2013/09/28~2013/11/02

ユミコチバアソシエイツ[東京都]

若江漢字といえば、70年代におもに写真を用いて知覚と認識をめぐるコンセプチュアルな作品をつくっていたが、ドイツ滞在を機に80年代にはヨゼフ・ボイスに傾倒、90年代には横須賀にカスヤの森現代美術館を開設するなど、多彩な活動を展開してきた。でもその間ずっと作品を制作していたとは知らなかった。ティントレット《スザンナの水浴》や、プッサン《アルカディアの牧人たち》といったいわくありげな絵を引用したり、鏡を使った一見トリッキーな写真をとおして「見ること」の迷宮を楽しんでいる。こうしたデュシャン的コンセプチュアルアートに澁澤龍彦的マニエリスムを加えたペダンチックな70年代的テイストは、けっこう嫌いではない。

2013/11/01(金)(村田真)

水谷太郎「new journal」

会期:2013/11/01~2013/11/23

Gallery916 small[東京都]

操上和美の「PORTRAIT」展を開催中のGallery916に付設する小スペースで、水谷太郎の作品を見ることができた。水谷は1975年、東京都出身。東京工芸大学卒業後、主にファッションや広告の分野で活動している。今回が初個展だそうだが、写真家としての能力の高さを感じとることができたのが収穫だった。
展示されているのは、どれも最近撮り下ろしたという3つのシリーズである。「White Out」は、アメリカ・カリフォルニア州を中心に撮影された路上の看板の写真(18点)。タイトルが示すように、それらの看板は白く(あるいはグレーに)塗りつぶされている。何かメッセージが描かれる前の「空白」は、被写体として心そそられるだけでなく、「意味」を消失した現代の社会状況を暗喩的に指し示しているようにも見えなくはない。「New Wilderness」は2枚ずつ対になった風景写真のシリーズ(10点)。撮影されているのは沼、森、火山地帯の岩などだが、水面への映り込みと水中の水草とを多重露光のように捉えたり、写真を逆さに展示したりといった微妙な操作を加えている。ここでも、現代社会における自然観の変容のあり方が、彼の心を捉えているということだろう。それに加えて1点だけ、本業のファッション写真として撮影された、UNDERCOVERのTシャツ(TIME OF RAGEというメッセージが発光LEDで描かれている)を身につけた若者の写真が展示してあった。
関心の幅の広さと、映像化のセンスのよさは、この世代の写真家たちのなかではかなり高度なレベルまで達している。次はテーマの絞り込みと深化が大きな課題になってくるはずだ。

2013/11/01(金)(飯沢耕太郎)

あなたの肖像─工藤哲巳 回顧展

会期:2013/11/02~2014/01/19

国立国際美術館[大阪府]

1994年以来、約20年ぶりとなる工藤哲巳の大回顧展。前回も大規模だったが、今回は総点数約200点と一層のスケールアップを果たしている。その主因は、前回はフォローし切れなかった1950年代・60年代の作品が数多く出品されたことだ。また、20年の歳月が工藤の再評価を進め、国内外の美術館で彼のコレクションが形成されるようになったのも大きい。帰国作品のなかには、《インポ分布図とその飽和点における保護ドームの発生》(ウォーカー・アート・センター蔵)のように、半世紀ぶりに国内公開されたものもあった。このように充実した内容のおかげで、本展では、反芸術から滞欧時代を経て1980年代以降に至る彼の業績をほぼ概観できる。同時に、工藤流ニヒリズムとでも言うべき思想の変遷を窺えるのも見どころだ。他には、大著となった図録の充実ぶりも特筆しておきたい。

2013/11/01(金)(小吹隆文)

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