artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

神戸ビエンナーレ2013「横尾忠則 感応する風景」展/横尾忠則 肖像図鑑

兵庫県立美術館(2013/10/01~12/01)/横尾忠則現代美術館(2013/09/28~2014/01/05)[兵庫県]

前回の神戸ビエンナーレでは、兵庫県立美術館が同時期に開催した榎忠展が圧倒的なインパクトだった。今回はここと、新設された横尾忠則現代美術館が、同時に横尾展を行なう。前者は風景画、後者は人物画をテーマとする。Y字路シリーズは、時空間がねじれた感じで、建築畑には興味深い。また兵庫県立美術館の「2013年度コレクション展2」は地味だし、公式ガイドブックでも触れられていないが、関西のアート界を45年間支えた大阪の信濃橋画廊に焦点をあてた好企画である。地域の歴史を振り返り、ギャラリーの変遷と大きさもわかるようにしており、素晴らしい。

2013/11/03(日)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00023558.json、/relation/e_00023559.json、/relation/e_00023216.json s 10094341

港で出合う芸術祭 神戸ビエンナーレ2013

会期:2013/10/01~2013/12/01

メリケンパーク・神戸エリア、兵庫県立美術館・ミュージアムロードエリア、三宮・元町エリア[兵庫県]

神戸ビエンナーレをまわる。大森ディレクターが述べていたように、脱「現代美術」が特徴と言えるので、あいちトリエンナーレとは全然違う。アート・イン・コンテナ以外にも、創作玩具国際展、書道展、いけばな未来展、コミックイラスト展、しつらいアート展、グリーン・アート展などを同時に平行して展開するからだ。BBプラザでは、現代陶芸展と地元作家展を行なう。前回は震災の影響で、コンテナを使わず、屋内で開催していたが、今回はいつものように、屋外でコンテナを使っており、統一感が出る。内容は多様でも、コンテナという強力な同一の形式が大量に繰り返されるからだ。今回、元町高架下はペインティングアート展になり、巨大な絵画が並ぶ。建築家では、石上純也事務所出身の萬代基介がメリケンパークに多数の椅子を配置しており、それを見るのも目的だった。安蔵隆朝のメディア・アートが大賞は納得できる。神戸ビエンナーレのチケットで、遊覧船(海から見る作品がある)に乗れたり、会場をつなぐ特別のシャトルバスを使えるのは嬉しい。あいちトリエンナーレでは、地元の交通機関との協力やレンタサイクルなど試みたが、前回、今回ともに実現できなかった。
ガイドブックでも近代建築を紹介しているが、神戸の町にはまだまだポテンシャルがある。いろいろな建築があるが、KIITOの大空間を使うと、すごくカッコいいアートの展示ができるだろう。一方、神戸ビエンナーレは脱「現代美術」の方向性なので、今後どこまで広げるか、あるいはどこかで止めるか、にも興味がある。
写真(上から):コンテナアート、安蔵隆朝《Light flower of Two faces》、高架下のアート、萬代基介《都市のリビングルーム》」

2013/11/03(日)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00023216.json s 10094340

インベカヲリ★「やっぱ月帰るわ、私。」

会期:2013/10/29~2013/11/04

新宿ニコンサロン[東京都]

インベカヲリ★が、前回新宿ニコンサロンで個展を開催したのは2007年だった。その展示はよく覚えている。弾の飛び交う現代社会の戦場の最前線で、体を張って撮影を続ける女性写真家がまた登場してきたという印象を強く抱かせる、鮮烈なデビューだった。
それから6年あまり、インベは撮影を続け、今回の個展と赤々舎からの同名の写真集の出版にこぎつけた。モデルはすべて女性たち、彼女たちのうちに潜む衝動を全身全霊で受けとめ、共同作業のようなやり方でそのパフォーマンスを記録していくやり方に変わりはない。ただ作品化のプロセスが、より批評的でロジカルに突き詰められてきている。彼女たちの「怒り」の表出が、単純な感情表現に留まることなく、確実に政治的なメッセージとして提示されているのだ。「暮らしに安心」「社会を明るくしよう月間」「支え合う日本」といった空々しい標語、「グラドル自殺」といった新聞記事、セーラー服や下着といった男性によって消費されていく性的な表象──それらが捨て身のエロス的なパフォーマンスと合体して次々に開陳されていく様は、圧巻としか言いようがない。インベは写真集の後記にあたる文章で、なぜ女性を撮影するのかという問いかけに自ら答えてこう書いている。
「男性の場合は、被写体となることに明確な理由をもち、完成された姿を見せたがる。逆に女性はもっと柔軟で、自分を客観視したい、違う角度から見たい、何か自己主張したいときなどにカメラの前に立つ感性をもっている」
これは本当だと思う。いまや、女性の方が自己を冷静に客観視してカメラの前に立つ勇気を持ちあわせているわけで、インベのような表現のあり方は、これから先にもさらに勢いを増してくるのではないだろうか。
なお同展は2014年3月13日~19日に大阪ニコンサロンに巡回する。また、2013年11月20日~12月1日には、同名の展覧会(展示作品は別ヴァージョン)が東京・都立大学のTHERME GALLERYで開催された。

2013/11/02(土)(飯沢耕太郎)

注目作家紹介プログラム チャンネル4 薄白色の余韻 小林且典 展

会期:2013/11/02~2013/12/01

兵庫県立美術館 ギャラリー棟1階 アトリエ1[兵庫県]

蝋型鋳造による瓶や壺などの小彫刻と、それらを配置した静謐な写真作品で知られる小林且典。筆者が彼の作品と出合ったのは約7年前のこと。その後何度か個展に出かけたが、近年は不運にも機会を逸していた。それだけに、本展には大きな期待を抱いていたのだ。出品作品は、ブロンズ、木彫、写真、インスタレーションだった。特徴は、ブロンズより木彫が多いことと、水干顔料で白以外の彩色を施した作品があったことだ。これは、小林が2010年にフィンランドで滞在制作をした経験から生まれたものであろう。また、床に展示された木彫のインスタレーション、部屋の隅の水回り(会場は制作アトリエなので、ホワイトキューブではない)を利用したブロンズと木彫のインスタレーションも斬新だった。幸運にもレクチャーで本人と再会でき、イタリア留学時代の貴重な写真や、自作のレンズを見せてもらったのも収穫だった。

2013/11/02(土)(小吹隆文)

昭和モダン 絵画と文学 1926~1936

会期:2013/11/02~2013/12/29

兵庫県立美術館[兵庫県]

昭和最初の10年間に起こった文化のうち、絵画と文学に着目したのが本展だ。会場構成は、「プロレタリアの芸術」「新感覚・モダニズム」「文芸復興と日本的なもの」の3章からなり、第1章が圧倒的に面白い。絵画の岡本唐貴、柳瀬正夢ら、文学の小林多喜二、徳永直らの作品を通して、当時のプロレタリア運動の高揚がリアルに伝わるからだ。この熱狂ぶりを見ると、国家権力が非情な弾圧を加えた理由が理解できる。第2章では、絵画は古賀春江や川口軌外ら、文学は横光利一や川端康成らが見られる。彼らのアヴァンギャルドで洗練された表現は新興の美に溢れているが、熱量が第1章に及ばない。梅原龍三郎や安井曾太郎らが“日本的油絵”を模索した第3章に至っては、もはや老成というか、戦雲を前に安全地帯に退避したかのようだった。それにしても、わずか10年間にこれだけ凝縮した文化があったとは驚きだ。今後は昭和戦前期の見方を変えなければなるまい。

2013/11/02(土)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00023950.json s 10094039