artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ホンマタカシ「Pinhole Revolution / Architecture」

会期:2013/09/19~2013/10/26

TARO NASU[東京都]

以前、ホンマタカシのなかには「写真家」と「編集者」という二つの人格がせめぎ合っており、時にそのバランスが崩れることがあると指摘したことがある。その議論を踏まえれば、今回TARO NASUで展示された新作の「Pinhole」シリーズでは、うまくそのバランスがとれているのではないかと感じた。
ピンホール・カメラは言うまでもなく写真機の原型というべき装置である。写真の歴史は、壁に開けられた小さな穴から外界の姿を反対側の壁に逆向きに投影し、その形状を画家たちが筆でなぞることから開始された。さらに1970年代には、現代美術アーティストの山中信夫が、自室の壁に印画紙を貼り巡らせて撮影した「ピンホール・ルーム」のシリーズを発表しており、近年も宮本隆司や佐藤時啓がピンホール・カメラの原理を作品に適用している。ホンマの新作シリーズでは、そのような写真史的な事項を巧みに引用しつつも、実際にさまざまな部屋にピンホールを仕掛けて、撮影、プリントする作業を心から楽しんでいるように見える。「写真家」としてスリリングな画像の形成過程に立ち会うことの歓びが充分に伝わってきた。TARO NASUに併設するスペースtaimatzで、実際にピンホール写真を撮影し、その場にインタレーションするという試みも非常に興味深いものだった。
展覧会のプレスリリースに以下のようなことが書いてある。ピンホール・カメラの撮影では、被写体にピントを合わせたり、フレーミングしたりすることはない。だから「これらは、どちらも被写体の(あるいは撮影者の)主体性を極力取り除き、あるがままの姿を映し出そうとする試みです。そしてこの作品における『主体性の欠如』こそ、ホンマタカシ“独特”の写真世界を形成する主要素であるという二律背反が、ホンマの作品の世界をより奥深いものにしていくのです」。
これはまったく違っていると思う。「Pinhole」シリーズをやろうと決め、該博な写真史的な知識を駆使し、単純に壁に穴をあけて光を取り込むだけでなく、わざわざ「REVOLUTION」という文字を鏡文字にして配置し、ロバート・フランクの1978年の作品「Sick of Goodby’s」を引用する──これらの操作に、ホンマタカシの「主体性」はあざといほど強烈にあらわれている。それこそ、「編集者・ホンマタカシ」の面目躍如たる部分であり、彼自身、被写体の「あるがままの姿」を捉えようなどとはまるで思っていないはずだ。
なお「Pinhole」シリーズのほかに、2002年頃から建築物の窓からの眺めを撮影し続けている「Architectural Landscapes」のシリーズも展示してあった。確かに「Pinhole」シリーズとネガ/ポジの関係にあるシリーズと言えそうだが、むしろ狙いが拡散してしまうように感じられた。

写真:Pinhole Revolution/Architecture series
© Takashi Homma Courtesy of TARO NASU

2013/10/22(火)(飯沢耕太郎)

反重力展

会期:2013/09/14~2013/12/24

豊田市美術館[愛知県]

これまでに何度も訪れたが、初めて雨の日の豊田市美術館を見た。でも、カッコいい建築はやはりカッコいいし、中谷芙二子による霧の作品は迫力を増す。屋外の壁柱廊は、雨の日に高橋節郎館に移動するときに便利だった。ここで渡辺豪の映像を発見する。実は昨年、この作品を表参道のルイ・ヴィトンで見て、トリエンナーレの依頼を決めた。ほかにも豊田市美の反重力展とあいちトリエンナーレには、さまざまなリンクが指摘できるだろう。前回のトリエンナーレ2010のとき、豊田市美では石上純也展が開催され、今回はトリエンナーレの作家になった。25m級のもっと巨大なふうせんの展示を計画していたが、これが実現していれば、まさに反重力の作品。あいちトリエンナーレ2013における壁から立つ男や浮く男などのフィリップ・ラメットの写真、揺れる建築群のハン・フェン、藤森照信の宙に浮く茶室なども、反重力展を補足する作品群とみなすことが可能だろう。中谷の霧と名和晃平の泡も比較すると興味深いし、両方で高橋匡太が関わっている。
鼎談「建築に反重力は可能か」が行なわれ、中村竜治は構造的でありながら現象的でもある繊細なインスタレーション(今回の出品作もそう)、青木淳は空間が反転していく概念的なちらつきによる空間操作をプレゼンテーションした。その後、筆者も交えて、モダニズムの反重力、建築とアートなどを語る。青木の分類によれば、ともにモダニズムの合理性や軽さを持ちながら、ミースは先に空間ありき、フラーは先に重力ありきのデザインだという。とすれば、中村の作品「ダンス」は、スケールの操作によって、二重性があると思う。もし蟻がこれを見上げると、重力からの造形を感じ、逆に人がこれを見下ろすと空間からの形態を感じるはずだからだ。

写真:上=高橋節郎館、中=中村竜治作品、下=中谷芙二子作品

2013/10/20(日)(五十嵐太郎)

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プレビュー:注目作家紹介プログラム チャンネル4 薄白色の余韻 小林且典 展

会期:2013/11/02~2013/12/01

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県立美術館が4年前から始めた注目作家紹介プログラム「チャンネル」。その第4弾として、兵庫県龍野市出身の作家・小林且典を取り上げる。小林の作品といえば、イタリア留学時に修得した蜜蝋鋳造による、皿、瓶、壺などのブロンズと、それらを自作レンズのカメラで撮影した静物写真が挙げられる。本展では天井高7.2メートルの空間を生かして、床面に大量のブロンズと木彫を配置し、壁面にはカラープリントの新作とモノクロプリントを展覧。また、フィンランド滞在以来ラインアップに加わった木彫とブロンズの新シリーズも紹介される。

2013/10/20(日)(小吹隆文)

プレビュー:Exhibition as Media 2013蓮沼執太 展「音的→神戸|soundlike 2」

会期:2013/11/02~2013/11/20

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

音楽作品のリリース、ライブパフォーマンス、展覧会、ワークショップ、イベント制作、CM、映画への楽曲提供など、音楽を中心に幅広く活動する蓮沼執太が、関西初個展を開催。今年2月にアサヒアートスクエア(東京)で行なった初個展「音的」の出品作品に加え、アフリカ・ナイロビや神戸・新開地をフィールドワークして制作した新作を展覧。ギャラリー、シアター、スタジオを備えた会場の特性も生かし、彼の「音的」世界を神戸から発信する。

2013/10/20(日)(小吹隆文)

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プレビュー:あなたの肖像 工藤哲巳 回顧展

会期:2013/11/02~2014/01/19

国立国際美術館[大阪府]

1994年以来、約20年ぶりに開催される工藤哲巳の大回顧展。日本初公開を含む代表作約200点が展示されるほか、1962年の「第14回読売アンデパンダン展」に出品された伝説的作品《インポ分布図とその飽和部分に於ける保護ドームの発生》(ウォーカー・アートセンター蔵)が50年ぶりに帰国、さらには多数の記録写真と関連資料、ハプニングの秘蔵映像(初公開)と話題満載の内容だ。規模的にも前回の1.5倍に拡大しており、工藤展の決定版となるだろう。

2013/10/20(日)(小吹隆文)

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