artscapeレビュー
カタログ&ブックス│2016年9月
2016年09月15日号
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
ポンピドゥー・センター傑作展─ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで─
東京都美術館での展覧会「ポンピドゥー・センター傑作展」の公式カタログ。パリのポンピドゥー・センターの作品のなかから、展覧会と同様に1906〜1977年の1年ごとに、ひとりの作家のひとつの作品を掲載。合計71作品でフランスの20世紀美術をタイムラインでたどりることができます。作家のポートレートと作家自身の言葉を見開きページで紹介し、個性豊かな巨匠たちの創造性が堪能できる構成となっています。
WASHI 紙のみぞ知る用と美
お椀も箪笥も着物も、みんな和紙でできていた!? 明治に入るまで和紙は、農閑期に庶民が漉く手軽な素材であり、様々に代用可能な優れた生活用材だった。漉き方や産地によって特長のある和紙に、揉む・張る・撚る・編むなどの多様な加工を加え、工芸品のような暮らしを彩る道具が作られてきた。
本書では、木、布、皮などに擬態した変幻自在な紙製品、約70点を「衣」「食」「住」「遊」の生活場面からカラー図版で紹介。和紙文化が栄えた江戸時代から昭和初期にかけ丹精を込めて生み出された逸品を披露する。巻頭では繊維の不思議を解き明かし、巻末で未来に繋がる和紙の素材力と魅力を語る。さまざまな造形を生んだ和紙の可能性をみつめた一冊。
どうぶつのことば──根源的暴力をこえて
昨年から今年にかけて神奈川県民ホールギャラリー、群馬県立美術館で個展「根源的暴力」を開催したアーティスト、鴻池朋子による、対話と書き下ろしを収録した書籍。2014年に日比谷で行われたシンポジウムの模様、鴻池と様々な分野の専門家との対話、鴻池自身による自然と人間の境界をめぐるエッセイから成る3章で構成され、個展に際して出版された作品集『根源的暴力』とは別の角度からアーティストを見つめることのできる一冊です。
建築家・坂本一成の世界
建築家・坂本一成の50年におよぶ仕事を網羅した作品集の決定版。
この作品集では、写真や図面などの豊富なヴィジュアル要素に加え、個々の建築に寄り添う細密な解説、そして様々な時代における坂本自身の言葉や他者の批評を断片として散りばめることで、坂本の建築の実像を浮かび上がらせようとしています。
坂本の建築は一つの視点の写真だけで表せるものではありません。
その建築のあらゆる部分は、他の部分、あるいは全体、さらには敷地を超えた世界と響きあうなかで成り立っています。
様々に異なる要素が多様な関係を持ちながら共存する、それこそが坂本一成の建築的世界だと言えるでしょう。
本書の構成は、そんな坂本の建築の在り方と呼応しています。
巻頭・巻末には、名作《House SA》《宇土市立網津小学校》の今の日常の姿をみずみずしく撮り下ろした写真を掲載。未完の作品も含む全作品歴、メディア掲載歴も完備した、坂本一成の建築を知るには必携の一冊です。
金子國義スタイルブック
2015年3月、画家・金子國義が逝去しました。この稀有な画家が残した名作の数々は、これからも時代を超えて愛され続けていくことでしょう。歌舞伎の舞台美術家のもとで修行し、日本の伝統芸能やその美意識を徹底的に学びながら、同時にヨーロッパの文化にも精通していた金子國義の作風は、唯一無二の魅力に溢れており、今後ますますグローバルな注目を集めるに違いありません。
金子作品の最大の魅力は、画家の存在そのものが作品世界に強く投影されていることです。「人生を謳歌しよう」「美しく生きよう」という姿勢に貫かれた哲学、いわば金子スクールの教えは、そのお弟子さんや私淑していたアーティストのなかで確実に引き継がれているのです。
本書では、金子國義がそうした人々に向けて実際に発した言葉やメッセージを、スタジオ・カネコ協力のもと、関係者への取材を通して集め、代表作とともに掲載します。その内容は、芸術に限ったものではありません。かつて日本の家庭でごく自然に教えられ、私たちが身につけていった「所作」「おもてなしの心」、そして「美しく生きるためのヒント」などが、金子國義ならではのセンスやユーモアに彩られた言葉として現れます。
國府理作品集 KOKUFUBOOK
國府理(こくふ・おさむ 1970-2014)は、乗り物の形態をモチーフに、実際に稼働させる動力と機能を備えた大型の立体作品を制作、発表。移動手段の実用枠を超えたユニークな乗り物を独自の設計思想と自らの手でつくり出し、機械・自然・人とが融合・対立・循環するメカニズムを考察し、それらを「もう一つの世界」として現実世界と相対させながら、人間と自然が共生していく「未来」を模索し続けた。本書は代表作約100点に、彼自身による「言葉」を添え、國府理の世界を一望する決定版作品集である。
2016/09/02(金)(artscape編集部)