artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

21世紀琳派ポスターズ ─10人のグラフィックデザイナーによる競演─

会期:2016/04/04~2016/05/13

京都dddギャラリー[京都府]

昨年「琳派誕生400年記念」で盛り上がった京都。本展は、グラフィック・デザイナー10人(浅葉克己、奥村靫正、葛西 薫、勝井三雄、佐藤晃一、永井一正、仲條正義、服部一成、原 研哉、松永真)が「琳派」からインスピレーションを受けて制作したポスターを一堂に展示し、21世紀のデザインに流れる琳派の水脈を探るもの。出展作は4連の屏風形式で統一されて、個性ある競演となっている。グラフィック・デザインに日本の美意識および「花鳥風月」を表象することは、田中一光が独自に追求してきたところのものだが、本展の面白味は各デザイナーの多様な「琳派」解釈が見られるところ。例えば永井一正は、金地の背景に緑で山並みの景観を簡潔に表現しつつ、ユーモアあふれる表情の動物たちを白で効果的に配置する。宗達の《風神雷神図》を思い起こさせるような抑制した色使いで、琳派を題材としながらも、それをさらに掘り下げた普遍性を色と形で追求している。その一方で服部一成は、大和絵以降に伝統的な山の連なりを曲線と線を用いて、ポップでグラフィカルな現代的表現にアレンジしている。また原研哉は、金箔を実際に貼って撮影した後景に、楕円形の海の月と有機的な形態のクラゲを浮かび上がらせ、琳派のもつ装飾性を昇華している。日本の歴史的伝統をテーマにしながら、現代のデザイン感覚の洗練と豊かな広がりを見ることができる。[竹内有子]

2015/04/14(木)(SYNK)

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細見美術館 琳派のきらめき──宗達・光琳・抱一・雪佳

会期:2015/04/01~2015/04/12

大阪高島屋 7階グランドホール[大阪府]

江戸期京都の本阿弥光悦と俵屋宗達の活躍に始まり、尾形光琳・乾山兄弟を経て、酒井抱一らの江戸での展開、そして近代京都の神坂雪佳による再興までにわたる、琳派の流れを一堂に紹介する展覧会。細見美術館が所蔵するコレクション約90点が展示された。京都・江戸だけでなく大阪での広がりと、明治期における琳派の復興にも目配りがされているから、琳派の長きにわたる系譜を総じて把握することができる。江戸後期大坂の絵師・中村芳中の諸作品は、宗達による工芸的な手法「たらし込み」と琳派の華やかさを踏襲しながらも、上方文化を彷彿とさせるような親しみやすく闊達な作風で面白い。とりわけ興味深かったのは、最後に展示された図案家・雪佳の作品群。《金魚玉図》にみられるような、金魚のユーモラスな表現、洗練された大胆な構成には唸らされる。雪佳のデザイン感覚は、絵画と工芸の領域双方を手掛けた琳派の始祖に由来しており、その発展形とみることができよう。[竹内有子]

2015/04/11(土)(SYNK)

三井の文化と歴史

会期:前期:2015/04/11~2015/05/06、後期:2015/05/14~2015/06/10

三井記念美術館[東京都]

三井記念美術館では三井文庫の開設50周年と三井記念美術館の開館10周年を記念して、春と秋に特別展が開催される。春季の前期展示は「茶の湯の名品」と題して、三井家に伝わってきた茶道具の名品──おもに北三井家六代高祐と室町三井家十代高保の蒐集品──と、三井家の当主や夫人が描いた絵画や書、手造りの茶道具など、「旦那芸」として制作されたにしてはとても質の高い書画、工芸が展示された(2015/4/11~5/6)。後期展示は「日本屈指の経営史料が語る三井の350年」(2015/5/14~6/10)。三井文庫が所蔵する17世紀半ばから20世紀までの経営史料、文書類、絵画などによって、三井350年の経営が紹介されているほか、三井文庫のアーカイブ活動、研究活動が紹介されている。吉川容・三井文庫主任研究員によれば、本展では三井文庫が所蔵する生の歴史史料を見せると同時に、史料を用いた歴史叙述のプロセスを見せ、また史料を残すことの大切さと史料館が果たす役割を伝えたいとのこと。三井文庫は公開されているとはいえ、事業の歴史に沿って体系的に史料を見せる機会はこれが初めてだという。経営史、経済史を学ぶ者ばかりではなく、歴史に関心がある人にはいずれも興味深い展示物であると思う。解説パネルはとてもわかりやすいが、近世の実物史料は古文書になじみのない人にとっては(私もだが)難しいので、音声ガイドの解説が参考になる。また本展に合わせて『史料が語る三井のあゆみ──越後屋から三井財閥』(吉川弘文館、2015)が刊行されている。同書は三井の歴史を50のテーマに分け、ひとつのテーマをひとつの見開きでわかりやすく解説しているほか、三井文庫の歴史も紹介されており、これも展示を見るうえで大いに参考になる。[新川徳彦]

2015/04/10(金)/2015/05/13(水)(SYNK)

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Parasophia:京都国際現代芸術祭2015

会期:2015/03/07~2015/05/10

京都市美術館、京都府京都文化博物館ほか[京都府]

京都市美術館と京都府京都文化博物館とをメイン会場として、京都で初めて国際的な現代芸術祭が行なわれた。出品作家は海外・国内を含め、36組。全員を京都の地に招いて、作家自らが同地の歴史・社会文化と関係することを事前準備に含めたという。京都市美術館の会場中央には、蔡國強による巨大な竹製のパゴダが置かれ、その周りにポロックに着想を得たアクション・ペインティングを行なうものなど、多種多様なロボットが作動しており、インパクトがあった。また同館の地下や上階部分の普段は見ることができない所にも作品が展示され、探検気分で鑑賞することも可能だ。歴史的建造物である同館の建築自体が生かされている。一方、京都文化博物館別館も、明治期の建築(旧日本銀行京都支店)であり、そこで森村泰昌らの作品を見ることができる。芸術祭の出展作は多様であるから、その印象を一括りに論じることはできないけれども、やはり映像作品が目立った。[竹内有子]

2015/04/04(土)(SYNK)

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特集陳列 雛まつりと人形

会期:2015/02/21~2015/04/07

京都国立博物館[京都府]

春先、雛人形をかざる展覧会やイベントが各地で開催される。本展もそのひとつ。雛人形や御所人形、嵯峨人形、からくり人形など、京都国立博物館所蔵の人形25組による展覧会である。女の子の健やかな成長を祈念して人形をかざる行事として、雛まつりが日本各地に広がったのは江戸時代だといわれる。本展では、寛永雛、元禄雛、享保雛と時代を追って雛人形の変化をみてとることができる。
出品された雛人形のなかでもっとも目を引くのは、明治初期につくられた《御殿飾り雛》だろう。上段に設けられた内裏雛のすまう御殿では、侍女たちや大臣たち、囃子方たちが生き生きとした仕草や表情を見せ、下段では、箪笥や長持、御膳や重箱などの婚礼道具がにぎにぎしく並ぶ。その大仕掛けな構えと一つひとつの細々とした丹念な造りは、すでに子どもの愛でるものを超えて大人の享楽の域に達しているように思う。まるで、本物を縮尺した極小の別世界がそこに立ち現われたかのようである。そうかと思うと、高さが50センチにも及ぶ大きな雛人形《享保雛》もある。分厚い飾り畳の上にどっかりと座した二体の人形は、白く磨き上げられた顔に微かな笑みを浮かべ、きっちりとつくり込まれた衣装を身につけて異様なほどの存在感をただよわせている。
雛人形を展示したこの一室で、工芸品を鑑賞するというのとはまた別の体験をした気さえした。[平光睦子]

2015/04/03(金)(SYNK)

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