artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
1950-70年代の阪神間スタイル
会期:2015/01/17~2015/04/07
神戸ファッション美術館[兵庫県]
大阪と神戸の間にある地域を阪神間と呼ぶが、海と山があり気候は温暖、文化的にも戦前から発展をしてきた土地柄。本展では、田中千代、原田和枝、上田安子、石津謙介、コシノヒロコら関西のデザイナーの作品を中心に、戦後における阪神間のファッション・スタイルが紹介されている。戦後、洋裁学校が矢継ぎ早に開校して、指導者たちは西洋の動向を取り入れてゆく。田中千代がクリスチャン・ディオールのデザインを鐘紡の生地で製品化していく試みなどの資料を見ると、当時におけるパリのファッションの影響力の大きさがよくわかる。60年代の文化的な様相をよく表わすのが、田中千代学園の創立35周年ショー「江戸からSpace Ageへ」の写真(展覧会チラシ)。江戸の紋様と60年代の未来感覚が違和感なく同居しているのが面白い。また、石津謙介のVANのアイヴィー・スタイルなど、60年代のトラッドな男性ファッションのベクトルも興味深い。同時代の広告・ポスターや化粧品等その関連資料が展示されているから、女性性と男性性の違いについて多分に実感できる。デザイナーの意気込み溢れるファッションを通じて、時代の雰囲気を感じとることができる展覧会。[竹内有子]
2015/02/20(金)(SYNK)
プレビュー:Exhibition as media 2014 phono/graph ─音・文字・グラフィック─
会期:2015/03/21~2015/04/12
神戸アートビレッジセンター[兵庫県]
「音・文字・グラフィック」の関係性の研究と、それを取り巻く現在の状況を検証しながら形にすることを目的とするプロジェクト。2011年にdddギャラリー(大阪、現在は京都)で第1回の展覧会が行われ、その後、ドイツ、名古屋、京都、東京での開催を経て、この度の神戸展となった。今回は神戸アートビレッジセンターが有するシルクスクリーン工房の機能を生かした展開が披露される予定だ。参加作家は、鈴木大義、城一裕、藤本由紀夫、八木良太、ニコール・シュミット、intext、softpadの7組。なお本展は、神戸アートビレッジセンターとアーティストが企画立案から実施までを協働する展覧会「Exhibition as media(メディアとしての展覧会)」(2007年~)の今年度版である。
2015/02/20(金)(小吹隆文)
幻想絶佳:アール・デコと古典主義
会期:2015/01/17~2015/04/07
東京都庭園美術館[東京都]
開館30周年を記念するこの展覧会は、1933年に建てられたアール・デコ様式の邸宅である朝香宮邸のアンリ・ラパンによる室内装飾の特徴を「古典主義」をキーワードに読み解く試み。両大戦間期に生まれた様式であるアール・デコは、アール・ヌーボーの流れるような曲線的デザインに対して、直線的、幾何学的な形態が特徴に挙げられる。合理的な精神を象徴するそのスタイルは、建築や工業製品に用いられ、また機械による生産や合成樹脂などの新素材を用いたプロダクトに現われたことで、新しい時代の都市生活と結びついた様式というイメージがある。しかしながら、アール・デコの絵画や彫刻、装飾美術に用いられた主題はさまざまで、けっしてモダンとは限らない。主題の源泉は時間と空間の双方の意味で多岐にわたり、エジプトや古典古代への憧憬、アジアやアフリカなどの異文化に対するエキゾチシズムも見られる。ラパンが描いた朝香宮邸の壁画にもまた18世紀の新古典主義様式からの引用が見られる。ではなぜこのような主題が選ばれたのか。展示では古典を主題としたアール・デコの作品が集められ、朝香宮邸の装飾空間を読み解いてゆく。
本館展示室はその室内空間を活かして家具や美術品を配した「アンサンブル展示」を再現し、当時の博覧会の装飾美術の分野で行なわれた空間と美術との関係性が検証される。新館は絵画、彫刻、装飾美術の下絵など。しかしそれはモダンな生活を描いたものではなく、おもにローマ賞を受賞した美術家たちによる古典を主題とした作品である。美術の分野では第一次世界大戦後に秩序への回帰という傾向とともに古典古代への回帰が広範に見られた。ローマ賞の美術家たちはアカデミーで身につけた古典主義的な手法を下敷きにしながら、現代的な表現を生み出そうとしていたのだという。アンリ・ラパンはローマ賞受賞者ではないが、国立美術学校で絵画を学び、またローマ賞受賞者とともに公共プロジェクトを手がけている。すなわち、アール・デコの美術に用いられた主題の源泉は本来多様であるが、こと公共的空間の装飾について言えば古典的なモチーフが多くみられ、それはラパンが朝香宮邸のなかでも非・私的な空間である小客室・大客室・大食堂の3室に描いた壁画に古典的主題を選択したことと共通する。多様な主題を選びうるなかでなぜ古典主義なのかという問題に立ち戻れば、ヨーロッパ文化の正統に連なるモチーフとしての古典主義と、新しい時代の表現様式としてのアール・デコの組み合わせが、このような空間を生み出したことをこの展覧会は示していると理解してよいだろうか。[新川徳彦]
2015/02/18(水)(SYNK)
チャングムが生きた時代──女性たちの生活と服
会期:2014/01/08~2015/03/29
高麗美術館[京都府]
テレビドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』は、李王朝につかえる女官、チャングムが宮廷料理人から医女になり王の主治医にのぼりつめるまでを描いた人気歴史ドラマである。次々にふりかかる難題に猛然と立ち向かう主人公の姿を手に汗握る思いでみていた人もいるだろう。本展はドラマの舞台となった朝鮮王朝の宮廷文化を伝える展覧会。第一部「女性の生活と服」、第二部「心と身体と飲食」、第三部「婚礼衣装に身をつつんで」からなる三部構成。二室にわかれた会場には、チマ、チョゴリ、唐衣などの衣装を中心に、座卓や屏風などの室内装飾品、陶磁器や文献などの医学関係の資料などがところせましと展示され、当時の優雅な宮廷生活を伝えている。なかでも男女の婚礼衣装の華やかさは圧巻である。
展示された衣装はいずれも復元品。14世紀終わりから20世紀初頭までおよそ500年つづいた朝鮮時代、王族や貴族は儒教の教えに則って土葬にされ、遺体を二重、三重に衣装で覆って埋葬する習慣があったという。遺物に忠実に復元されたとはいってもどの墓から発掘された誰の衣装の復元なのかといった詳しい解説がないこともあって、展示品はテレビドラマに登場した宮廷衣装のイメージそのままにただただ鮮やかで美しい。チョゴリ(上着)はより短くタイトに、チマ(スカート)はより高い位置から着られるように、時代をおって衣装の形が少しずつ変化していく様子がわかるように展示が工夫されており、ゆるやかだが確かな生活の変化が見てとれる。また男女が厳格に区別されるなか、刺繍は女性たちが腕を磨き個性を発揮する数少ない機会であったという。胸背といわれる男性の官服を飾った豪華な刺繍には、それを施した女性たちの気迫のようなものがこめられている。そのほか、胸飾りや髪飾り、化粧容器や裁縫道具など、豪華だがどこか素朴で控えめな品々には朝鮮文化特有の柔らかで優しい雰囲気が感じられる。
ところで、会場となった高麗美術館は在日朝鮮人一世の鄭詔文氏によって在日の若い世代に祖国の歴史や文化を普及するために創設された美術館である。望郷の思い、そして次世代を思いやる優しさが会場にも漂っていた。[平光睦子]
2015/02/18(水)(SYNK)
スイスデザイン展
会期:2015/01/17~2015/03/29
東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
東京オペラシティアートギャラリーの「スイスデザイン」展へ。スウォッチ、鉄道・航空、フライターグ、グラフィック、バリーなど、なじみのものが多いが、改めて同国のデザイン・ブランドの歴史と現在を総覧できる見本市のような展示である。いずれもシンプルで力強い。一度見たら忘れがたい。改めて、スイスはデザインを重視している国なのだと思う。そしてモダニズムの関連では、ル・コルビュジエのスイス関係の仕事と、建築からグラフィックの仕事に展開したマックス・ビルの軌跡に焦点をあてる。
2015/02/17(火)(五十嵐太郎)