2021年04月15日号
次回5月17日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

JAGDA新人賞展2020 佐々木俊・田中せり・西川友美

会期:2020/09/08~2020/10/15

クリエイションギャラリーG8[東京都]

日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)が、年鑑出品者のなかから、今後の活躍が期待される39歳以下の有望なグラフィックデザイナーに贈る「JAGDA新人賞」。その展覧会を今年も観に行った。今回選ばれたのは、佐々木俊、田中せり、西川友美の3人。電通に所属する田中が手がけた企業ブランディングやロゴデザインなどは想定内の作品であったが、残り2人の作品に関しては様子が何か違っていた。特に西川の作品は異色を放っていたと言うべきだろう。そもそも西川は第19回グラフィック「1_WALL」グランプリ受賞者で、その際の個展「dou?」の一連作品やツールを主に出品していたこともあり、イラストレーションの作品が大方だった。そのイラストレーションがシンプルなようで、なんとも強烈な個性を放っていたのだ。地面に寝そべった姿勢を取りながら、ほのかな笑顔を正面に向けた、人間なのか動物なのかわからないキャラクターたち。脱力しているのか、挑発しているのかも判別がつきづらく、見る者に戸惑いを与える。そんなテイストのイラストレーションが商業施設や百貨店のポスターにも採用されていたので、なお驚いた。1960〜1980年代頃、イラストレーターがグラフィックデザインの仕事を請け負い、輝いていた時代があったが、西川はその流れを汲むのか。いや、きっと新しい流れなのだろう。

展示風景 クリエイションギャラリーG8[写真:藤川直矢]

また佐々木は、詩人の最果タヒとの仕事にその個性がよく表われていた。ブックデザインやポスターのほか、目を引いたのは美術館の企画展出品作品「詩の標識、あるいは看板」である。原色使いのグラフィックデザインのなかに言葉を収めた立て看板のような作品は、その言葉を体感的に届けるのに成功していた。最果タヒの鋭くとがった、透明感のある言葉が空間の中に漂っているようで、不思議な感覚を覚える。この大胆な原色使いが、佐々木の得意とする手法なのか。西川と佐々木の作品は、どこか人の心をざわつかせ、引っかかりを生む。そこが「様子が何か違っていた」と感じた点だ。スマートなグラフィックデザインが台頭する現代において、この感覚はなんとも新鮮だった。

展示風景 クリエイションギャラリーG8[写真:藤川直矢]


公式サイト:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/2009/2009.html

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2020/09/25(金)(杉江あこ)

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アイヌの美しき手仕事

会期:2020/09/15~2020/11/23

日本民藝館[東京都]

日本のなかでも北海道と沖縄は特別な地である。まるで外国のようだと思うのは当然で、かつてそこには先住民が独自の言語と文化を持ちながら暮らしていたからだ。言うまでもなく、北海道にはアイヌ民族が、沖縄には琉球民族がいた(現代にもその子孫がいる)。どちらも明治政府によって奪われた民族だからこそ、民俗学的な視点でつい物珍しく見てしまうが、それだけでは真に理解したことにはならない。日本民藝館で開かれた本展は、柳宗悦らしい「民藝」の視点でアイヌを尊く見つめた内容だった。

アイヌというと、真っ先に思い浮かぶのが、あの独特の文様である。渦巻紋(モレウ)、棘紋(アイウシ)、目紋(シク)と呼ばれる文様は、水の波紋や風のうねり、炎など自然事象を抽象化したものだとされている。柳は「模様で吾々は自然への見方を教わる。よい模様は自然をかく見よと教えてくれる」と評する。さらに「よい模様のない時代は自然をよく見ていない時代だとも云える」とも言う。その点でまず、柳はアイヌが残した文様に奥深い美を見出したのではないか。アイヌの人々はこれらの文様を思い思いに組み合わせて、男性は木彫りに、女性は刺繍に生かした。その様子が垣間見られるさまざまな木工品と衣装が展示されていた。

イラクサ地切伏刺繍衣裳(テタラベ) 丈116cm 樺太アイヌ

木工品のなかで、いったい何だろうと目を引いたのが「イクパスイ」と呼ばれるヘラのような平たい棒(俸酒箸)である。これは儀礼の際、神に酒を捧げるのに使われた祭具で、杯の上に渡して置かれる。人と神との仲立ちをする役割があるそうだ。しかし展示ケースにいくつものイクパスイが並んだ様子は、木彫りの見本といった風で、非常に興味深く眺めた。一つひとつの形やサイズ、文様、彫りの手法、朱漆の有無などがまちまちで、どれも思い思いに作られた様相を呈しており、何とも言えぬ力強さがみなぎっていた。また衣装も同様だ。樹皮の繊維を糸にして織った布を着物や羽織りに似た形に仕立て、その表面に細く切った布を並べて縫い付ける「切り伏せ」と呼ばれる手法で文様を施し、さらに刺繍を施す。和服にはない大胆な装飾方法に、圧倒的な力強さを感じた。厳しい自然環境のなかで、神とのつながりを大切にしながら生きてきたアイヌの文化には、質素で野趣にあふれた美学がある。彼らの手仕事を通して、その一端を知る機会となった。

刀掛け帯(エムシアツ) 静岡市立芹沢銈介美術館蔵

煙草入れ(オトホコホペ) 高7.0×横12.0cm 静岡市立芹沢銈介美術館蔵


公式サイト:https://mingeikan.or.jp/events/

2020/09/25(金)(杉江あこ)

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装飾をひもとく~日本橋の建築・再発見~

会期:2020/09/02~2021/02/21

高島屋史料館TOKYO 4階展示室[東京都]

本来、ここはレビューを書く場なのだが、例外的に筆者が監修した展覧会について記したい。コロナ禍のため、高島屋での関連レクチャーが中止となり、展示の意図を説明する機会がないからだ。

もともとは4月末にスタートの予定であり、実は監修を依頼されたのが2月初めだったことから、ほとんど準備期間がなかった。そこで資料を収集するタイプの展示ではなく、すでにあるものを活用できるものは何かと考え、高島屋の建築と日本橋の環境を徹底的に利用することを考えた。そして以前から、高島屋の細部装飾がおもしろいと思っていたので、打ち合わせの際、じっくりと外観と館内を見てまわり、これならいけそうだと確信し、狭い会場だけど、立地を最大限生かすことにした。すなわち、会場の外に出るとオリジナルの建築群がいっぱいあるわけで、それを観察するための展示と位置づけたのである。


「装飾をひもとく」展、会場風景

ここから必然的に「日本橋建築MAP」を配布することをすぐに決め、エリアはシンプルに中央通り沿いとし、表面に位置関係と近現代建築の概要を(グラフィックは菊池奈々が担当)、裏面に装飾の解説(イラストの作画は周エイキ)を入れることにした。なお、会場の建築模型は、すでに解体され、街には存在しない《旧帝国製麻ビル》だけであり、それ以外の写真で紹介された建築はすべて、街を歩けば実物を見ることができる。建築展は、美術展と違い、実物を展示できないというジレンマを抱えているが、この形式ならば、鑑賞者のストレスにならないだろう。


会場で配布した「日本橋建築MAP」のスタディ(表裏)


《旧帝国製麻ビル》模型

イントロダクションでは、日本橋の界隈は古典主義系の近代建築がよく保存されていることから、東京オリンピック2020(延期になってしまったが)にひっかけて、いずれもギリシャから始まり、日本にもたらされたものという説明を加えた。展示の全体構成は、以下の通り。第1章「様式の受容」は、《日本銀行》と《三井本館》を軸に、古典主義とは何かを細部から紹介する(菅野裕子担当)。ちなみにこのパートでは、《日本銀行》とダブリンの《アイルランド国立図書館》の類似が初めて指摘されたという意味でも興味深い。第2章「和風の融合」と第3章「現代への継承」では、前者で《高島屋》、《三越》、《日本橋》、後者で《高島屋新館》、《スターツ日本橋ビル》、《日本橋御幸ビル》、《コレド室町》の開発などを分析する(五十嵐担当)。そして第4章は、時間軸をさかのぼり、百貨店内の仮設建築として、1950年代に高島屋で開催された建築・生活系の展覧会(当時、丹下健三や清家清も会場設計をした)を紹介し、 坂倉準三がデザインした「巴里1955年:芸術の綜合への提案─ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展」(1955)の会場模型を東北大の五十嵐研で制作した(百貨店の展覧会を研究している菊地尊也担当)。


第1章「様式の受容」より


奥の壁は第3章「現代への継承」。手前は第4章の過去の展覧会の冊子


高島屋の過去の展覧会会場デザイン


かつて高島屋で開催された「巴里1955年:芸術の綜合への提案─ル・コルビュジエ、レジェ、ペリアン三人展」の会場模型

さて、これが本当の狙いなのだが、以前から筆者は、近代建築の展覧会やガイドブックが、しばしば「~様式」という説明で終わり、むしろ建築家の人間的エピソードが多めだったので、そうではない見せ方ができるのでは、と考えていた。つまり、モノそのものに語らせる展示ができるのではないか、と。実際、様式のラベルをはることで思考停止してしまうというか、世間に流通している説明も誤用が多く認められる。そこで十分な数の写真を使いながら、様式の向こう側にある細部を、本場の建築と比較しながら、高い解像度で観察し、装飾から考えること。美術史ならば、「ディスクリプション」という作品記述にあたるものだが、近代建築ではあまりそれが十分になされていないと思ったのが、本展を企画した意図である。

とはいえ、ここまで極端に細部と装飾にフォーカスしてどうなるかと思っていたのだが、フタを開けてみると、むしろそれを面白がる人が多いことが判明した。来場者は想像以上に多く、受付で図録を販売していないのかと質問する人も少なくない。昨年、筆者が監修した「インポッシブル・アーキテクチャー」展も当初、こんなマニアックな企画は一部の建築ファンしか見ないと思っていたら、SFやアニメ、ユートピア文学なども好む、意外に幅広い受容層があったことと共通する現象なのかもしれない。


公式サイト:https://www.takashimaya.co.jp/shiryokan/tokyo/

2020/09/02(水)(五十嵐太郎)

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ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン

会期:2020/10/02〜

Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開[東京都ほか]

「世界でもっとも知られたフランス人」といった発言が本作のなかで聞かれたが、あながちそれは嘘ではないと思う。誰かと言えば、ピエール・カルダンである。日本をはじめ世界中で、ファッションに疎い人でも多くの人々がその名を知っている。なぜならピエール・カルダンはライセンスビジネスでもっとも成功したファッションブランドだからだ。現在、それは世界110カ国で展開されているという。それまで誰も手を出さなかったライセンスビジネスを初めて導入したことから、関係者からは「パンドラの匣を開けた」とも揶揄される。しかしその後、多くのファッションブランドが後塵を拝す結果となるのだ。

©House of Cardin - The Ebersole Hughes Company

本作は、2020年にブランド創立70周年を迎えるピエール・カルダンの伝記的ドキュメンタリーで、過去の記録映像やさまざまな関係者からの独白によって構成されている。ピエール・カルダンの明るくポップな世界観に沿うように、映像のテンポも非常に小気味いい。かつてデザインチームの一員だったジャン=ポール・ゴルチエや、インテリアデザインとプロダクトデザインを担当したフィリップ・スタルクといったいまや大御所のデザイナーから、ナオミ・キャンベルやシャロン・ストーンらトップモデルや女優、そして日本からは森英恵や桂由美、高田賢三らがインタビューに答える。なんやかやとピエール・カルダンは周囲から愛された人物だったことが浮かび上がる。

©House of Cardin - The Ebersole Hughes Company

物心がついた頃から私にとって、ピエール・カルダンといえばタオルに付いたロゴだった。そのイメージがずっと刷り込まれ、今日に至っている。だから「モードを民主化した天才デザイナー」とキャッチコピーにあるが、どちらかと言うと「大衆化」の表現の方がぴったりくるのではないか。いずれにしろピエール・カルダンが「私の目標は一般の人の服を作ることだ」と宣言し、プレタポルテで功績を残したことは大きい。ライセンスビジネスによりブランドが大衆化されすぎて、真のファッション性を私はよく理解していなかったが、ピエール・カルダンを象徴するコスモコール(宇宙服)ルックは未来的で、斬新で、ややユニセックスで、いま改めて見てもおしゃれである。LVMHなどの巨大コングロマリットとはまったく異なる手法で、ファッションの楽しさを大衆に与えたことはもっと賞賛されるべきだろう。

©House of Cardin - The Ebersole Hughes Company



公式サイト:https://colorful-cardin.com

2020/08/25(火)(杉江あこ)

特別企画 和巧絶佳展 令和時代の超工芸

会期:2020/07/18~2020/09/22

パナソニック汐留美術館[東京都]

フランスを中心に欧州では、近年、工芸作家によるアート運動というべき「ファインクラフト」運動が起こっている。工芸作家が素材の持ち味を生かしながら、自身の技を発揮し、アートとして鑑賞に耐える作品を発表しているのだ。その流行が日本にもじわじわと押し寄せている印象を受ける。個人的な話で恐縮だが、私も日本の工芸応援運動としてクラウドファンディング「異彩!超絶!!のジャパンクラフト」のプロデュース事業を昨年末より始め、それなりに手応えを感じてきた。本展ではまさにそんなファインクラフトと呼ぶべき素晴らしい工芸作品が観られた。

見附正康《無題》2019 オオタファインアーツ ©Masayasu Mitsuke; Courtesy of Ota Fine Arts

本展タイトル「和巧絶佳」という言葉は、日本の工芸作品に見られる三つの傾向を表わしているという。ひとつは日本の伝統文化の価値を問い直す「和」の美、ひとつは手わざの極致に挑む「巧」の美、ひとつは工芸素材の美の可能性を探る「絶佳」。やはり伝統文化に根ざしつつも、伝統工芸を越える技と素材がキーワードとなっている。鑑賞中はいろいろな作品に目を奪われ、ため息が洩れた。例えば九谷焼の赤絵細描の技法を用いて、独自の幾何学文様を施す見附正康の作品には圧倒された。大きな器に大胆な構図を描きながら、目を凝らして見ると1ミリ幅の中に何本もの線を描いていることがわかる。その作業工程を想像するだけで気が遠くなりそうだ。また、特殊な積層絵画という技法を用いた深堀隆介の作品も面白かった。透明エポキシ樹脂の表面にアクリル絵具で金魚を少しずつ描き、それを層状に重ねることで、まるで水中に金魚が泳いでいるかのような立体感とリアリティーをつくり出している。螺鈿の技法を用いて現代的な作品を生み出す池田晃将の作品にも感心した。彼はアニメやサブカルチャー、コンピューターグラフィックスなどに影響を強く受けたと解説があり、それゆえに螺鈿で表現したのはデジタル数字である。素材となる貝殻をレーザー加工で一つひとつ切り出し、漆塗りした立方体の箱にキラキラと輝く数字を精密に集積させた様子は、まるでSF映画「マトリックス」をも思わせる未来感やデジタル感にあふれている。伝統工芸の技法でここまで振り切れるとは! 日本の工芸の未来に希望を見た思いがした。

深堀隆介《四つの桶》2009 台湾南投毓繡美術館、台湾

池田晃将《電光十進玉箱》2019 個人蔵


公式サイト:https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/20/200718/
※画像写真の無断転載を禁じます。

2020/08/24(月)(杉江あこ)

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