2023年05月15日号
次回6月1日更新予定

artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン

会期:2023/03/03〜

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー[全国]

大らかな花模様の「ウニッコ」などで知られる、マリメッコを代表するデザイナー、マイヤ・イソラ(1927-2001)。彼女の足跡をたどったドキュメンタリー映画が間もなく公開される。ドキュメンタリー映画というと、さまざまな関係者へのインタビュー映像や記録映像、監督独自の見解を述べるナレーションなど「第三者の視点」で構成されることが多いが、本作はそれとは少し異なっていた。撮り下ろしのインタビュー映像はマイヤの実娘クリスティーナに対してのみで、あとは本人の日記や家族に宛てた手紙を読み上げる「自分語り」でほぼ構成されていたからだ。そこに当時の様子を映し取ったアーカイブ映像や写真、またアニメーション化されたマイヤの絵画やデザイン画が小気味良く挟み込まれていく。そのため観る者は彼女の内面へと知らず知らずのうちに入り込んでいき、自分の内面とも同化するような感覚に陥るのである。彼女の体験や感情がどのように創作へ結びついていったのかがまさに手に取るようにわかり、大変に興味深かった。


監督:レーナ・キルペライネン 出演:マイヤ・イソラ、クリスティーナ・イソラ、エンマ・イソラ
2021年/フィンランド・ドイツ/フィンランド語/100分/カラー・モノクロ/ビスタ/5.1ch/原題:Maija Isola 英題:Maija Isola Master of Colour and Form
後援:フィンランド大使館 配給:シンカ + kinologue
© 2021 Greenlit Productions and New Docs


マイヤの人生は、旅そのものだった。フィンランド南部に生まれ、少女時代を戦時下で過ごし、19歳で娘を出産した後に芸術大学へ進学。マリメッコでデザイナーとして仕事を始めた後もヨーロッパ中を巡り、パリに何度か滞在し、また北アフリカのアルジェリアや米国のノースカロライナ州へも移住するなど、つねに移動を繰り返した。その間に三度の結婚と離婚を経験し、いくつかの恋愛もした。旅と自由、恋愛が、彼女の創作の源だったのだ。



「母にとって恋は芸術活動の1つでした。新しい恋人からエネルギーをもらって自身の作品に活かすのです」と娘が証言する。一方で、マイヤは孤独も深く愛した。「孤独というものを私は決して恐れない。孤独はむしろ私の望むものであり、心のやすらぎさえ覚える」と日記で独白している。つまり新しい土地や人々との出会いでインスピレーションや情熱を得た後は、誰にも邪魔されずひとりで創作に没頭したことの表われなのだろう。そうした自身のバランスを取るためにも、三度の結婚と離婚が必要だったようにさえ思える。また、彼女はデザイナーとしてだけでなく画家としても活躍し、亡くなるまで絵を描いていたという。「創作は生きている実感を得る唯一の手段だ」という言葉が実に印象的だった。彼女の人生はまた、創作そのものでもあったのだ。





公式サイト:https://maija-isola.kinologue.com

2023/01/31(火)(杉江あこ)

交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー

会期:2022/12/17~2023/03/05

東京都庭園美術館[東京都]

モダンデザインとひと口に言っても、その概念は幅広く、人々が抱くイメージもまた種々様々である。本展は1910年代から30年代までの欧州と日本にスポットを当てた、モダンデザインの黎明期を探る展覧会だ。一般にモダンデザインというと、バウハウスや建築家のル・コルビュジエに代表されるような合理主義かつ機能主義的な傾向を連想しがちだが、実はそれだけでは括れない動きが当時にはあった。意外に思えるが、大衆消費社会が進んだことで、つねに新しくあるために装飾することに価値が置かれたというのだ。この「機能」と「装飾」という二項対立をはらんだモダンデザインに、本展は切り込んでいる。

そもそもモダンデザインの父と称されるウィリアム・モリスが、壁紙をはじめとする装飾美術をきわめたことが、アーツ・アンド・クラフツ運動へとつながった。本展でキーとなるのは、そのアーツ・アンド・クラフツ運動の影響を受けたウィーン工房である。同工房は生活全般における「総合芸術」を標榜したことから、機能的でありながら、優れた装飾性を兼ね備えたことで知られていた。また同工房と交流のあったファッションデザイナーのポール・ポワレや、影響を受けたとされる建築家・室内装飾家のロベール・マレ=ステヴァン、また家具デザイナーのフランシス・ジュールダンらの作品を展示し、当時の装飾的モダニズムを紹介している。同時に伝えるのは、欧州中で作家やデザイナーらが互いに影響し合った事実だ。


ヨーゼフ・ホフマン《センターピース・ボウル》(1924)個人蔵[画像提供:東京都庭園美術館]


本展を観ると、結局、装飾は何のためにあるのかという永遠の疑問に行き着く。当時からすでに消費を促すための価値付けとして装飾が用いられていたようだが、この大量消費社会自体を見直すべきときに来たいま、装飾の役割をもう一歩踏み込んで考えなくてはならないのだろう。結局、人間はロボットではないのだから、身の回りのものに機能ばかりを求めたとしても、所詮、味気のない暮らしになってしまう。おそらく感動や生きる喜び、心の豊かさ、また暮らしのリズムなどを与えてくれるのが装飾なのだ。当時、合理主義かつ機能主義的な傾向がありながらも、人間の内なる欲求として彼らが装飾を求めた様子がひしと伝わった。


ポール・ポワレ《ガーデン・パーティ・ドレス》(1911)島根県立石見美術館[画像提供:東京都庭園美術館]


アンドレ・グルー(デザイン)、マリー・ローランサン(絵付)、アドルフ・シャノー(制作)《椅子》(1924)東京都庭園美術館[画像提供:東京都庭園美術館]



公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/221217-230305_ModernSynchronized.html

2023/01/27(金)(杉江あこ)

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世界のブックデザイン 2021-22

会期:2022/12/10~2023/04/09

印刷博物館 P&Pギャラリー[東京都]

本展は、ドイツ・ライプチヒで毎年開かれる「世界で最も美しい本コンクール」の受賞図書をはじめ、その前哨戦である各国のブックデザインコンクールの受賞図書が一堂に会す展覧会である。書籍などの執筆・編集に携わる身としては、いつも多くの刺激をもらえるので楽しく観覧している。今年も痛感したのは、欧文のタイポグラフィの自由度だ。象形文字や表意文字をもつ日本や中国と違って、欧米諸国は表音文字しかもたない。したがって一つひとつの文字自体に意味がない代わりに、彼らは書体に意味を持たせる。日本では考えられないほど文字を大胆にレイアウトしてそのページに何かしらの意味を持たせるのも、もしかしてそのためではないかと想像する。


展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー


文字の扱いが大胆になると、写真の扱いも大胆になるのか。今年、私がもっとも目を引いた本は金賞受賞の『Met Stoelen』だ。これは「椅子」をテーマにしたオランダの学生作品で、まさに目から鱗が落ちるような写真のレイアウトに挑んでいた。同書の特徴は、椅子の写真を見開きで何ページにもわたり載せていることなのだが、これがひと癖ある手法になっていた。最初は右から左へとページを繰るかたちを取るのだが、途中から椅子の写真が90度傾いた状態で登場するため、読者は自然と本を90度傾け、上から下へとページを繰るかたちを取る。そこで気づくのは、片ページに椅子の背もたれ、もう片ページに椅子の座面が来るように写真がレイアウトされていることだ。つまり本を開いた時に垂直になる形態を生かし、写真でありながら椅子の立体性を再現したのだ。本は2Dであるとばかり思い込んでいたところ、綴じ目であるノドを上手く使えば、3Dにもなることに気づかされたブックデザインだった。

もうひとつ紹介したいのは、日本からの唯一の受賞作である銅賞受賞の藤子・F・不二雄『100年ドラえもん』である。豪華愛蔵版全45巻セットということで、とにかく豪華なつくりだった。まず、ドラえもんの道具のひとつである「タイムふろしき」に全巻が包まれているのが心憎い。ふろしきを解くと、15冊ずつ収まった三つの箱が現われる。箱の表面にはお馴染みのキャラクターたちが金の箔押しで描かれている。1冊1冊の本は小ぶりながらすべてハードカバーで、糸綴じで製本され、色鮮やかなシルクスクリーン印刷によって懐かしの漫画が蘇る。これは明らかに往年の大人のファンに向けたセットだろう。かつて廉価な少年漫画誌で連載された漫画が、まさかこんなにも豪華に生まれ変わり、世界で認められるとは。そのつくり手の気合に感服した作品だった。


展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー



公式サイト:https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/g20221210.php


関連レビュー

世界のブックデザイン 2020-21|杉江あこ:artscapeレビュー(2022年02月15日号)

2023/01/21(土)(杉江あこ)

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How is Life? ─地球と生きるためのデザイン

会期:2022/10/21~2023/03/19

TOTOギャラリー・間[東京都]

経済思想・社会思想を専門とする斎藤幸平の著書『人新世の「資本論」』を一昨年あたりに読み、相当感化された私にとって、本展は大変に興味深い内容だった。いま、SDGsが叫ばれる世の中だが、本当にこれらの項目を実行するだけで地球環境を劇的に変えられるのだろうか。以前から薄々と感じていたそんな疑問に対し、同書は否と明確に答えを突き付けてくれた。本展もまた然りである。ライブラリーコーナーに「キュレーター会議で取り上げられた」という書籍が何冊か並んでいたのだが、現に、そのなかに同書も入っていたことに頷けた。

近代以降、人類は経済成長のための活動をずっと続けてきたが、さまざまな面で限界に達したいま、これ以上の成長を望むことは正しいのだろうか。そんな根本的な問いに対し、本展は「成長なき繁栄」という言葉で返す。そう、人類をはじめ地球上に棲むすべての生物がこの先も持続的に繁栄していくためには、経済成長を前提とする必要はもうないのだ。生産、消費、廃棄といった従来のサイクルで物事を捉えることを我々はいったん止め、皆が真に豊かになれる方向へ大きく転換しなければならない。そうした考えに基づいた草の根運動やプロジェクトが、いま、世界中で実践され始めているという。塚本由晴、千葉学、田根剛、セン・クアンといった第一線で活躍する建築家・建築史家4人がそれらの運動やプロジェクトを収集し紹介したのが本展だ。


展示風景 TOTOギャラリー・間 © Nacása & Partners Inc.


農業や林業、里山の仕組みを見直すといった類のプロジェクトも多く紹介されていたが、私がむしろ興味を引かれたのは都市のあり方である。特にパリをはじめ、ヨーロッパの都市が積極的に変わろうとしているのには好感を持てた。例えば車や鉄道に代わり、改めて着目されている移動手段は自転車だという。より人間に近いモビリティが求められているというわけだ。そこで問われるのが自転車道を優先した都市計画で、パリやチューリッヒなどではすでにそうした試みが始まっているという。


展示風景 TOTOギャラリー・間 © Nacása & Partners Inc.


結局、既成概念にとらわれていては何も変えられない。この危機的状況を脱するには、より柔軟な発想が必要となる。最後に観た作品「How to Settle on Earth」は、その点で非常に刺激的な内容だった。建築家・都市計画家のヨナ・フリードマンが「地球の再編成」をテーマに軽妙なイラストながらラディカルな提案をしていて、目が釘付けになった。地球および人類の未来のためには、もしかすると国境すらも取っ払う必要が出てくるのかもしれない。


公式サイト:https://jp.toto.com/gallerma/ex221021/

2023/01/21(土)(杉江あこ)

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「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」「クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ」

東京都現代美術館[東京]

夕方に東京都現代美術館に到着したため、「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展は、映像作品をフルに鑑賞できず、その内容についてはあまりコメントできない(モダニズムの集合住宅をめぐる社会的な問題を扱う作品は興味深いものだった)。これは鑑賞に時間を要する映像系の展示の悩ましいところだが、会期中に再入場できるウェルカムバック券が出るようになっていた。感心したのは、映像を見せるための会場デザインがとても良かったこと。映像がメインになると、しばしば暗室が並んだり、空間がなくなってしまうこともあるが、ここでは相互に浸透する魅力的な空間が出現していた。特にデザイナーは明記されず、展覧会のチラシでは「これまでの代表的な5作品を、複数の視点と声が交差する舞台のような、ひとつのゆるやかなインスタレーションとして展示します」と書かれていたように、会場の構成も作家によるものだ。



「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展 展示風景




「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展 展示風景




「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展 展示風景


パリ、上海、ロンドン、ニューヨークなど世界巡回した「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展は、館外の企画なのに、なんで会期が半年もあるのかと実は訝しがったが、実際に展示を鑑賞し、これだけ作り込んだものなら、それに見合う価値をもつと思わされた。一昨年は福岡で天神ビジネスセンターを完成させ、今年竣工する予定の虎ノ門ヒルズ ステーションタワーにも関わる、OMAの重松象平が、展覧会の空間デザインを担当しており、企画展とは思えない、常設並みの仕上がりになっていたからである。精度が高い鏡面を多用しつつ、複数のパターンの空間が展開しており、端的にいって、ものすごい費用がかかっているはずだ。近年は、安ければ良い、コスパばかりが求められるが、それだけがデザインの可能性ではない。ディオールに興味がなくとも、良い意味で桁違いにお金をかけると、正しく、ここまで徹底したディスプレイが可能になるのを体験するだけでも訪れるべき展覧会である。天井まで可燃に見えるような造作物で覆い、消防法など、どうやってクリアしたのだろうと思うエリアも存在した。(もちろん、東京オリンピック2020の開会式のように、大金をかけたはずなのに、ダメだったものは批判されるべきだ)高木由利子が撮影した写真も魅力的である。ゴージャスな夢の世界を演出する展覧会が、ディオールのブランド・イメージを上げることを目的としているなら、完全な成功と言えるだろう。



「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展 展示風景




「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展 展示風景




「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展 展示風景




「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展 展示風景


ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台

会期:2022年11月12日(土)〜2023年2月19日(日)

クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ

会期:2022年12月21日(水)~2023年5月28日(日)

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2022/12/25(日)(五十嵐太郎)

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