artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

水俣の図(「武満徹の映画音楽」より)

会期:2009/08/26~2009/09/01

ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]

丸木位里・丸木俊による《水俣の図》の制作風景を収めたドキュメンタリー映画。文学者の石牟礼道子の案内で水俣の地をじっさいに訪れた上で、邸宅内のアトリエでともに筆をふるう共同作業の様子を丹念に追っている。発見だったのは、位里と俊の力関係。俊が丁寧に描きこんだ下絵の上に、位里は思いのほか大胆に墨を流していく。一見すると家父長制的役割分業の典型のように見えるが、両者の緊張感を伴った「描きあい」によって、あの迫力と悲しみに満ちた画面が構成されたという背景を知ることができた。

2009/09/01(火)(福住廉)

白と黒(「武満徹の映画音楽」より)

会期:2009/08/19~2009/08/25

ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]

1963年制作、堀川弘通監督による社会派サスペンス映画。主演の小林桂樹のほか、仲代達矢、乙羽信子、大空真弓、淡島千景、井川比佐志、西村晃と東野英二郎(新旧水戸黄門の共演!)などがそれぞれ味わい深い演技を見せ、さらには松本清張や大宅壮一といった知識人もチョイ役で出演するなど、豪華絢爛な出演陣が観客を魅了する。おまけに、当時の社会風土を織り交ぜながら、物語を二転三転させる骨太の脚本が、いかにも渋い。2時間弱の映画であるにもかかわらず、ひじょうに密度の濃い時間を経験できた。企業とタイアップしたほとんど広告のような薄っぺらいモノガタリが横行する昨今、こうした硬派な物語にこそ、エンターテイメントの真髄があるにちがいない。

2009/08/24(月)(福住廉)

名和晃平 展 Transcode

会期:2009/09/19~2009/10/17

ギャラリーノマル[大阪府]

メゾンエルメス(東京)での個展が好評を博している名和晃平が、地元関西でも新作展を開催。彼は素材との戯れや実験のなかから作品を煮詰めていくことが多いが、本展では映像作品《Dot-Movie》など新たなメディアを用いた作品が予定されている。今後の方向性を窺う意味でも注目の機会となるだろう。

2009/08/20(木)(小吹隆文)

ウィリアム・ケントリッジ──歩きながら歴史を考える そしてドローイングは動き始めた……

会期:2009/09/04~2009/10/18

京都国立近代美術館[京都府]

ドローイングを部分的に描き直しながら1コマずつ撮影したアニメーション作品などで国際的に高い評価を受けているウィリアム・ケントリッジの日本初個展。初期の代表作《ソーホー・エクスタインの連作》(1989~2003)から最新作《I Am Not Me, the Horse Is Not Mine》(2008)までの映像作品19点(インスタレーション3点を含む)と、素描36点、版画64点により構成。初日にはケントリッジ自身によるレクチャーとパフォーマンスも予定されている。

写真:《I Am Not Me, the Horse Is Not Mine 俺は俺ではない、あの馬も俺のではない》2008年 ©the artist

2009/08/20(木)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00006025.json s 1208539

宮永亮「ウォンジナ」

会期:2009/07/18~2009/08/29

児玉画廊[京都府]

今年と昨年に京都市立芸術大学の制作展に出品された作品《ウォンジナ》(2009年)と《Rainy Letter》(2008年)が展示された。機材や環境が学内展示より大幅に向上しているためか、作品のグレードがワンランク上がった気がする。特に、水面や空、太陽、絵具のしたたりなどの映像を天地左右反転させたりスピードを変えながら巧みに組み合わせ、オリジナルの音楽が付けられた《ウォンジナ》は、黙示録的な荘厳さすら感じられる秀作だ。それにしても、もっと早くに見ておくべきだった。自分の腰の重さに大いに反省。

2009/08/18(火)(小吹隆文)