artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
他人の顔
会期:2009/08/12~2009/08/18
ラピュタ阿佐ヶ谷[東京都]
1966年制作の勅使河原宏監督作品。「武満徹の映画音楽」というイベントで上映されたように、音楽は武満徹、原作・脚本が安部公房、美術に磯崎新と山崎正夫。しかも平幹二郎演じる精神科医の病院内には、三木富雄の「耳」が設置されている。顔面に大火傷を負った男が他人の顔の「仮面」を手に入れることで妻の愛を取り戻そうとする物語に一貫しているのは、身体のパーツにたいする偏執的な視線。アイデンティティと結びついた顔はもちろん、水槽に沈められる手首の模造、岸田今日子のつりあがった口角、京マチコのなまめかしい脚、右顔を隠した入江美樹の左顔、そして仲代達矢の恐ろしいほど澄んだ黒い眼! こうした分析的な視線が次第にエスカレートしていき、虚飾や建前、化粧といった「表面」を切り裂き、その下に隠されているどろどろした「内面」をゆっくりとえぐりだしていくサディスティックなプロセスこそ、この映画の醍醐味である。
2009/08/13(木)(福住廉)
堂島リバービエンナーレ2009「リフレクション:アートに見る世界の今」
会期:2009/08/08~2009/09/06
堂島リバーフォーラム[大阪府]
南條史生をアートディレクターに迎え、彼が手がけた2006年と2008年のシンガポール・ビエンナーレの出品作のなかから、政治的・社会的メッセージ性の濃い作品26点を選んで構成された。キリスト教とイスラム教の衝突をテーマにしたトマス・オチョアや、パレスチナ問題への抗議を過激に訴えたスーハ・ショーマンなど、映像作品が多数を占めており、照明・音響機材に恵まれた会場の特性を生かしたハイクオリティな展示が印象的だった。こと映像作品に関しては、既存の美術館より優れた展示だったと思う。日本ではなかなか見られないハードエッジな作品が多数を占めていたが、こうした作品群がもっと頻繁に紹介されるべきだ。内向き、ナイーブ、草食系、オタク……、知らぬ間にそんな作品ばかりに囲まれていたぬるい自分を実感した。
2009/08/07(金)(小吹隆文)
西武アキラ展「ホワイトアスパラガスとモモンガ」
会期:2009/07/31~2009/08/12
AD&A Gallery[大阪府]
ペン画のドローイングを多数展示。妖怪のようなキャラクターが多数描かれていて、時折抽象的なパターンが反復する作品もある。線の美しさが際立っており、その軌跡を見るだけで十分楽しい。2階ではドローイングをコンピューターで加工した平面作品や動画も展示されていたが、こちらはまだ実験段階。ドローイングの魅力にはまだまだ追いついていなかった。
2009/08/03(月)(小吹隆文)
スタジオジブリ・レイアウト展
会期:2009/07/25~0009/10/12
サントリーミュージアム[天保山][大阪府]
昨年東京都現代美術館で開催され、大きな話題を集めた展覧会が、約1年の時を経て大阪でも開催。改めて実感したのは、その膨大なレイアウト(アニメの設計図となる原画のようなもの)の量。1本のアニメを作るのにどれだけ沢山の絵を描かねばならないことか。上手さ以上に量が天才の証であることを、現物をもって見せつけられた。会場は人、人、人で息もつけない盛況ぶり。なかなか前に進めないので、途中から最前列で見るのを放棄した。ジブリのブランド力はやっぱりすごい。観客の多くは作品を前にストーリーやキャラの魅力、そこから発展して思い出話に花を咲かせていたが、そういう展覧会だっけ? いや、だからこそアニメは強いのか。思い入れのない身には観客を観察する楽しみも残されていた。
2009/08/02(日)(小吹隆文)
ラム・カツィール展─抹茶ノ中ノ嵐─
会期:2009/07/10~2009/07/26
京都芸術センター[京都府]
展示室の床には8枚の畳が敷かれ、傍らにドウダンツツジが生けられている。壁面にはスクリーンがあり、映像が投影されている。映像は茶席の風景から始まる(展示室のインスタレーションは茶室の写し)。静けさ漂うその世界を切り裂くように庭園を新幹線が横切ると、画面は一転して高速の車窓風景へ。田園地帯を走りぬけた新幹線は大都会東京に到着する。見慣れた高層ビル群も、外国人の目を通して映像化されるとどこか仮想空間のようだ。映像は徐々に速度と音量を増し、混雑した通勤電車の車窓風景が幾つもコラージュされた状態でピークを迎え、再び冒頭の茶席へとループする。カツィールは、日本人に流れる二つの時間(伝統とモダン)をテーマにしたようだ。それ自体は外国人から見た現代日本の典型で新味は感じられなかったが、音と光と速度が高密度化していくクライマックスはそれなりに見応えがあった。
2009/07/12(日)(小吹隆文)