artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

多田ユウコ 空遊書画

会期:2009/06/30~2009/07/04

サードギャラリーAya[大阪府]

水泳の飛び込み選手を捉えた写真と、飛び込みを楽しむ人々を撮影した映像を展示。改めて見比べると選手と一般人の差は歴然だが、もちろん本展の目的はそんなことではない。人間が重力から解き放たれる一瞬を記録し、躍動する肉体の美しさや嬉々としてダイブに興じる人間の感情を定着させることがテーマなのだ。時に半身のみを狙うなどトリミングも効果的で、点数こそ少ないが印象に残る個展となった。惜しいのは会期が短いこと。若手対象の特別企画とはいえ、5日間というのはさすがに辛い。

2009/07/02(木)(小吹隆文)

ヴィデオを待ちながら 映像、60年代から今日へ

会期:2009/03/31~2009/06/07

東京国立近代美術館[東京都]

ヴィデオ・アートの歴史を回顧する展覧会。ビル・ヴィオラ、ヴィト・アコンチ、ロバート・スミッソン、ブルース・ナウマン、野村仁、泉太郎、小林耕平など、国内外あわせて30人のアーティストによる作品51点が発表された。テレビモニターを使った作品の展示は単調になりがちだが、本展では空間をきちんと作りこむことによって、作品の特性を最大限に引き出していたし、空間のメリハリが効いていて、ストレスなく作品を鑑賞することができた。また、映像作品ばかり見ているとたいてい辟易させられるものだが、本展では展示された作品すべてがおもしろく、一つも外れがなかったといっていいほど、楽しめた。難点があるとすれば、出品作品が60年代の欧米と現在の日本に極端に偏重していたこと。「60年代から今日へ」というのであれば、双方のあいだをつなぐ媒介者の存在こそ、よりいっそうクローズアップするべきではなかったか。

2009/06/2(火)(福住廉)

artscapeレビュー /relation/e_00001119.json s 1206158

マン・オン・ワイヤー

会期:2009/06/13

新宿テアトルタイムズスクエア[東京都]

1974年、ワールドトレードセンターの屋上のあいだに一本のワイヤーを渡し、その上を命綱なしで綱渡りをした大道芸人、フィリップ・プティのドキュメンタリー映画。プティをはじめとする仲間たちの証言を中心に、当時の記録写真やニュース映像、再現映像などをまじえて構成された映像を見ると、この常軌を逸したパフォーマンスが文字どおり狂気と紙一重であり、だからこそ彼らの人生を大きく左右するほど、決定的に重大な出来事だったことがわかる。とりわけ恍惚とした表情を浮かべながら饒舌に物語るプティの語り口には、それが彼の人生における崇高体験として内面化されていることが伺える。地上110階、高さにして411m、しかもツインタワーのあいだは42m。その空間をたったひとりで何度も往復し、なおかつワイヤーの上で寝転んでみせたプティをしのぐパフォーマンスは、同じことに挑戦しようにもツインタワーじたいがもはや存在しないのだから、おそらく当分のあいだ成し遂げられないだろう。だが、このドキュメンタリー映画が暗示しているのは、そもそも崇高な経験とは人生において一度あればよいほうであり、その幸運な一回性を除けば、私たちの日常は退屈きわまる凡庸な時間がだらだらといつまでも続いているという事実ではないだろうか。だから、この映画が教えているのは、夢追い人に生きる勇気と希望を与える安易な感動物語などではなく、むしろそのラッキーな出来事に出会えるために日々を耐え忍ぶ忍耐力である。いつの日か、上空を闊歩する天狗のような人影を目撃できるかもしれない、これこそ希望である。

2009/06/17(水)(福住廉)

『ダブル・テイク』

会期:2009/04/28~2009/05/06

パークタワーホール[東京都]

「イメージ・フォーラム・フェスティバル2009」で公開されたヨハン・グリモンプレの映像作品。アルフレッド・ヒッチコックのそっくりさんをモチーフにして、米ソの冷戦の歴史を振り返る構成だった。これまでの作品と同様、スピード感のある編集が見事だったが、全体の尺が長すぎるせいか、あるいは展開にメリハリがつけられていないせいか、次第に食傷気味になった。

2009/05/06(水)(福住廉)

no name kyoto

会期:2009/04/26~2009/05/05

元立誠小学校[京都府]

3月に横浜のZAIMで行なわれた同展が、GWの京都でも開催。キュレーターによる企画展ではなく、作家主導で幅広い表現が見られるとあって、個々の作品に注目して鑑賞した。私にとって馴染みの薄い首都圏の作家に興味が偏ってしまったが、特に加藤翼の作品は面白かった。それは、巨大な幾何学形態のオブジェを大勢の人間が力を合わせてひっくり返すというものだ。オブジェを倒す行為に必然性があるのかはともかく、倒れた瞬間は見ているこちらもカタルシスに包まれる。今回は映像だったが、一度生で見たいものだ。

2009/04/29(水)(小吹隆文)