artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

吉岡俊直 展

会期:1/15~2/8

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

映像、CG、写真作品が出品された。映像は自宅マンションの一角に巨大な水滴が現われて、遂には雫となって落下するというもの。水滴は「恐怖」のメタファーである。シンプルな作品だが、得体の知れない怖さを見事に表現していた。写真作品は、スイカの皮の部分のみを剥き、真っ赤な果実をむき出しにしたもの。まるで肉塊のような生々しさがあり、内視鏡で初めて自分の臓器を見た時のことを思い出してしまった。

2009/01/17(土)(小吹隆文)

TARO賞の作家I

会期:2008/10/11~2009/1/12

川崎市岡本太郎美術館[東京都]

今井紀彰から電話があって、彼が出品している「TARO賞の作家I」展を観に行くことにした。会場の岡本太郎美術館は、川崎市の生田緑地のとても気持ちのいい場所にあるのだが、やや遠くて、足を運ぶには一日潰す覚悟がいる。この展示も行かなければと思っていたのに、ついずるずると最終日になってしまっていたのだ。
結果は行って得をした気分になった。今井は以前から写真を大画面に曼荼羅状に配置していくコラージュ作品を制作していたのだが、今回はそれがさらに進化して「ビデオコラージュ」になっていたのだ。ハイビジョン化によって画像の精度が増し、写真作品並みの細部のクォリティが実現できた。画面の分割、融合、合成などの視覚効果も簡単に使えるようになってきたのだという。とはいえデータの量は半端ではなく、10分程度の作品で、書き込みだけで40時間もかかる。デジタル機器の進化によって、逆に今井のような画像の物質性を追求する映像作家が出現してきたのはとても興味深いことだ。
内容的には、これまでの彼の「曼荼羅」作品と同様に、ブレークダンス、街の雑踏、水の輪廻、空と雲などの森羅万象が、点滅しつつ変幻していく魔術的な映像世界が構築されていた。もともと彼の中にあったシャーマン的な体質が、静止画像から動画になることで、より強化されているようにも感じる。今後の展開が大いに期待できそうだ。
「TARO賞の作家I」展の他の出品者は、えぐちりか、開発好明、風間サチコ、棚田康司、横井山泰。TARO賞も11回目を迎え、ユニークな作家が育ってきている。えぐちの増殖する卵の群れ、下着でできた食虫植物など、日常を異化する作品が面白かった。この中の何人かには、岡本太郎の作品世界のスケールの大きさまで肉迫していってもらいたいものだ。

2009/01/12(月)(飯沢耕太郎)

高橋耕平 個展 Take-A little action and small accident

会期:12月10日~12月21日

GALLERY RAKU[京都府]

薄型モニターに映し出された映像は、一見スチール写真のよう。しかし、じっと見続けていると、時折人物が動いたり、画面が微妙に手ぶれしていることに気付く。既成イメージに小さな仕掛けを施すことで、見る者の常識を編集し直すということか。でも、一旦気付くと、今度はそれ自体が既成イメージになってしまう。そこまで読み込むのが高橋の意図だと思われるが、いわゆる脳トレ的なサプライズで止まってしまう可能性も高い。かといってハードルを下げれば陳腐になるし。さじ加減が難しいところだ。

2008/12/16(火)(小吹隆文)

ダブル・クロノス展

会期:11月15日~11月24日

瑞聖寺アートプロジェクトZAP[東京都]

毎年恒例となった多摩美の長谷川祐子ゼミによる企画展。白金台の瑞聖寺を舞台に東恩納裕一、大巻伸嗣、高木正勝、水木塁、大西麻貴+百田有希による作品を展示した。圧倒的だったのは、高木正勝。ブラックキューブのなかで魅せた映像は、従来の牧歌的なイメージを完全に覆し、ダイナミックなリズムで生命の輪廻をたどるようなものだった。

2008/11/22(土)(福住廉)

沖縄・プリズム 1872─2008

会期:10月31日~12月21日

東京国立近代美術館[東京都]

沖縄は好きな場所で、何度も訪れている。行くたびに不思議な気持ちになるのは、異文化の香りを色濃く漂わせながら、どこか懐かしい故郷に帰ったような気持ちにさせてくれることだ。沖縄の言葉(ウチナーグチ)は日本の平安時代くらいの古語の骨格を留めているという話を聞いたことがある。日本の文化、宗教などの原型がそこにあるといえるだろう。それに加えて中国との交易や第二次世界大戦後のアメリカ統治の影響によって、沖縄は一筋縄ではいかない、プリズムのように乱反射する混合文化を育てあげてきた。
「沖縄・プリズム 1872─2008」展は、そんな沖縄を舞台にした近代以後の表現を、絵画、版画、工芸、写真、映画などさまざまな角度から再構築しようという意欲的な試みである。その風土と歴史(とりわけ戦争の傷跡)に根ざしたユニークな視点が浮かびあがってくるとともに、沖縄に魅せられた「本土」出身の作家の作品を含むことで、緊張感を孕んだスリリングな表現の磁場が姿をあらわしていた。
とりわけ興味深いのは、そのなかで写真家たちの仕事が重要な役割を果たしてきたことである。木村伊兵衛の「那覇の市場」(1936)のシリーズから始まって、岡本太郎、東松照明、平良孝七、平敷兼七、石川真生、伊志嶺隆、比嘉康雄、比嘉豊光、掛川源一郎、圓井義典らの力作が並ぶ。沖縄の磁場が写真家たちに大きな刺激を与え、おおらかな生命力がみなぎる作品が次々に生み出されてきたことがよくわかる好企画だった。

2008/11/08(土)(飯沢耕太郎)