artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
やなぎみわ「Lullaby」
会期:2010/01/29~2010/03/21
RAT HOLE GALLERY[東京都]
やなぎみわの新作は、お馴染みの少女と老婆をテーマとする仮面劇の映像作品。縮尺が微妙に狂った暖炉のある部屋の中で、黒い小さな老婆が、白い大きな少女に膝枕をしてあやしながら、子守唄を唄っている。そのうち不意に少女が目覚め、激しい格闘が始まり、老婆はねじ伏せられる。そうすると、今度は少女が老婆を優しくあやしながら子守唄を唄いだす。そういう短いストーリーが何度かくり返され、そのたびに老婆と少女の立場は逆転することになる。
話そのものは単純だが、フォークロアによくある繰り返しの効果がうまく使われていて、なかなか面白かった。何よりもよかったのは「笑える」ことで、これはやなぎの新境地といえるのではないだろうか。二人の格闘シーンがかなりリアルで、静かな子守唄の場面との落差が笑いを呼ぶのだ。最後に今まで老婆と少女がいた居心地のよさそうな部屋の壁が崩れ落ちて、彼女たちが吹きっさらしの都会のビルの屋上にいたのがわかる。このあたりの展開も、鮮やかに決まっていた。神話の中に日常が紛れ込む方向性が見えてきたのが収穫といえそうだ。入口のパートに旧作が数点かかっているだけで、あとは映像を淡々と上映するだけの会場構成はすっきりして悪くないのだが、もう一工夫あってよかったかもしれない。
2010/02/06(土)(飯沢耕太郎)
おとし穴(特集上映「映像の中の炭鉱」)
会期:2009/11/28~2009/12/11
ポレポレ東中野[東京都]
目黒区美術館で催されていた「‘文化’資源としての〈炭鉱〉」展の第三部「映像の中の炭鉱」として催された映像プログラムのひとつ。1962年の勅使河原宏監督作品で、原作・脚本が安部公房、音楽監督に武満徹、音楽に一柳慧と高橋悠治。主演は井川比佐志、田中邦衛、佐々木すみ江、佐藤慶など。物語は炭鉱を舞台にしたサスペンスで、田中邦衛が扮する白いスーツの謎の男が次々と殺人事件を犯してゆく。安部公房=勅使河原宏の映画としては定番の不条理劇だが、この作品がおもしろいのは、生身の身体と死体、そして霊魂をそれぞれ同じ役者が演じ分けることによって、不可解な物語に独特のユーモアを添えているからだ。そのせいか、安部公房=勅使河原宏にしては珍しく笑いながら楽しめる映画になっている。資本家による陰謀を匂わせる結末にはいかにもイデオロギー的な偏りが見られるが、それを上回る映像美を見せるところが勅使河原作品の真骨頂である。ボタ山の鋭い稜線上で群れる野犬の影は、息を呑むほど美しい。
2009/12/02(水)(福住廉)
ヨコハマ国際映像祭
会期:2009/10/31~2009/11/29
新港ピア、BankART Studio NYKほか[神奈川県]
横浜トリエンナーレとほぼ同じ会場で催された国際映像展。国内外から70組あまりのアーティストが参加した。なかでも群を抜いて際立っていたのが、クリスチャン・マークレーの《ヴィデオ・カルテット》と山川冬樹の《The Voice-Over》。前者はおびただしい数の映画のワンシーンをランダムにつなぎ合わせることで文字どおり四重奏(カルテット)を作り出し、後者はテレビ局のアナウンサーだった実父の声をもとに個人史と世界史を織り交ぜた歴史を物語った。とりわけ視覚的な映像を最小限にとどめ、音声による聴覚や音の振動による触覚を前面化させた山川の作品は、観覧者の脳内で映像を想像的に再生させるという点で、映像表現が氾濫する現代社会にあって映像の芸術にとってのひとつの可能性を提示したように思う。ただ、個々の作品は別として、本展の全体が依然として旧来の制度的なフレームを維持していたことが気になった。新港ぴあで見せられていた映像のアーカイヴは、いくつものモニターをブロック状に積み上げ、無数のプログラムを同時に見せていたが、鑑賞するにはストレスがひじょうに高い。暗い会場で立ったまま鑑賞するには時間が長すぎるし、とてもすべてを鑑賞する気にはなれないからだ。あるいは、ニコ動のコメントがリアルタイムで流れる作品も見られたが、こうした自宅で見ることができる凡庸な映像をあえて展覧会で見せる理由もよくわからない。さらに、きわめつけが作品のキャプション解説文だ。「形式」「内容」「没個性」「物質性」云々かんぬん。これまでの現代アートの展覧会で見られた衒学的(学問的知識を見せびらかすこと)な物言いがやけに多い。映像表現は確実に進化を遂げているし、社会の体制もまたそれに追随している。ところが展覧会の制度や言説はあいもかわらず旧態依然としているのである。映像の同時代をつかまえるには、私たちの意識や言葉を徹底的に自己批判する必要があるのではないだろうか。
2009/11/25(水)(福住廉)
水野勝規 新作展「フィールド・モーション」
会期:2009/10/09~2009/10/24
ARTCOURT Gallery[大阪府]
薄暗い会場では、複数の映像作品が上映されていた。楽園のような水辺の風景を映し出す作品や、真っ青な空を飛行機雲の白い線が切り取っていく作品がある。工事現場のクレーンが動く様子や、料理旅館の宴会を窓越しに捉えた作品もある。それらに共通するのは、盛り上がりを意図的に排除していることだ。しかし、淡々と過ぎる時のなかで起こる小さな変化が、見る者の心に確かなカタルシスをもたらす。俳句を映像で作ったらこんな感じになるのかもしれない。
2009/10/09(金)(小吹隆文)
神戸ビエンナーレ2009
会期:2009/10/03~2009/11/23
2回目を迎えた神戸ビエンナーレ。今回はメイン会場のメリケンパークに加え、兵庫県立美術館と神戸港海上でも作品展を開催。3会場を船で繋ぐという港町・神戸らしい演出も導入された。また。メリケンパーク会場で文化庁メディア芸術祭の入賞・入選作品の上映が行なわれたり、三宮・元町商店街では地元と大学生の協同プロジェクトが行なわれるなど、バラエティの豊かさも実感できた。結論から言うと、その方向性は正解。招待作家を県立美術館に集めることで質の高い展覧会が見られたし、船に乗るのは単純に楽しい。メリケンパークにコンテナを並べて行なわれた展示も前回より進歩が感じられた。また、全会場に入場でき、船にも乗れる一番高額なチケットが1,500円という価格設定は、良心的と言ってよいだろう。あえて苦言を呈すると、コンテナ展示の一部は進歩が感じられなかった。児童絵画展と障害者作品展はともかく、陶芸展といけばな展はもっとやりようがあるはずだ。この点は第3回の課題として改善を希望する。
2009/10/02(金)(小吹隆文)