artscapeレビュー
その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー
ハナヤ勘兵衛の時代デェ!!
会期:2016/11/19~2017/03/19
兵庫県立美術館[兵庫県]
兵庫県芦屋市を拠点に活躍し、戦前戦後の写真界に大きな足跡を残したハナヤ勘兵衛(1903~1991)。本展では、代表作を中心に、芦屋カメラクラブで彼と一緒に活動した紅谷吉之助、高麗清治、松原重三らの作品も合わせた約120点を展覧。その足跡と時代を振り返っている。ハナヤ勘兵衛といえば新興写真やモンタージュの印象が強いが、戦中戦後の作品には都市の人々を生々しく捉えたものが多く、紀州をテーマにした晩年の作品も含め、作風の多様性がよく分かった。また、ビンテージ・プリントが数多く含まれていること、彼が開発した小型カメラ「コーナン16」(のちに「ミノルタ16」としてヒットした)が展示されているのも貴重だった。本展は小企画展ゆえ目立たないが、内容が非常に良いので多くの人に見てほしい。また同時開催の「彫刻大集合」も、近代から現代までの彫刻約50点が並んでおり、見応えがあった。
2016/11/19(土)(小吹隆文)
さいたまトリエンナーレ 2016
会期:2016/09/24~2016/12/11
ようやくさいたまトリエンナーレ(たまトリ)を見に行った。というより、岩槻の旧民俗文化センターに行ったついでに、駅前の東玉社員寮と武蔵浦和の旧部長公舎にも寄っただけなので、たまトリを見に行ったという気分ではないが、それでも計20作家以上の作品を見ることができた。こういう国際展や芸術祭というのは全部見ようとするとそれなりの余裕と覚悟が必要だが、おもしろそうなところ1、2カ所に絞ってピンポイント攻撃するというテもある。でもこれはたまトリが入場無料だからできるんだけど。
まずは大宮に行き、東武アーバンパークライン(旧称「野田線」のほうが短くてローカル色豊かで覚えやすいのに)に乗り換えて岩槻へ。旧民俗文化センターは遠いのでシャトルバスが出ているが、出発まで15分ほどあったので近くの東玉社員寮へ。ここでは世界各地の空家や遊休施設をヤドカリするアーティスト・イン・レジデンス「ホームベース・プロジェクト」を実施。内外6作家が滞在制作し、その成果をウサギ小屋みたいな社員寮の各部屋で発表している。外国のアーティストはやはり日本の文化に興味を持つようで、部屋の真ん中の畳1枚を抜いてそのなかでパフォーマンスした写真を飾ったり、フトンを丸めてお内裏さまの座布団に見立てたり。なぜこれがお内裏さまの座布団だとわかるかというと、部屋の入口にひな祭りの人形がひとつ置いてあったからだ。唐突だなと思ったが、その後シャトルバスに乗って町の様子をながめてたら、やたら人形店が多いことに気づく。どうやら岩槻はひな人形を中心に「人形のまち」として知られているらしい。なるほど。
旧民俗文化センターは、なんでこんな郊外にこんな施設をつくったんだろうと首をひねりたくなる物件。当然の帰結として廃屋になっているこの建物内に13作家、外に1作家が展示している。最初の部屋にあったのが川埜龍三の《犀の角がもう少し長ければ歴史は変わっていただろう》という作品で、中央に大きなサイの埴輪が鎮座しており、周囲に犬やUFOの埴輪を並べ、その埴輪を発掘する現場や埴輪をデッサンする生徒たちの写真もある。作者によれば、これらは現在われわれが存在する世界「さいたまA」と同時に存在するパラレルワールド「さいたまB」で発掘された埴輪群とのこと。岩槻には遺跡や貝塚が多く、そんなところから発想されたのだろう。サイの埴輪はたぶん「彩の国さいたま」の語呂合わせではないか。こういうSF的仮説の下に作品をつくるアーティストはほかにもいるが、ここまで丁寧につくり込むと実際に信じるヤツが出てくるかもしれない。
講堂では、歴史上の人物をモチーフにした小沢剛の「帰って来た」シリーズ第3弾、《帰って来たJ.L.》をやっている。扉を開けるとカビ臭い香りが漂うレトロな映画館風のスペース。両脇に巨大な絵画を4点ずつ計8点並べ、正面のスクリーンで映画を上映している。これらを見ると「J.L.」がジョン・レノンのことだとわかるが、なぜかフィリピンの看板屋が絵を描いたり、マニラの盲目のバンドが登場したりして混乱する。解説を読むと、1966年にビートルズが来日公演した後フィリピンに立ち寄り、マニラでも公演しているし(これが大変な騒ぎになったが略)、さいたま市にはジョン・レノン・ミュージアムもあった(2000年に開館したが2010年に閉館)。なるほど、ジョン・レノンとフィリピンとさいたまをつなぐ糸は細いながらもあるのだ。そこに日本とフィリピンの戦中・戦後史や両国の原発政策の違い、ジョンの反戦思想、視覚障害者の音楽などを絡ませた労作だ。
ほかにも「洗濯」をテーマにした西尾美也のインスタレーション、駅のホームで待つ人たちを電車内から超スローモーションで撮影したアダム・マジャールの映像、福島の思い出の品を漆塗りでコーティングした藤城光のオブジェなど見るべき作品は少なくない。さて、出発時間が近づいたのでバス乗り場に行こうとしたら、屋外にもう1点あるという。そういえば「目」の作品を見ていなかった! 受付で注意事項を聞いてスリッパをもらい、建物の横から植物に覆われた迷路をたどっていくと、目の前に大きな池が! スリッパに履き替えて向こう岸まで歩いて行く。なんで池の上を歩けるのかって?
それは内緒。いつものことながら、よくここまでつくったものだと感心する。
今日は岩槻だけにしようと思っていたが、まだ時間があるのでもう1カ所寄ってみる。岩槻から大宮に出て埼京線に乗り換え、武蔵浦和で下車。歩いて10分ほどで旧部長公舎に着く。旧大宮市の部長家族が住んでいたと思われる2階建ての邸宅4軒に、鈴木桃子、高田安規子+政子、野口里佳、松田正隆+遠藤幹大+三上亮の4組が挑んでいる。個々の作品はともかく、おもしろいのは、鈴木と野口は室内をホワイトキューブに改造し、あくまで自分の作品の展示場として使っているのに対して、高田組と松田組は家の記憶や気配、残された備品などから作品を発想していること。つまり、場所に関わらず作品をつくるか、場所から作品を発想するかの違いだ。これらは近年の芸術祭に見られるふたつの傾向を端的に表わしているようで興味深い。
2016/11/15(火)(村田真)
冨田勲 追悼特別公演 冨田勲×初音ミク「ドクター・コッペリウス」
会期:2016/11/11~2016/11/12
オーチャードホール[東京都]
第一部はミクと初共演となった「イーハトーブ交響曲」を演奏し、第二部が冨田の死去のために、一部未完に終わったコッペリウスを披露する。第一部と違い、リアルなバレエのダンサーとの共演だが、人間の視覚はかなり騙しやすいせいか、自然に感じられた。一方、ミクの身体なき声は、この世の感じではなく、不思議な聴覚体験だった。
2016/11/11(金)(五十嵐太郎)
臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 禅─心をかたちに─
会期:2016/10/18~2016/11/27
東京国立博物館[東京都]
坊主と武将の絵と、禅僧の彫刻と書。見るからに辛気くさいものばかりだが、おっと目が止まったのが《南浦紹明像》という禅僧を描いた絵。顔料がはがれて下の絵が表われたんだろうが、目が4つ、口が2つのダブルイメージになっている! しかも顔以外はすぐ後に展示されてる《虚堂智愚像》とそっくり。着せ替え人形みたいに禅僧のフォーマットがあって、顔をすげ替えるだけで一丁上がりみたいな。日本の古美術にはこういうモダンアートにはないエグさがある。
2016/11/08(火)(村田真)
開館80周年記念展 壺中之展
会期:2016/11/08~2016/12/04
大阪市立美術館[大阪府]
大阪市立美術館の開館80周年を記念し、約8400件の館蔵品から名品約300件を選んで展示した。構成は、館の歴史を振り返る第1章、作品の形態を重視した鑑賞入門としての第2章から始まり、日本美術、中国美術、仏教美術、近代美術と続く。同館の主軸は日本・東洋美術であり、阿部コレクション、カザール・コレクション、住友コレクション、山口コレクション、田万コレクションなど、個人コレクターの寄贈や寺社の寄託が中心となっている点に特徴がある。それらの名品を約300点も一気に見るのは大変で、約半分を見終えた時点ですっかり疲れてしまった。しかし、日本の美術館でこれだけ充実した館蔵品展が行なわれる機会は滅多にない。この疲労感はむしろ心地良いものだと思い直して歩を進めた。欧米の美術館に比して日本の美術館は常設展示が貧弱だ。普段からこれぐらいのボリュームで館蔵品を見られれば良いのにと、心から思う。ちなみに本展の展覧会名は、中国の故事「壺中之天」によるもの。壺の中に素晴らしい別世界が広がっていたというお話で、壺を美術館に置き換えるとその意味がよく分かる。
2016/11/07(月)(小吹隆文)