artscapeレビュー
その他のジャンルに関するレビュー/プレビュー
董其昌とその時代─明末清初の連綿趣味─
会期: 2017/01/02~2017/02/26 東京国立博物館
会期: 2017/01/04~2017/03/05 台東区立書道博物館
14回目となる東京国立博物館と台東区立書道博物館の連携企画は、明時代に文人として活躍した董其昌(1555~1636)の書画の特集。董其昌は書においてははじめ唐の顔真卿を学び、王羲之ら魏晋の書にさかのぼった。画においては元末四大家から五代宋初の董源にさかのぼり、宋や元の書家の作風を渉猟。文人画の伝統を継承しつつものちに奇想派と呼ばれることになる画家たちの作品の先駆けとなる急進的な描法による作例も残した。董其昌が生きた時代は明王朝から清王朝への移行期。清の康煕帝と乾隆帝が董其昌の書画を愛好したことで、その影響は大きく、その理論と作風は江戸期の日本の書画にも反映されているという。展示は東博会場と書道博物館会場でそれぞれ董其昌前夜から同時代、日本を含む後世への影響までを国内所蔵作品により6つの章で紹介している。出展作品の中でとくに興味深く見たのは、「行草書羅漢賛等書巻(東博会場)」、「臨懐素自叙帖巻(書道博物館会場)」。いずれも唐代の書家・張旭、懐素らがはじめた狂草とよばれる、草書をさらに崩した書だ。
董其昌には書画に関する優れた鑑識眼を持ち、後代にまで影響を与える作品を残した書家としての評価がある一方で、人物的には大いに問題があったようだ。35歳で科挙に及第した董其昌は10年後にいったん官職を辞しているが、その後官職への復帰と辞職をくりかえすなかで権力を濫用し、高利貸しなどによって蓄財、それを広大な邸宅の建築、書画の蒐集や趣味に費やし、美しい女性たちに囲まれて暮らした。本展図録のコラム「画禅室余話─董其昌の光と闇─」では、董其昌の人物面について、こうした興味深いエピソードがいくつか紹介されている。[新川徳彦]
2017/01/10(火)(SYNK)
RAKU MASAOMI 彫刻家 樂雅臣展
会期:2017/01/02~2017/01/17
美術館「えき」KYOTO[京都府]
新進の彫刻家、樂雅臣(1983~)は第十五代樂吉左衛門の次男として、樂茶碗で知られる名家、樂家に生まれた。本展は2016年に制作された最新作、26点を中心とした展覧会。石の彫刻作品はどれもシンボリックで抽象的な形をしている。素材はジンバブエブラックという黒い御影石とオニキスという大理石の2種類で、会場はジンバブエブラック製作品を展示した暗いスペースとオニキス製作品を展示した明るいスペースに分かれている。石という素材のどっしりとした重量感を充分に活かした作品には堂々とした存在感が感じられ、「雄刻」「雌刻」「稲妻」「雷」「雨風」「新芽」「雲海」「雷鳴」といったタイトルからはそれらが自然や生命といった極めて本質的なテーマのもとで創作されたことがわかる。京都国立近代美術館の「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展と会期が重なっていることは偶然ではあるまいが、当代、樂吉左衛門作と次代襲名予定の樂篤人作の茶碗も会場の一角を飾っており、樂家に伝わる創造力の広がりと可能性を感じる展覧会でもあった。[平光睦子]
2017/01/08(日)(SYNK)
茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術
会期:2016/12/17~2017/02/12
京都国立近代美術館[京都府]
樂家の樂焼のはじまりは今から450年前、千利休の指示のもと長次郎がつくった樂茶碗にまでさかのぼる。当代の吉左衛門で十五代を数えるという。本展では一子相伝という形態で途切れることなく脈々と受け継がれてきた、樂焼の技術と精神性を味わうことができる。2015年にロサンゼルス・カウンティ美術館ではじめて開催され、その後、エルミタージュ美術館、プーシキン美術館を巡回し、この度京都での開催となった。初代から当代までを余すことなく網羅した出品作には、重要文化財や茶の湯の名家に伝わる名品が含まれる。いずれも茶道の精神性、「侘び」に通じるといわれる樂茶碗で、色や模様のない、黒あるいは茶一色の手捏ね成形の茶碗である。当代吉左衛門の作品が出品の三分の一以上を占めており、ひとりの作家の30年間あまりの作風の変化を目の当たりにすることもできる。一つひとつの作品に刻まれた挑戦と葛藤の跡には歴史を受け継ぐ重責を跳ね返すかのようなエネルギーと気迫が感じられた。[平光睦子]
2017/01/08(日)(SYNK)
東京凸凹地形─地形から見た東京の今昔─
会期:2016/11/26~2017/02/12
東京都立中央図書館[東京都]
ちょっと調べものがあって訪れた図書館でやっていた展覧会。デジタル標高地形図や微地形模型、あるいは浮世絵に描かれた名所風景などで、東京がいかに起伏に富んだ土地であるかを教えてくれる。特に山の手と下町は文字どおり低地の下町に山の手が迫るかたちをしていて、東京が東西で完全に2分化されてること、そして、水位が5メートル上がるだけで東京23区のおよそ半分が水没することがわかる。でも地形図には反映されてないけど、都心はビルなどの建造物に覆われているので、2階以上の建物は無数の小島となって水面から顔を出すはず。ちょっと見てみたい光景ではある。
2016/12/27(火)(村田真)
震災と暮らし ─震災遺産と人びとの記録からふりかえる─
会期:2016/12/20~2016/12/25
東京や海外にとって3.11は、やはりフクシマの原発事故のイメージが強いが、近くの被災地であり、津波被害が大きかった仙台では、これまで逆にあまり表出されなかった。この企画はふくしま震災遺産保全プロジェクトと連携し、全面的に福島の状況とその後を紹介している。写真、映像、壊れた被災物、デジタルのデータ、言葉、アート作品など、さまざまな手法であの出来事を伝承しようと試みる様子からは、すでに忘却されかねない危機意識も感じられた。これらの展示は、いずれつくられる3.11記念館の常設になるのだろう。
2016/12/22(木)(五十嵐太郎)