artscapeレビュー
鎮西尚一『ring my bells』
2011年04月01日号
会期:2011/03/19~2011/03/25
ポレポレ東中野[東京都]
いま執筆の時点でぼくの鎮西体験は『パンツの穴 キラキラ星みつけた』と『パチンカー奈美』に本作を含めて3本、これらのわずかな判断材料からほとんど当てずっぽうで言うのだが、鎮西作品の本質はミュージカル映画にあるのではないか。『パンツの穴』はまさしくミュージカル映画で、ジャック・ドゥミみたいに野外で登場人物が突然唄いだす。『パチンカー奈美』はミュージカル映画ではないにしても、ある1曲が主人公のギャンブル運を支えるというように、音楽的要素が物語を動かす。なによりミュージカル映画の潜在的な力は「ミュージカルをつくるミュージカル」といった自己反省性にあるはずで、本作『ring my bells』はまさに「音楽をつくる音楽の映画」だ。物語は、男2人が山深い公演で曲を作り、リハーサルを繰り返すなか、図書館司書である幼なじみの女の子が男たちの1人とつきあったり、図書館に毎日やって来る老人と遊んだり、場を揺らす。core of bellsのメンバー2人が出演し、主人公の女の子と唄う彼らの奇怪なレパートリーは重要な要素になっている。幼なじみというだけで、彼らの音楽がさっぱりわからない女の子は、わからないけど歌を口ずさむことで、2人とつながる。core of bellsの強さは「歌」にある。本作はその歌の力を引き出そうとしていた。それに本作では酒もつながりを誘発するアイテム。男2人は山で酒を密造し、女の子は味もわからず老人に勧める。ひとを一瞬でつなぐ歌と酒。そのつなぐ力で物語を転がす分、転がらない状況の持つ可能性へと逸脱することはなかった。そのあたり、同じくcore of bellsとのコラボレーションで映像作品を制作した小林耕平と対照的でもあった。
2011/03/25(金)(木村覚)