artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

ロバート・フランク:ブックス アンド フィルムス, 1947-2017 神戸

会期:2017/09/02~2017/09/22

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)[兵庫県]

巨匠写真家ロバート・フランクと出版人ゲルハルト・シュタイデルがタッグを組んで実現した展覧会。世界50カ所を巡回しており、日本での開催は昨年11月の東京展以来となる(現時点では日本で最後になる模様)。会場はデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の広い吹き抜け空間で、体育館ほどの床面積と天井高を持つ。本展では会場の特性を利用して新聞のロール紙を懸垂幕状に吊るす展示スタイルを採用。広大な空間に負けない広がりと余裕のある空間を実現した。また、吹き抜けに隣接する天井の低い空間は映画上映(長編、短編とも)やコンタクトシートの展示に当てられ、やはり空間づくりの上手さが感じられた。筆者にとってロバート・フランクといえば『THE AMERICANS』であり、その次にザ・ローリング・ストーンズのレコーディングやツアーに帯同した一連の写真、映像が思い浮かぶ。しかし本展を見ると、それらは彼の仕事の一部に過ぎず、意欲的にさまざまな主題や表現手法に取り組んでいたことが分かる。特に写真と手書き文字の組み合わせは興味深かった。ちなみに筆者は、今年の年初から神戸の某画廊主を通じて本展のプランを聞いていたが、その時点で開催の可能性は五分五分だった。この素晴らしい機会を実現してくれたスタッフに、感謝と労いの言葉をかけたい。

2017/09/02(土)(小吹隆文)

第6回EMON AWARDグランプリ受賞作 大坪晶展

会期:2017/08/18~2017/09/09

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

毎年開催されるEMON AWARDのグランプリ受賞者は、EMON PHOTO GALLERYで個展を開催する権利を得る。大坪晶はその第6回目の受賞者で、今回は受賞作の「Portrait and Crowd」のシリーズのほかに、新作の「Portrait of Women」、「種の起源/On the Origin of Species」、そして立体作品の「Collective Memories of a Family─ある家族の集合的記憶」を展示していた。
大坪の作品は、パネルに大量の画像を貼り付けたコラージュ作品である。一見すると、ただのポートレートのようだが、細部に目を凝らすと、それらが豆粒のように小さな群衆の集合写真でつくられていることがわかる。「無数の見知らぬ人々の記憶のつらなり」と「作者の個人的系譜」が重なり合う「Portrait and Crowd」のシリーズは、コンセプトと技術とが完璧に融合した質の高い作品群だった。今回発表された新作の「Portrait of Women」では、その試みをより社会性、歴史性のほうへ押し広げて、樋口一葉、平塚らいてう、ヴァージニア・ウルフという、ほぼ同時代に生きた3人の女性作家、活動家のポートレートをテーマに大作にチャレンジしている。
たしかに、「政治性や社会性について考察するケーススタディ」として面白い試みなのだが、以前の作品に見られた写真そのものの生々しい物質感が希薄になっているので、どこか平板な印象を受ける。第二次世界大戦に従軍した祖父の記憶を辿る「種の起源/On the Origin of Species」や、顔の形の立体にコラージュした「Collective Memories of a Family─ある家族の集合的記憶」のほうが、写真の使用については積極的であり、よりダイナミックな構造を備えた作品として成立していた。このままだと、写真をもとにコラージュすることの意味が、薄れていってしまうのではないだろうか。

2017/08/31(木)(飯沢耕太郎)

Under 35 廖震平

会期:2017/08/25~2017/09/13

BankART Studio NYK 1階ミニギャラリー[神奈川県]

35歳以下の若手作家に発表の機会を与えるU35シリーズの第2弾は、台湾出身の廖震平の個展。彼が描くのは一見ありふれた風景画のようだが、どこか変。例えば木が画面のちょうど中央に立っていたり、画面の枠に沿って四角い標識が描かれていたり、道路のフェンスが画面をニ分割していたり、不自然なほど幾何学的に構築されているのだ。そのため風景画なのに抽象画に見えてくる。というより具象とか抽象という分け方を無効にする絵画、といったほうがいいかもしれない。
1点だけ例を挙げると、巨大な木を描いた《有平面的樹》。右下から斜め上に幹が伸びているが、白くて丸い切り口が画面の中心に位置しているのがわかる。いったんそのことに気づくと、もうこの絵は風景も木も差しおいて、白い丸が主役に躍り出てくる。太い幹や暗い木陰や細かい枝葉は、白い丸を際立たせるための小道具にすぎないのではないかとすら思えてくるのだ。そもそも彼は風景を描いていない。風景を撮影してタブレットで拡大した画像を見ながら描いているのだ。その意味では「画像画」というべきか。だからなのか、彼の表象する風景からはなんの感動も伝わってこない。伝わってくるのは絵画を構築しようとする意志であり執念だ。そこに感動する。

2017/08/25(金)(村田真)

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志賀理江子 ブラインドデート

会期:2017/06/10~2017/09/03

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館[香川県]

今回の展示の中心になる「ブラインドデート」は、2009年の夏にタイのバンコクで撮影された作品だ。展覧会の準備のためにバンコクに滞在していた志賀理江子は、二人乗りのバイクに乗るカップルの女性たちが自分に向ける強い「眼差し」に興味を持ち、それらを「集めてみたい」と考える。知り合ったタイ人の女の子とそのボーイフレンドに協力してもらって、ひたすら夜の街でバイクに同乗するカップルに声をかけ、車で併走しながら写真を撮り続けた。
そのうち「背後から目隠しをして走り続け心中した」というような事件があったのではないかという「妄想」が湧きあがってきた。調べると実際にはそんな事件はなかったようなのだが、それをきっかけとして「目が見えない」というのはどんなことなのかと考えるようになる。タイでは生まれつき全盲のカップルのポートレートも撮影した。その時に盲目の女性が語った、世界中のすべての宗教の生死についての解釈が「私には当てはまらない気がするのです」という言葉に衝撃を受ける。写真家として、視覚に強くかかわる仕事をしている彼女にとって、まったく異質な世界があることに気づいたのだ。
だが今回の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館での展示は、その「ブラインドデート」のシリーズだけに留まるものではない。会場には21台のスライドプロジェクターが並び、さまざまな画像が壁に投影されている。その多くは2012年にせんだいメディアテークで開催された「螺旋海岸」展以降に撮影されたものだ。プロジェクターが画像を送る時の機械音、点滅する赤い光、会場の奥の一角には、臨月の時にエコー検査で録音したという心臓音が響いてくる。さらに最後のパートの壁には長文のメッセージが掲げられている。彼女が今回の展示でもくろんだのは、単に写真を見せるだけではなく、視覚、聴覚、触覚など身体感覚のすべてを動員し、映像も言葉も一体化するような全身的な体験を、観客とともに味わうことだったのだ。
そこから浮かび上がってくる、今回の展示のメインテーマというべきものは「弔い」と「歌」である。志賀は展覧会開催にあたって「もしも、この世に宗教もお葬式という儀式も存在しないとしたら、大切な人が亡くなった時、あなたはどのようにその方を弔いますか?」という問いに対する答えを、アンケートのかたちで募集した。その回答の一部は会場の最後のパートに掲げられているのだが、そのなかに「思い出す、思い出す、思い出す、思い出す、飽きるまで」というものがあった。この死者を「思い出す」ことこそが、写真という表現行為の根幹にあるという考え方が、展示の全体に貫かれている。
もうひとつの「歌」については、まだ明確なイメージは掴み切れていないようだ。だが、いまはまだおぼろげではあるが、もしかすると、歓び、哀しみ、怒りなどを体現した「歌」を求め続けることが、彼女の写真家としての営みの中心になっていくのではないかという予感が僕にはある。東日本大震災以後に、2008年以来住みついていた宮城県名取市北釜を離れ、結婚、出産を経て、いまは宮城県小牛田で制作活動を展開している彼女の「次」の展開が、しっかりと形をとりつつある。

2017/08/20(日)(飯沢耕太郎)

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プレビュー:ロバート・フランク:ブックス アンド フィルムス, 1947-2017 神戸

会期:2017/09/02~2017/09/22

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)[兵庫県]

『The Americans』などで知られる巨匠写真家ロバート・フランクと、「世界で最も美しい本を作る」と称される出版人ゲルハルト・シュタイデルがタッグを組んで、世界50カ所で行なわれている写真展。フランクの代表作約110点をロールの新聞紙に高画質プリントし、額装などせずそのまま貼り出す。また、フランクが監督した映画の上映やコンタクトプリントも展示される。このユニークな企画の発端は、近年ロバート・フランクのオリジナルプリントが高騰し、高額な保険料のために展覧会の開催が難しくなっていることや、同様の理由でコレクターが作品を貸し渋るケースが増えていることにあるという。フランク自身はこうした状況を不健全と捉えており、自分の作品をより多くの人に見てもらうために本展を企画したのだ。本展では展覧会終了と共に展示品(プリント)が破り捨てられる。それもまた、行き過ぎたオリジナルプリント信仰へのメッセージである。なお、本展は昨年11月に東京藝術大学大学美術館で行なわれたが、日本での開催はこの神戸展が最後になる模様。前回見逃した人には最後のチャンスだ。また今回、世界共通の展覧会カタログに加えて、神戸新聞社の協力による神戸展だけのカタログが販売される。こちらにも注目したい。

2017/08/20(日)(小吹隆文)