artscapeレビュー
普後均「肉体と鉄棒」
2017年03月15日号
会期:2017/02/15~2017/02/25
ときの忘れもの[東京都]
「肉体と鉄棒」というのはなかなか面白いタイトルだ。ある日突然、普後均にそのタイトルが「降りてきた」のだという。すぐに近くの鉄工所に赴き、「高さも幅も2mほどの組み立て式の鉄棒を作ってもらった」。タイトルが先に決まるというのは、特に珍しいことではないが、そこから作品に落とし込んでいくときには、周到で注意深い操作が必要になる。普後は、まず新品の鉄棒を数年間自宅の外に放置して錆びさせ、2003年頃からようやく撮影にとりかかった。それから10年以上をかけて、少しずつ数を増やしていったのがこの「肉体と鉄棒」のシリーズである。会場には深みのあるトーンのモノクローム印画、17点が展示されていた。
鉄棒にはさまざまなものが乗ったり、ぶら下がったりしている。ヌードの女性もいるし、バレーシューズを履いた脚、猿、蛇、カタツムリなどの生きもの、氷や医療用器具まである。それらの取り合わせは、当たり前のようでいて、そうではないぎりぎりの選択がされており、ピンと張り詰めた緊張感を覚える。とはいいながら、融通無碍で、どこかユーモラスでもあるのが面白い。ほぼ同時期に撮影していた、貯水槽の丸い蓋の上にさまざまな人物たちを配置する『ON THE CIRCLE』(赤々舎、2012)のシリーズでもそうなのだが、普後は演劇的なシチュエーションを緻密に構築していくことに、独特の才能を発揮しつつあるようだ。このシリーズもぜひ写真集にまとめてほしい。同時に、彼が次にどんな写真の舞台を設定するのかが、とても楽しみになってきた。
2017/02/23(木)(飯沢耕太郎)