artscapeレビュー
篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN
2017年03月15日号
会期:2017/01/04~2017/02/28
横浜美術館[神奈川県]
平日の昼間なのにけっこうな混み具合。チケット売り場の前には列ができている。横浜美術館としては珍しいことだ。エスカレータで昇って正面の壁に、ポスターや宣材に使われたジョンとヨーコの接吻写真。よく見るとふたりともあんまりやる気なさそうだ。最初の部屋は暗い。壁が黒くて写真(巨大プリント)にだけ照明が当てられている。モデルは美空ひばり、夏目雅子、三島由紀夫、渥美清らで、この部屋のテーマは「ゴッド」。みなさん死者ですね。怖いのは美空ひばりの写真で、本人の右に大きな仏壇、左上には母や弟ら親族の遺影が入った黒縁の額が写ってる。画中画ならぬ写真中写真というか、この部屋の黒い壁が一種の黒枠みたいなもんだから、遺影中遺影というべきか。イエイ! ちなみにひばりの写真は粒子の粗さが目立つが、1970年に自害した三島はもちろん、ひばりも夏目もデジタルカメラで撮られたことはなかったはず。彼らはみんな光学時代の神々なのだ。だからなんだ? といわれても、へえそうなんだ! と納得するだけですが。ともあれ、これ以降の部屋に比べても、この部屋は死臭に満ちている。
この後、ピンク・レディー、北野武、南沙織、安室奈美恵、長嶋茂雄、山口百恵、檀蜜ら「スター」のポートレートが続き、歌舞伎とディズニーランドを撮った「スペクタクル」の部屋へ。これは華やか、このケレン味がいちばん紀信らしいかも。これを見ると蜷川実花が紀信の正統な後継者であることがわかる。ひとつ提案だが、ディズニーランドの登場人物や、次の部屋の大相撲の関取たちを撮ってつなげたパノラマ的写真(「シノラマ」なんて呼んでいた)は、継ぎ目が歪んで不自然なので、3曲か4曲の屏風仕立てにしたらどうだろう? 似合うと思う。その次が、大相撲のほか、宮沢りえ、樋口可南子らのヌードがある「ボディ」の部屋で、ここがいちばん混んでいた。そして最後が「アクシデンツ」と題して、被災地を背景にした名もなき被災者たちのモノクロポートレートの部屋。前室の混雑がウソのようにみんなそそくさと去っていく。実際この最後の部屋はとってつけたようにしか感じられなかった。
2017/02/24(金)(村田真)