artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

福島写真美術館プロジェクト成果展+新発田

会期:2016/10/19~2016/11/04

金升酒造二號蔵ギャラリー[新潟県]

会津若松の福島県立博物館を中核として、東日本大震災以後の「文化芸術による福島の復興、未来への模索」をめざして、2012年から展開されているのが「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」。「福島写真美術館プロジェクト」はその一環の企画であり、写真家たちが福島県各地を訪れ、それぞれの視点から写真を撮影・発表してきた。2015年からは、その「成果展」が福島県内だけでなく、長野県大町市、静岡県静岡市・浜松市、京都市などでも開催されている。今回、同展が開催された新潟県新発田町では、2011年から、写真を通じて「まちの記憶」を掘り起こそうとする「写真の町シバタ」というイベントが毎年秋に開催されており、今回の展示は2つのプロジェクトの融合の試みでもあった。
同市豊町の金升酒造二號蔵ギャラリーに作品を展示したのは、高杉紀子、片桐功敦、安田佐智種、本郷毅史、赤坂友昭、赤間政昭、岩根愛、土田ヒロミ、村越としやの9名である。2012年度から参加している作家たちに、今回は高杉、岩根、土田、村越が加わり、より厚みのある成果が披露された。福島県須賀川市の出身で、震災後精力的に故郷を取り続けている村越としやの「福島2015」、奥会津の三島町の「限界集落」を粘り強く記録している赤坂友昭の「山で生きる」、福島県内各地を定点観測的に撮影している土田ヒロミの「願う者は叶えられるか」など、今後もさらに大きく展開していきそうなシリーズが目につく。造り酒屋の蔵を改装したギャラリーの空間も素晴らしく、写真を「見せる」環境の重要性をあらためて感じた。いまのところはまだ「構想」の段階に留まっているが、各地の写真プロジェクトとの結びつきを強めることで、震災の記憶を受け継ぐ「福島写真美術館」が具体的にかたちをとってくることを期待したいものだ。

2016/10/26(水)(飯沢耕太郎)

TWS-Emerging 2016

会期:2016/10/15~2016/11/13

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

村井祐希、水上愛美、桜間級子の3人。村井は「絵画様式のフォーマリスティックな仕事の可能性を、最強のメディウムである『オムライス絵具』と共に追求している!! オムライス絵具とは、ムライが使用するむにゅむにゅした、まるで卵をかき混ぜたような絵具のことである!」とのことだが、展示空間全体をインスタレーションしていてどうも絵画には見えない。おそらく空間そのものを絵画化しようとしているのだろうけど、ファイルで見たキーファーばりのタブローのほうがいいように思う。まあ心意気は買うけどね。水上は2×3メートル程度の大作絵画を中心とする展示だが、大作は木枠に張らず、壁にとりつけた太いバーからカーテンみたいに吊るしている。内容はともかく、絵画の見せ方としては斬新だ。桜間は女性のヌード写真を7点。作者のセルフヌードかと思ったらモデルだそうだ。胸は大きいが、谷間に吹き出物ができてたり、毛深くてワキ毛やスネ毛が気になるなあ。すいません。

2016/10/25(火)(村田真)

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南阿沙美 写真展 MATSUOKA!

会期:2016/10/22~2016/10/30

PULP[大阪府]

今年7月の「ART OSAKA 2016」で出会った写真家、南阿沙美。その際には出展されなかったシリーズ《MATSUOKA!》が、大阪の画廊で披露された。同シリーズは、体格のよい女性を戦うヒーローに見立てて撮影したもの。彼女はピチピチのTシャツ&青い短パンという衣装で、正義のヒーローのように跳んだり跳ねたり転がったりしている。何と戦っているのかは皆目不明だが、その真剣な姿がなぜか心に響き、スカッとした爽快感が駆け抜けるのだ。じつは本作は2014年の「写真新世紀」で優秀賞を獲得しており、彼女の出世作である。約2年ものタイムラグがあったが、見ることができて本当に良かった。

2016/10/24(月)(小吹隆文)

六本木アートナイト2016

会期:2016/10/21~2016/10/23

六本木ヒルズ+ミッドタウン+国立新美術館など[東京都]

昨年まで春に行なわれていたのに、今年は秋に開催。なにか深謀遠慮があるのか、単に準備が遅れただけなのか。調べてみたら、2020年の東京オリパラ関連の「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」に絡めるためらしい。文科省の主催なのできっとお金も出るのだろう。どうでもいいけど。さて、六本木ヒルズでは久保ガエタンの《Smoothie》が注目を集めていた。映像と回転する大きな箱からなる作品で、まず映像だけ見ると、ごく普通の室内風景が映し出されているが、いきなり服や日用品がポルターガイストみたいに舞い踊り始める。そのとき隣の箱は回転しているので、箱の内部が室内のように設定され、そこに固定したカメラが回転し始めた室内を撮影していることがわかる。アイデアとしては珍しくないけど、わかりやすくておもしろいので人気だ。回転ものでは、六本木駅前に設置された若木くるみの《車輪の人》も、場所が場所だけに注目を集めていた。ハムスターなどが遊ぶ回し車を拡大し、若木本人が走り続けるというパフォーマンスで、本当に昼間も夜中も走っていた。ごくろうさんだ。街なかでは、ビルの空き部屋を使ったイェッペ・ハインの《Continuity Inbetween》がすごい。直径10センチほどの穴をあけたふたつの壁を2、3メートル離して向かい合わせに立て、片方の穴からもう一方の穴へ水を飛ばすという作品で、水は放物線を描いて穴に吸い込まれていく。これはどこかで見たことあるけど、見事。屋外では、フィッシュリ&ヴァイスの映像作品《事の次第》をビルの壁に映し出し、駐車場でそれを見るというのもあった。夜中に見に行ったら大勢集まっていた。人気があるというより、みんな終電が終わってほかに行くとこないんじゃないか?

2016/10/22(土)(村田真)

THE PLAY since 1967 まだ見ぬ流れの彼方へ

会期:2016/10/22~2017/01/15

国立国際美術館[大阪府]

1967年に結成され、関西を拠点に活動している美術家集団「プレイ(THE PLAY)」。彼らの特徴は、パーマネントな作品をつくることではなく、一時的なプロジェクトの計画、準備、実行、報告を作品とすることだ。例えば《現代美術の流れ》という作品は、発泡スチロールで矢印型のいかだをつくり、京都から大阪まで川を下った。また《雷》では、山頂に丸太で約20メートルの塔を立て、避雷針を設置して、雷が落ちるのを10年間待ち続けた。中心メンバーは池水慶一をはじめとする5人だが、これまでの活動にかかわった人数は100人を超えるという。彼らの作品は形として残らないため、展覧会では、印刷物、記録写真、映像などの資料をプロジェクトごとに紹介する形式がとられた。ただし、《雷》《現代美術の流れ》《IE:THE PLAY HAVE A HOUSE》など一部の作品は復元されていた。資料展示なので地味な展覧会かと思いきや、彼らの独創性や破天荒な活動ぶりがリアルに伝わってきて、めっぽう面白かった。プレイの活動のベースにあるのは「DO IT YOURSELF」の精神と「自由」への憧れではないだろうか。時代背景が異なる今、彼らの真似をしてもしようがないが、その精神のあり方には憧れを禁じ得ない。

2016/10/21(金)(小吹隆文)

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