artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
岡村昭彦の写真 生きること死ぬことのすべて
会期:2014/07/19~2014/09/23
東京都写真美術館[東京都]
岡村昭彦の「生きること死ぬことのすべて」展は、国際的に活躍したフォト・ジャーナリストの回顧展である。ベトナムの報道写真で一躍注目されるも、しばらく入国を禁止され、アイルランドを拠点にナイジェリア、ドミニカ、アメリカなどの現場をまわる。世界各地の争いの記録から、20世紀の一断面が生々しく垣間見える。
2014/09/06(土)(五十嵐太郎)
磯崎新12×5=60
会期:2014/08/31~2015/01/12
ワタリウム美術館[東京都]
磯崎は長いキャリアにおいてさまざまな顔をもつが、これは建築外の活動に焦点をあてたユニークな企画である。美術、音楽、映像、写真などの諸ジャンルとのコラボレーションの数々が、充実した資料で紹介される。今の日本で跋扈している反知性主義とは、真逆の世界だろう。以前、実際に見学させてもらった軽井沢の書斎も、吹抜けの空間において実寸で再現され、内部に入ることもできる。
2014/09/05(金)(五十嵐太郎)
濱田祐史『photograph』
発行所:lemon books
発行日:2014年8月
「hILLSIDE TERRACE pHOTO FAIR(1)」で購入した写真集の一つが、この『photograph』。昨年(2013年)、Photo Gallery International(P.G.I.)で開催した個展「Pulsar+Primal Mountain」で同じ作品を見たのだが、その時とはだいぶ印象が違った。日常的な場面に射し込み、空間を満たしている「光」の親密な雰囲気が、マット系の用紙に印刷した写真集にぴったりしていて、目に気持ちよく飛び込んでくるのだ。表紙のデザインを複数にして、好きなものを選べるというアイディアもなかなかよかった。
濱田は「印画紙の上で光を描きたい」と考えて、「煙を噴出する棒を制作し、長時間露光した上で」撮影したのだという。たしかにその効果は抜群で、光が煙の粒子によって拡散し、柔らかな帯状になったり、塊のようになったりして、物質性を帯びて目に入ってくる。ただ、その視覚的効果がやや単調なのと、撮影場所の設定がやや場当たり的に見えるのが少し気になる。『photograph』というタイトルも含めて、写真にとっての本質的、根源的な要素である「光」に迫ろうという意思の強さを感じるいい仕事なので、さらにヴァリエーションを増やして、連作として完成させていくといいのではないだろうか。
なお、写真集は700部限定だが、他に六つ切りのオリジナル・プリント一点がついた「スペシャルエディション」が、30部刊行されている。
2014/09/05(金)(飯沢耕太郎)
「hILLSIDE TERRACE pHOTO FAIR(1)」
会期:2014/09/04~2014/09/07
代官山ヒルサイドフォーラム[東京都]
Taka Ishii Gallery、EMON PHOTO GALLERY、PHOTO GALLERY INTERNATIONAL、MEM、ShugoArts、G/P gallery、ZEN PHOTO GALLERY、Picture Photo Spaceなどの、写真を扱う商業ギャラリーにIMA、SUPER LABO、小宮山書店などの出版関係の組織が加わって、「日本芸術写真協会」(FAPA)という団体が2013年12月に設立された。今回、株式会社アマナを「メインスポンサー」として代官山ヒルサイドフォーラムで開催された、写真作品に特化したアートフェア「hILLSIDE TERRACE pHOTO FAIR(1)」は、いわばそのお披露目のイベントということになる。
前述したギャラリーに加えて、YUKA TSURUNO GALLERY、Yumiko Chiba Associates、Gallery Naruyama、POETIC SCAPEなどを加えたギャラリー展示は、さすがに華やいだ雰囲気を醸し出していた。会場の手狭さが逆に密集感につながって、いい方向に働いたのではないだろうか。AKAAKA、MATCH and Company、Shelf、POSTなどが出品した写真集コーナーも活気があって、普段手に入れにくい本が並んでいるのが嬉しかった。ただ、第一回目ということで、まだ顔見世興行的な色合いが強いように思う。ここ数年続けて開催されてきたTOKYO PHOTO (今年は10月3~6日に東京ビルTOKIAで開催)の行方が不透明なだけに、秋を彩る写真作品のアートフェアとして発展していってほしいという期待はふくらむ。2回、3回と回を重ねていく中で、主催者側と観客との、まだどこかよそよそしい関係も、少しずつほぐれて、いい感じになっていくのではないだろうか。
2014/09/05(金)(飯沢耕太郎)
迫川尚子「置いてけぼりの時刻」
会期:2014/09/30~2014/10/09
コニカミノルタプラザ ギャラリーA[東京都]
迫川尚子は、新宿駅地下で営業していて、毎日お客が1500人も入るという人気カフェ、ベルクの副店長をつとめている。そのかたわら、東京・四谷の現代写真研究所で写真を学び、『日計り』(新宿書房、2004年)、『新宿ダンボール村』(DU BOOKS、2013年)の2冊の写真集を刊行した。
主に店に通う行き帰りの路上で撮影されている彼女の写真は、特定の被写体を狙ったものではない。だが知らず知らずのうちに、同じような被写体が多くなっていた。自分が何を撮っているのだろうかと自問自答し、その結果「私の撮る時刻はもっとひそやかな、どこかに忘れてきた時刻です」という答えに至る。それが今回の写真展の「置いてけぼりの時刻」という、とても印象的なタイトルの所以ということになる。
たしかに、今回の写真展には、取り残されてどこか寂し気な子供の姿、ドラム缶やビールケースや自転車などがぽつんとたたずむ片隅の光景が多いような気がする。だが、とりたたてて喪失感のみが強調されているわけではない。原発反対と右翼のデモの写真が両方とも展示されているのを見てもわかるように、何が起こるかわからない路上の出来事を、いきいきとした好奇心を働かせて撮影しているのだ。写真がモノクロームからカラーに変わったことも、いい方向に働いているのではないだろうか。このシリーズもぜひ写真集にしてほしいが、その時には迫川自身の肉声を記したテキストも一緒につけてもらいたい。迫川の写真を見ていると、言葉が欲しくなってくるのだ。
2014/09/02(火)(飯沢耕太郎)