artscapeレビュー

迫川尚子「置いてけぼりの時刻」

2014年11月15日号

会期:2014/09/30~2014/10/09

コニカミノルタプラザ ギャラリーA[東京都]

迫川尚子は、新宿駅地下で営業していて、毎日お客が1500人も入るという人気カフェ、ベルクの副店長をつとめている。そのかたわら、東京・四谷の現代写真研究所で写真を学び、『日計り』(新宿書房、2004年)、『新宿ダンボール村』(DU BOOKS、2013年)の2冊の写真集を刊行した。
主に店に通う行き帰りの路上で撮影されている彼女の写真は、特定の被写体を狙ったものではない。だが知らず知らずのうちに、同じような被写体が多くなっていた。自分が何を撮っているのだろうかと自問自答し、その結果「私の撮る時刻はもっとひそやかな、どこかに忘れてきた時刻です」という答えに至る。それが今回の写真展の「置いてけぼりの時刻」という、とても印象的なタイトルの所以ということになる。
たしかに、今回の写真展には、取り残されてどこか寂し気な子供の姿、ドラム缶やビールケースや自転車などがぽつんとたたずむ片隅の光景が多いような気がする。だが、とりたたてて喪失感のみが強調されているわけではない。原発反対と右翼のデモの写真が両方とも展示されているのを見てもわかるように、何が起こるかわからない路上の出来事を、いきいきとした好奇心を働かせて撮影しているのだ。写真がモノクロームからカラーに変わったことも、いい方向に働いているのではないだろうか。このシリーズもぜひ写真集にしてほしいが、その時には迫川自身の肉声を記したテキストも一緒につけてもらいたい。迫川の写真を見ていると、言葉が欲しくなってくるのだ。

2014/09/02(火)(飯沢耕太郎)

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