artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

いくしゅん「愛。ただ愛」

会期:2014/09/14~2014/09/28

FUKUGAN GALLERY[大阪府]

マンホールの蓋の小さな穴からはい出ようとするネズミ、うんと背伸びしてガラス窓の向こうを覗いているカエル、子どもたちの奇妙なポーズ、普通の人々が醸し出す強烈な違和感……、いくしゅんの写真にはスナップショットの魅力が詰まっている。しかも画面からにじみ出るのは、シリアスな批評的視線というより、愛情のこもった微笑みである。奇跡的な一瞬を切り取った写真を見たとき、われわれは写真家の類まれなるセンスに驚愕する。しかし、いくしゅんの場合は、むしろ奇跡の方から彼に近づいてきたかのようだ。また、連続する複数のショットを3コマ、4コマと並べてショートストーリーをつくり上げる作品が幾つかあり、その手法にも彼ならではのものがあった。

2014/09/15(月)(小吹隆文)

「これからの写真」展、APMoAプロジェクト・アーチ

会期:2014/08/01~2014/09/28

愛知県美術館[愛知県]

メディアで騒がれただけに、鷹野隆大の裸体表現とその対処が話題になりがちだったが、他の作品も充分に興味深い。被災を題材とする新井卓や田代一倫。また鈴木崇、木村友紀、田村友一郎らは、空間や場をつくり、写真の枠組を超える試みだった。とくにモノそれ自体の高解像度の写真を1/1のスケールでモノに張りつけて、表面に対する認識の揺らぎをもたらす、加納俊輔が印象的だった。また常設のエリアでは、美術館があいちトリエンナーレ2010と2013で展示された志賀理江子の写真25点を新規購入したが、黒いフレームに入れ、これまでのインスタレーション的な見せ方とは装いを変えて展示している。APMoAプロジェクトでは、末永史尚が県美の作品をもとに、額縁までを含めた絵画(しかし、絵の中身は表現せず)を制作する。大塚国際美術館の額縁効果を思いだし、ニヤリとさせられる。


鈴木崇《BAU group》展示風景

2014/09/14(日)(五十嵐太郎)

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杉本博司「ON THE BEACH」

会期:2014/08/21~2014/09/30

ギャラリー小柳[東京都]

会場に入ると大きめの紙に黒々と抽象的な形態が見えたので、最初エッチングかドローイングかと思ったら、よく見ると砂浜に打ち上げられた機械の一部のようなものをプリントした写真だった。そりゃ杉本さんの個展だから写真だろうけど、最近はなにやるかわからないからな。砂浜に打ち上げられた機械の一部は自動車の部品だそうで、「海景」シリーズを撮ってるときに気づき、20年以上も撮りためてきたという。今年パリで初めて公開し、写真集『ON THE BEACH』も刊行。遠景のついでに近景も撮ってきて、それも作品にしちゃうなんて、さすがというほかない。でも杉本がここに見ているのは、永遠に続きそうな海のリズムに対する文明のはかなさであり、時間の腐食ということだろう。ギャラリーの入口正面に自動車と同じ鉄でつくられた刀剣を据えたのも、時間を意識してもらいたいがため。

2014/09/12(金)(村田真)

Tokyo Rumando(東京ルマン℃)「Orphée」

会期:2014/09/03~2014/09/20

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

前作の「REST 3000~ STAY5000~」で、ラブホテルでさまざまな人格に変身するという興味深いセルフポートレート作品を発表したTokyo Rumandoが、東京・六本木のZEN FOTO GALLERYで意欲的な新作を発表した。
今回はジャン・コクトー監督・脚本の映画「オルフェ」(1950年)に題材をとり、「鏡」をテーマとして取り上げている。魔界、あるいは死の世界への入口と思しき丸い鏡に、Tokyo Rumandoが自ら扮する妖しいキャラクターが、あらわれては消えていく。ボケや揺らぎなど、鏡に映し出されるイメージにふさわしい効果を巧みに用いることで、現実世界にいる彼女自身との対比がもくろまれているのだ。コクトーへのオマージュを込めた、ややクラシックな雰囲気のモノクロームの画像がなかなかうまく効いていて、ユニークな作品として成立していた、
ただ、あまり大きくないプリントがフレーミングされて並んでいるだけの展示(映画「オルフェ」が壁面にDVD上映されてはいたが)は、ややもったいなかった。せっかく4~6枚のシークエンス作品として制作されているのだから、複数の写真を同じフレームにおさめるとか、鏡そのものを写真と組み合わせてインスタレーションするとか、何か一工夫ほしかった気がする。「鏡」というテーマそのものは普遍的なものなどで、さらに別な形で展開していく可能性を持っているのではないだろうか。なお展覧会にあわせて、ZEN FOTO GALLERYから同名の写真集が刊行されている。

2014/09/12(金)(飯沢耕太郎)

六甲ミーツ・アート 芸術散歩2014

会期:2014/09/13~2014/11/24

六甲ガーデンテラス、自然体感展望台六甲枝垂れ、六甲山カンツリーハウス、六甲高山植物園、六甲オルゴールミュージアム、六甲山ホテル、六甲ケーブル、天覧台、六甲有馬ロープウェー(六甲山頂駅)[兵庫県]

六甲山上のさまざまな施設にアート作品を配置し、ピクニック感覚で山上を周遊しながら作品を体験することで、アートと六甲山双方の魅力を再発見できるイベント。今年で5回目を迎えることもあり、もはや円熟味すら感じさせる盤石の仕上がりになっていた。ただし、円熟味=予定調和ではない。たとえば、バス1台をサウンドシステムに変換させた宇治野宗輝、鉄人マラソンを控えてトレーニング兼パフォーマンスを行なった若木くるみ、会期中ずっと被り物スタイルで作品制作を続ける三宅信太郎など、こうした場でなければ出会えないタイプの作品が多数ラインアップされており、現代美術の尖端性もフォローされているのだ。昨今は地域型アートイベントが全国的に乱立し、アートが地域振興のツールに堕しているとの批判もあるが、「六甲ミーツ・アート」は双方のバランスを上手に保っていると思う。昨年は台風の影響でケーブルカーが長期間不通になるアクシデントがあったが、今年は天候に恵まれて滞りない運営が行なわれるよう期待している。また、今年は「ザ・シアター」と題したパフォーマンス系プログラムが多数予定されている。それらの反応も気になるところだ。

2014/09/12(金)(小吹隆文)

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