artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
マリオ・ジャコメッリ写真展 THE BLACK IS WHITING FOR THE WHITE
会期:2013/03/23~2013/05/12
東京都写真美術館 B1F展示室[東京都]
同館地下の「マリオ・ジャコメッリ」展は、印刷業を続けながら、日曜カメラマンとして活動した写真家を紹介する。白黒の対比が鮮明だ。初期は人物観察の深いドキュメンタリー的な作風だが、徐々に抽象度を上げ、現像時の操作などにより、超現実的な写真へと変わっていく後期が興味深い。志賀理江子に近いテイストの作品もある。壁や街など、一見偶発的に見える写真も、きちんと構図が計算されており、決まっている。
2013/04/20(土)(五十嵐太郎)
「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 北海道・東北編」展
会期:2013/03/05~2013/05/06
東京都写真美術館 3F展示室[東京都]
東京都写真美術館の「夜明けまえ」展を見る。シリーズでやっている日本近代の写真創成期の北海道・東北編だ。写真を通じて、すでに失われてしまった近代建築の姿をいろいろ見ることができる。動かない、新しい被写体として撮られたものだろうが、時間の経過はこれを歴史的なドキュメントに変えていく。また写真で記録された『明治三陸津波写真』や他の自然災害による被害状況も紹介されていた。このときは圧倒的に木造家屋の残骸であることがわかる。
2013/04/20(土)(五十嵐太郎)
プレビュー:リサーチ☆パラダイス 潜水と浮上
会期:2013/05/18~2013/06/09
ARTZONE[京都府]
ブブ・ド・ラ・マドレーヌと山田創平が、2010年から大分・別府で地域住民へのインタビューや地域の歴史・文学などをリサーチして制作したインスタレーションを、ARTZONEバージョンとして展示する。ほかには、京都という地域をカメラで調査する「キョート・サーヴェイ・プロジェクト」に参加した、穐山史佳、金田奈津美、早瀬道生らの写真作品、ファッション業界のルールを越えて服づくりを楽しむ市井の人々をリサーチした、中川めぐみの「野生のデザイナー」などを展示。社会に沈潜している諸々をリサーチすことで、無限に広がる創造の原野を開拓する。
2013/04/20(土)(小吹隆文)
ソフィ・カル「最後のとき/最初のとき」
会期:2013/03/20~2013/06/30
原美術館[東京都]
フランスのアーティスト、ソフィ・カルの作品はおおむね自伝的な出来事、記憶にかかわることが多い。さもなければ、自分自身のパフォーマンスが他者に及ぼす影響がテーマとなる。ところが、今回原美術館で展示された「最後のとき/最初のとき」では、珍しく他者の体験を受容することが起点となっている。いつもの、傷口の瘡ぶたを引きはがすような痛みをともなう強烈な作品を期待すると肩すかしを食うが、これはこれで彼女の「物語」構築能力の高さをよく示す仕事だった。
美術館の2階スペースに展示された「最後のとき」は、盲目の人たちに自分が最後に見たイメージとは何かを問いかけ、その答えとそのイメージを再撮影した写真、さらに彼らのポートレートを組み合わせたものだ。明らかに、生まれつき目の見えない人たちに、彼らにとっての「美しいものとは何か」と問いかけ、その答えとなるイメージを撮影した「盲目の人々」(1986年)につながる作品と言えるだろう。スリリングなテキストと、静謐な写真の組み合わせによって、「見る」という体験の意味が問い直されていく。
1階スペースには、新作の「海を見る」が展示されていた。こちらは映像作家のキャロリーヌ・シャンプティエとの共同作品で、トルコ内陸部に住む人々をイスタンブールの海岸に招き、海を見るという体験の「最初のとき」を撮影した映像のインスタレーションだ。老若男女が登場するのだが、特に老人たちの歓びとも憂いともつかない微妙な表情が印象的だった。ソフィ・カルというアーティストの懐の深さを感じさせてくれるいい展示だと思う。
2013/04/16(火)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2013年4月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
キャパの十字架
若き日、ロバート・キャパの半自伝作品『ちょっとピンぼけ』を読んだ沢木耕太郎さんは、〈見るだけにすぎない〉傍観者として彼に強いシンパシーを持ちました。以来、キャパに関心を持ち続け、その伝説に包まれた出世作「崩れ落ちる兵士」の謎を解き明かすことが積年のテーマとなったのです。スペインをはじめ、世界各地で数度にわたる取材を敢行、その結果、驚くべき地点に立っていることに沢木さんは気づきます。キャパとその恋人、ゲルダ・タローが遺した物語とはーー。渾身のノンフィクション。(IH)
[文藝春秋サイトより]
地域を変えるミュージアム
人がつながり、アイデアがひらめき、まちがもっと元気に、クリエイティブになる。そんな場となり、みんなに嬉しい変化をもたらしているミュージアムがある。藁工ミュージアム(高知市)、せんだいメディアテーク(仙台市)、星と森と絵本の家(三鷹市)、津金学校(北杜市)、理科ハウス(逗子市)……全国各地から厳選した30事例を豊富な写真とともに多角的に紹介。見て・読んで楽しいだけでなく、まちづくりや場づくりのヒントが一杯の一冊です。
[英治出版サイトより]
新宿学
江戸時代の新場と遊郭、玉川上水、大名屋敷が、新宿発展の原点だった。
一日350万人の乗降客を誇る世界最大のターミナル駅を中心に、新宿のこれからを展望する。図版90点・「淀橋・追分・御苑,散策大路・散策小路めぐり」まち歩きガイド付。江戸の宿場町「新宿」のまちの今昔そして「未来図」を、土地利用、都市計画の要素も視野に入れながら、様々な切り口で明らかにする。江戸時代の宿場町として誕生以来、時代を先取りして発展してきた「新宿」のまちの今昔そして未来を、地理地形、街道、遊郭、大名屋敷、上水道、鉄道とターミナル、老舗、歌舞伎町、西口高層街など、土地利用、都市計画の要素も視野に入れながら、様々な切り口で明らかにする。新宿再開発による、緑あふれる「淀橋・追分・御苑 散策大路・散策小路」の実現も提唱。
[紀伊國屋書店BookWebサイトより]
吉本隆明
戦後思想最大の巨人をもっとも長期にもっとも近くで撮り続けた写真家による肖像を没後一年に集成。生涯市井にあったその思考と生活の現場を刻印する記念碑的出版。序文=吉本多子。
[河出書房サイトより]
虚像の時代 東野芳明美術批評選
ネオ・ダダ、ポップアート、デザイン、建築、マクルーハンなどの最新動向を紹介し、戦後の日本美術を拡張した批評家、東野芳明が、1960年代に様々な媒体に寄せたスピード感溢れる批評を収録した。東野芳明というと、マルセル・デュシャンの研究者という印象もあるが、本書では、現代的な観点から、評論をセレクトしている。特に、同時代の芸術状況をメディア論として捉えようとしたテキストや、日記体による同時代の作家達とのやりとりなど、生中継のような批評のあり方に注目して欲しい。また、この時代を共に歩んだ建築家・磯崎新が解説を執筆している。
2013/04/15(月)(artscape編集部)