artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
野村次郎「峠」

会期:2011/02/20~2011/03/01
M2 gallery[東京都]
怖い写真だ。会場にいるうちに、背筋が寒くなって逃げ出したくなった。被写体になっているのは、とりたてて特徴のない道の光景である。作者の野村次郎が展覧会のチラシにこんなコメントを寄せている。
「ある日ふと、立ち入り禁止の林道をのぞいてみたくなった。その先になにがあるかわからないが、とにかく気になって分け入った。足をとられないよう、ゆっくりとバイクを走らせる。長い悪路の砂利道を登りきり尾根に入ると、乾いた空が美しい山肌を照らしていた。そのときはじめてシャッターを切った。剥き出しの山肌の美しさを、ただ淡々とカメラにおさめていく。自分だけの秘密にしておきたい場所。この道がいつかコンクリートになるかと思うと残念だ」
この文章にある通りの「淡々と」した写真が並ぶ。だが、やはり怖い。落石除けのコンクリートや枯れ草に覆われ、時には岩が剥き出しになった崖、その向こうに道がカーブしていく。時折ガードレールに切れ目があり、その先は何もない空間だ。それらを眺めているうちに、なぜかバイクごと崖に身を躍らせるような不吉な想像を巡らせてしまう。そこはやはり「立ち入り禁止の林道」であり、写真家はすでに結界を踏み越えてしまったのではないか。
野村次郎は2009年にこれらの写真を含む「遠い眼」でビジュアルアーツフォトアワードを受賞している(同名の写真集も刊行)。その時も強く感じたのだが、この写真家の眼差しには、現実世界に二重映しに異界の気配を呼ぶ込むところがあるのではないだろうか。
2011/02/27(日)(飯沢耕太郎)
小野寺南「untitled」

会期:2011/02/22~2011/02/27
企画ギャラリー・明るい部屋[東京都]
東京・四谷の企画ギャラリー・明るい部屋は、3月20日のクロージングに向けてメンバーの連続個展を開催している。そのうち小野寺南の「untitled」を見て、この2年の間に彼の表現力が格段に上がっていることがわかった。
今回の展示では、雪がうっすら積もる雑木林のような場所を6×7の中判カメラでやや引き気味に撮影した写真が並んでいた。黒枠のフレームに大全紙に引き伸ばした14点のプリントを余白なしでおさめ、ゆったりと間をとって壁に掛ける。部屋の中央には白布で覆われた小さな机が置かれ、その上に天井から2個の裸電球が吊るされている。その会場構成にまったく隙がなく、見事に決まっているのは、何度も個展を開催してこの部屋の空間を知り尽くしているからだろう。プリントはかなりの黒焼きで、暗部は闇に沈み、グレーの部分は電球の光の具合でむしろ銀色に輝いて見える。樹の枝や草むらがリゾーム状に絡み合う画面の細部に目をこらしていくうちに、小野寺が息を詰めてこれらの眺めを見つめている様子が浮かんできた。むろん重い鬱屈を抱え込んでいるのだが、それがシャッターを切るごとに解放され、少しずつ薄らいでいくのだ。
寒々とした風景に、それでも春の気配を感じとれるような気分が伝わってくる、心に染みる写真たちだった。
2011/02/27(日)(飯沢耕太郎)
西野壮平「WANDERING THE DIORAMA MAP」

会期:2011/02/15~2011/04/02
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
西野壮平は2005年の写真新世紀優秀賞(南條史生選)の受賞者。都市をさまざまな角度から撮影した写真を、コラージュの手法で繋ぎ合わせて再構築していく「DIORAMA MAP」シリーズを一貫して制作し続けている。当初はオリジナル作品をそのまま展示していたのだが、その後スキャニングして大画面にプリントアウトするようになった。大阪、東京など日本の都市からスタートしたこのシリーズも、ニューヨーク、パリ、ロンドン、イスタンブール、香港などに撮影範囲が拡大し、現在ではすでに10都市の「DIORAMA MAP」が完成しているという。基本的にその手法に変わりはないのだが、最近は画面のスケールが一回り大きくなり、より緻密で迫力のあるコラージュ作品に仕上がってきた。このような精巧な工芸品を思わせる技巧の冴えは、日本の現代写真を特徴づける作風として認知されつつあるのではないだろうか。西野もロンドンでほぼ同時期に個展が開催されるなど、その技術力と構想力がアメリカやヨーロッパでも高く評価されつつある。
注目すべきなのは、今回のEMON PHOTO GALLERYの個展でもその一部が展示されていたカラー写真による新作である。「Night」シリーズでは、都市の夜景を撮影してコラージュする。また「i-Land」シリーズではさらに積極的に複数の都市のイメージを自由に繋ぎ合わせ、「空想の都市を表象する」実験を試みている。創作意欲の高まりとともに、写真作家としての次のステップに踏み出していこうとしているのではないだろうか。そろそろ、作品集の刊行も視野に入れていってほしいものだ。
2011/02/26(土)(飯沢耕太郎)
荒木経惟「愛の劇場」

会期:2011/02/18~2011/03/26
Taka Ishii Gallery Photography/Film[東京都]
六本木の青山ブックセンター裏手のピラミデビルに、4つの現代美術・写真ギャラリーが同時にオープンした。オオタファインアーツは勝ちどきから、ワコウ・ワークス・オブ・アートは西新宿から、Zen Foto Galleryは渋谷からそれぞれ移転し、Taka Ishii Galleryは清澄白河の本体に加えて写真・映像部門を新たに開設することになった。森美術館にも近く、絶好の立地条件なので、かなりの観客動員が期待できそうだ。
他の3つのギャラリーは、所属作家の作品を並べただけの顔見せ展でスタートしたのだが、Taka Ishii Gallery Photography/Filmは荒木経惟の個展を開催した。最近見つかったという、キャビネ判の印画紙の箱におさめられた1965年頃の写真シリーズである。65年といえば、荒木がまだ電通の広告カメラマンだった時期で、にもかかわらず会社のスタジオや機材を勝手に使って自分の作品を撮りためようとしていた。内容的にはかなり雑多なシリーズだが、ラブホテルでの二人の女の絡み、ハーフサイズのカメラを使ってひとつの画面に複数の連続場面をおさめる試み、フィルムの高温現像による画像の改変など、のちの『ゼロックス写真帖』(1970年)に通じるさまざまな実験に真面目に取り組んでいるのがわかる。若き日の陽子夫人のういういしいポートレートが含まれているのも興味深い。まさに「その頃の私の女と時代と場所が写っている」意欲作だ。荒木のこのような未発表作品は、これから先ももっとたくさん出てきそうな気がする。
2011/02/18(金)(飯沢耕太郎)
TOKYO FRONTLINE
会期:2011/02/17~2011/02/20
3331 Arts Chiyoda[東京都]
「ニュー・コンセプトのアートフェア」ということで、今年からスタートしたのが「TOKYO FRONTLINE」。元中学校の校舎をフルに使って、盛り沢山の展示が行なわれていた。若手アーティストたち(うつゆみこ、高木こずえを含む)の作品ショーケースとして設定された「FRONTLINE」(1F)、アート、写真、デザイン、音楽、出版などのプレゼンテーションブースが並ぶ「EXCHANGE」(同)、東京を中心に中国、韓国のギャラリーのブースも加えた「GYM」(2F)がメインの展示である。EMON PHOTO GALLERY(西野壮平)、ときの忘れもの(五味彬)、ユミコ・チバ・アソシエイツ(鷹野隆大)、ZEN FOTO GALLERY(中藤毅彦)、The Third Gallery Aya(垣本泰美、城林希里香)など、写真を中心に展示しているギャラリーも多かった。総花的で焦点が結びにくいのは、このようなアートフェアでは仕方のないことだろう。回を重ねれば、地に足がついたものになってくるのではないだろうか。
同時期に3331 Arts Chiyoda本体の企画で、「ギャラリーに属していないフリーの現代美術アーティスト」を中心とした展覧会も開催されていた。その枠で個展を開催していた西尾美也の「間を縫う」(2月11日~3月14日)がかなり面白かった。西尾は1982年奈良県生まれ。今年東京藝術大学大学院博士課程を修了予定である。衣服とコミュニケーションが彼の主なテーマで、「セルフ・セレクト」シリーズはナイロビやパリで出会った若者たちと自分が着ている服を交換するというプロジェクト。「家族の制服」は、西尾本人の家族が20年前の記念写真とそっくりの服を着て、同じ場所で同じポーズを決めるという作品である。どちらも記念写真の様式をうまく使いこなして、知的な笑いを生み出していた。
2011/02/16(水)(飯沢耕太郎)


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