artscapeレビュー

今井智己「光と重力」

2010年03月15日号

会期:2010/02/06~2010/02/28

リトルモア地下[東京都]

今井智己の『真昼』(青幻舎、2001)は鮮烈な印象を残す写真集だった。風景を、そこに射し込む光が最も強い存在感を発揮する状態でフィルムに定着しようという意志が画面の隅々まで貫かれており、一枚一枚の写真がぎりぎりの緊張感を孕んで写真集のページにおさめられていた。それから10年近くが過ぎ、彼の第二写真集『光と重力』(リトルモア)が刊行されたのにあわせて開催されたのが本展である。
展示を見て感じたのは、今井の姿勢が基本的には変わっていないということ。森や公園の樹木を中心にして、道路、橋、カーテン、窓などの被写体を、8×10インチの大判カメラで、静かに、注意深く引き寄せていくような撮影のスタイルもまったく同じだ。だが、どうも微妙なゆるみが生じてきているように思えてならない。光がそのピークの状態で定着されていた『真昼』と比べると、画面に拡散やノイズがあり、テンションを保ち切れていないように感じるのだ。もちろん完璧に近い構図、光の配分の写真もある。つまり、今井の写真のあり方が、見かけ上の同一性にもかかわらず、いま少しずつ変わりつつあるということだろう。そのことを、必ずしもマイナスにとらえる必要はないと思う。以前のように研ぎ澄まされた、尖った雰囲気だけではなく、風景と柔らかに溶け合うような気分の写真もある。「光と重力」の組み合わせ方を、いろいろ試行錯誤しながら確認しているということではないだろうか。

2010/02/13(土)(飯沢耕太郎)

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