artscapeレビュー

2015年06月01日号のレビュー/プレビュー

日本とアメリカ合衆国の協同制作 宮本ルリ子 キャサリン・サンドナス

会期:2015/05/19~2015/05/24

ギャラリーすずき[京都府]

日米2人の陶芸作家が、両国にまつわる歴史をテーマにした作品を発表した。出品作品は6点。うち5点は本のオブジェで、透光性の高い信楽透土で成形した本の見開き部分にさまざまな色の砂がまぶされ、「9.11」(アメリカ同時多発テロ事件)、「3.11」(東日本大震災)などの日付が打たれている。他の日付は、真珠湾攻撃、広島と長崎への原爆投下、終戦記念日、サンフランシスコ条約締結などである。オブジェの表面に付着した砂は、それぞれの事柄が起こった場所で採集したものであり、残る1点の作品(皿)に盛って観客が触れる。本作のテーマは「歴史の共有」だが、特定の政治的・歴史的メッセージを声高に叫ぶようなものではない。むしろ沈黙をもって観客の内省に訴えかけるところがあり、空間を満たす深い静寂が印象的だった。

2015/05/19(火)(小吹隆文)

長野訓子作品展

会期:2015/05/18~2015/05/26

The14th moon LIMITED[大阪府]

刺繍家、長野訓子の個展。出品作は、オリジナルのアクセサリー・ブランド「ga.la」のネックレスやイヤリング、ブローチなどの新作をはじめ、大塚呉服店とのコラボレーションによる帯、インセンスショップ・リスンとのコラボレーション・ワーク、新宿伊勢丹のカタログ撮影のための作品など勢いのある近作が揃っている。
刺繍というからには、作品の大部分は糸と布でできている。柔らかく、優しく、あたたかみのある素材だが、機械刺繍を用いる長野の作品からは明快でシャープな印象をうける。例えば、アクセサリーは青、黒、黄色、ベージュ、グレー、白という引き締まった彩りで女性的というよりはむしろ中性的である。オーガンジーに上下左右相似形の模様を刺繍した作品は、糸で綴った模様をガラス板に挟んで額装したというたいへん繊細なものだが、どこか金属細工のような趣がある。また、インセンスショップ・リスンとのコラボレーション・ワーク「Dream and Color」という幻想的なテーマの連作のなかで、本展に出品された作品は大きなもので1メートルもあろうかという赤い布の花々を吊って濃密な空間をつくりだしたもので、刺繍布のおおらかでのびのびした一面を提示している。
機械刺繍に特有の均質さや硬質さを魅力的に見せる、その作風が多様なコラボレーションを可能にしているのだと思う。同時にある程度の量産ができることで、作品でありながら製品でもありうる。だからこそ、アクセサリーや衣服として、額装された平面作品として、そしてショップの空間ディスプレイとして、あらゆる場面に入り込んでいくことができるのだと思う。もちろん、それ以前に創造力という作家のエネルギーがあってのことではあるが。[平光睦子]


展示風景


2015/05/19(火)(SYNK)

プレビュー:水田寛「中断と再開」、新平誠洙「windows upset」

会期:2015/06/09~2015/07/18

ARTCOURT Gallery[大阪府]

京都を拠点に活動する水田寛と、京都市立芸術大学大学院に在籍中の新平誠洙。ともに1980年代生まれで進境著しい2人の画家が、大阪のギャラリーで同時に個展を開催する。水田の作品は、個人的な記憶や経験に基づくモチーフが、現実的なスケールや遠近法の枠を超えて連鎖・複合を繰り返すのが特徴。複数の作品の組み合わせたインスタレーション的な展示や、絵の一部を切り取って別の絵と縫い合わせる手法も彼の得意とするところだ。一方、新平の作品はシャープでクールな画風が持ち味。ガラスに複数の情景が写り込んだかのように、幾つものモチーフが半透明かつ断片的に重なった作品や、同一モチーフを異なる視点・時間で切り取った作品で知られている。ともに多層的な時空間を描いているが、水田の作品が私的、抒情的であるのに対し、新平の作品は硬質で、光学的、デジタル的とも言える。ほぼ同世代の2人が見せる対照的な世界観を見比べられるのが、このダブル個展の醍醐味だ。

左:水田寛「中断と再開」、右:新平誠洙「windows upset」

2015/05/20(水)(小吹隆文)

プレビュー: Konohana's eye #8 森村誠「Argleton ― far from Konohana ― 」

会期:2015/06/05~2015/07/20

the three konohana[大阪府]

書籍、新聞、地図などの印刷物上の特定の文字を、修正液で消す、カッターナイフで切り取るなどした作品で知られる森村誠。作品は気が遠くなるような作業の集積であり、我々の日常がおびただしい量の情報で埋め尽くされていることを暗示している。今回発表される新作は、情報の不確かさをテーマにしたもの。大阪を中心とした関西圏の様々な地図を活用し、2008年にグーグルマップ上で発見された実在しない英国の町「Argleton(アーグルトン)」のような状況を作り出そうと試みる。紙媒体に書かれた情報やその意味を積極的に変容させる点で、彼のこれまでの活動とは一線を画した新展開となる。

2015/05/20(水)(小吹隆文)

単位展──あれくらい それくらい どれくらい?

会期:2015/02/20~2015/05/31

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

あるモノを実際よりも巨大に、あるいはミニチュアにして人々の感覚とのあいだにズレを生じさせる手法は、アートではしばしば見られるところ。しかし他方でモノの実際のサイズや、重さ、時間の長さなどのスケール感覚は人によってまちまちで、そのものに日常的に親しんでいない限り、差異は必ずしも人に違和感をもたらすとは限らない。PCやスマートフォン、タブレットの普及で、私たちはモノのスケールに関して、ミクロとマクロのあいだを自由に行き来できるようになり、あるいは居ながらにして世界の美術品工芸品を見ることができるようになり、それはそれで「便利」なのだけれども、そこでみたモノと、自身の身体を基準としたリアルなスケール感とが結びつきづらくなっているように思う。そうした人々のスケール感の違いを共通の基準に揃えることが「単位」の役目で、実際に基準となる物差しを示されると、自身に内在する基準と「単位」とのズレに驚かされる。単位展の展示で興味深いのは、ひとつには重さや時間、速さの「単位」と私たちの感覚とのずれを教えてくれるさまざまな仕掛け。もうひとつ興味深かったのは、効率的にスケールを計るための道具たち。例えば「ガラスシクネスゲージ」はガラスに45度の角度で当てて映り込んだ線の位置で厚さを測定する道具。窓枠にはまったままの状態で計ることができる。恥ずかしながら曲尺の使いかたも初めて知った。専門家が使う機能性を極めた測るための道具は、それ自体のデザインもまた魅力的だ。[新川徳彦]

2015/05/22(金)(SYNK)

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