artscapeレビュー

世界のブックデザイン 2021-22

2023年02月15日号

会期:2022/12/10~2023/04/09

印刷博物館 P&Pギャラリー[東京都]

本展は、ドイツ・ライプチヒで毎年開かれる「世界で最も美しい本コンクール」の受賞図書をはじめ、その前哨戦である各国のブックデザインコンクールの受賞図書が一堂に会す展覧会である。書籍などの執筆・編集に携わる身としては、いつも多くの刺激をもらえるので楽しく観覧している。今年も痛感したのは、欧文のタイポグラフィの自由度だ。象形文字や表意文字をもつ日本や中国と違って、欧米諸国は表音文字しかもたない。したがって一つひとつの文字自体に意味がない代わりに、彼らは書体に意味を持たせる。日本では考えられないほど文字を大胆にレイアウトしてそのページに何かしらの意味を持たせるのも、もしかしてそのためではないかと想像する。


展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー


文字の扱いが大胆になると、写真の扱いも大胆になるのか。今年、私がもっとも目を引いた本は金賞受賞の『Met Stoelen』だ。これは「椅子」をテーマにしたオランダの学生作品で、まさに目から鱗が落ちるような写真のレイアウトに挑んでいた。同書の特徴は、椅子の写真を見開きで何ページにもわたり載せていることなのだが、これがひと癖ある手法になっていた。最初は右から左へとページを繰るかたちを取るのだが、途中から椅子の写真が90度傾いた状態で登場するため、読者は自然と本を90度傾け、上から下へとページを繰るかたちを取る。そこで気づくのは、片ページに椅子の背もたれ、もう片ページに椅子の座面が来るように写真がレイアウトされていることだ。つまり本を開いた時に垂直になる形態を生かし、写真でありながら椅子の立体性を再現したのだ。本は2Dであるとばかり思い込んでいたところ、綴じ目であるノドを上手く使えば、3Dにもなることに気づかされたブックデザインだった。

もうひとつ紹介したいのは、日本からの唯一の受賞作である銅賞受賞の藤子・F・不二雄『100年ドラえもん』である。豪華愛蔵版全45巻セットということで、とにかく豪華なつくりだった。まず、ドラえもんの道具のひとつである「タイムふろしき」に全巻が包まれているのが心憎い。ふろしきを解くと、15冊ずつ収まった三つの箱が現われる。箱の表面にはお馴染みのキャラクターたちが金の箔押しで描かれている。1冊1冊の本は小ぶりながらすべてハードカバーで、糸綴じで製本され、色鮮やかなシルクスクリーン印刷によって懐かしの漫画が蘇る。これは明らかに往年の大人のファンに向けたセットだろう。かつて廉価な少年漫画誌で連載された漫画が、まさかこんなにも豪華に生まれ変わり、世界で認められるとは。そのつくり手の気合に感服した作品だった。


展示風景 印刷博物館 P&Pギャラリー



公式サイト:https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/g20221210.php


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