artscapeレビュー
世界のブックデザイン2018-19
2020年02月15日号
会期:2019/12/14~2020/03/29
印刷博物館 P&Pギャラリー[東京都]
インターネット情報や電子書籍が台頭している昨今、いまだ「世界で最も美しい本コンクール」が開催され続けていることを幸せに思いたい。同コンクールはドイツ・エディトリアルデザイン財団が主催する国際ブックデザインコンクールだ。毎年30か国以上が参加し、各国のブックデザインコンクールで受賞した作品のみを出品させている。昨年度は2019年2月にドイツ・ライプチヒで同コンクールの審査会が行なわれ、3月にライプチヒ・ブックフェアで全応募作品の展示と授賞式が開催された。
本展は同コンクールの入賞作品と出品国のうち日本やドイツ、オランダなど7か国からのコンクールの入選作品170点をそろえた展覧会だ。会場では実際に作品を手に取って見ることができた。入賞作品は金の活字賞1点、金賞1点、銀賞2点、銅賞5点、栄誉賞5点で、日本からは栄誉賞1点が選ばれた。ちなみに日本の作品は、近年、必ず1点は入賞している。同コンクールではデザインコンセプト、機能性、タイポグラフィー、素材の選択、印刷、製本などの観点から審査されるという。その点で、金の活字賞に選ばれたオランダの作品『AMSTERDAM STUFF』はすべてのバランスが取れた本と言えた。Stuffとは「もの」という意味で、アムステルダム川底から発掘された日用雑貨や工芸品など1点1点が丁寧にレイアウトされた内容だった。薄い紙の質感が手触り良く、何よりシンプルで力強い表紙は目を引いた。
金賞に選ばれたオランダの作品『Robert F. Kennedy Funeral Train(ロバート・F・ケネディの葬送列車)』は印刷や製本において感心した。これはタイトル通り、1968年に暗殺された米国大統領候補ロバート・F・ケネディの遺体を運ぶ葬送列車の写真集だ。ニューヨークからワシントンに向かう葬送列車を見送るため、当時、大勢の人々が線路に並んだという。その当時の写真を収集し編集しているのだが、全ページが袋とじとなっている。かといって袋を開くことが目的ではない。袋とじにすることで前小口の部分にも印刷が可能となり、長い列車が途切れることなく、めくった次のページにも続くという仕掛けなのだ。こうした手法があるのかと膝を打った。
銀賞に選ばれたオランダの作品『Anne Frank House(アンネ・フランク・ハウス公式カタログ)』も製本のアイデアが優れていた。これは『アンネの日記』で有名なアンネ・フランク一家が隠れ住んでいた家の様子や生活状況をまとめた図録である。いわゆるがんだれ表紙を採用しているものの、表紙が内側に折り込まれているのではなく、外側に折られているのが特徴だ。当然、読者は外に飛び出した表紙を最初にめくるのだが、めくったところで本文には行き着かず、隠れ家の内壁の写真が見えるだけである。こうした演出をすることで、行き止まり感や不安感を暗に伝える。また全ページが両観音折りとなっており、やはりめくる行為で、内部をこっそりと覗き見するような感覚を覚える。ほかの入賞作品にも独創的な編集やレイアウト、印刷、製本を見ることができた。何でもそうだが、造本においても固定概念に捉われていては面白い本ができないということを学んだ。
公式サイト:https://www.printing-museum.org/exhibition/pp/191214/
2020/02/05(水)(杉江あこ)